第玖話 思惑
=============稽古十五日目===================
僕は、部屋の強度もかなり上がり内装もかなりまともなものになった。
「これなら、もう教えることもなさそうですね」
「そうですか」
「ああ、それと移動系スキル適正もあったはずだ」
「ええ」
「ならば、フォールヴァーンのスキルも教えてもらえば?」
「ああ、なるほどあの瞬間移動の?」
「ええ、私もよく分かりませんが」
あっ、分かんないのね。
「あと、入学は試験を受けてもらうそうです」
「別に、分かってることじゃない?」
「そうでしたか」
「魔王ンダボレア=マジク=エレキデス第一補佐官殿、魔王ンダボレア=マジク=エレキデス様が呼ばれております」
「誰だ?」
「はっ、国防局陸軍大佐タールグ=フォン=ドリエイクであります」
「ああそうか、ご苦労、大佐」
「勿体無きお言葉。それでは、小官はこれにて」
「ということだ、ミコト殿。私はこれにて魔王様の方へ向かう」
「分かった。じゃあ、僕はバレの様子見てこよっかな」
僕は、そう言ってバレのところへ向かった。
一方、バレはというと…
「ふむ、これで基本的な方術は教え終わったし次は応用かの?残り日数はあと十日、バレリントスの習得スピードにもよるか」
「そうですか」
「バレ~、調子は?」
「御主人様!」
「で、調子は?」
「上々じゃ」
エゴノミクストが笑いながら言った。
「へ~流石」
「そんな、私よりも御主人様の方が凄いですよ」
「ん~、僕から見ればバレは僕に出来ないことが出来る優秀な使い魔なんだけど?」
そんな僕の言葉を聞いていたバレはうるうると今にも泣きそうな顔をしていた。
「御主人様、やはり私は貴方に使えて良かった。今まで数千人という莫大な人数の人間を見てきましたがやはり貴方は普通とは違います」
「そうなんだ」
「ええ、今までの人間はずかずか山に入り込んどいて開拓をしようとしたり私を捕まえようとしたり殺そうとしたり、うんざりしますよほんと」
「そんな輩いたの!?」
「ええ、まあ全員土に還って頂きましたけど」
まあ、要するに○したということだろう。いやまあ誰でも分かると思うけど。
とはいえ、僕も下手すればにた運命に……ああ、やめよ、考えるだけでこえ~
「えーと、うんまあ、勝手に入ってくるのが悪いってことで」
「そうですよ、その点御主人様に関しては魔力的に勝っているのに謝りますし、ドラゴン目的でもないし」
「というか、僕からするとあの山にドラゴンが住んでるってことも魔力的に勝ってることも自覚してなかったし他人の土地に入ったなら謝るのが当然かな~って」
「お主、真面目じゃの~」エゴノミクストがからかい口調で言う。
「そうなんでしょうか?」
「まあ、何はともあれ私の方術の方は良い感じということで」
「うん、そうだね。あと、ブレミクセさんの方も見たいな」というのも、ブレミクセさん魑魅戦後からずっと寝込んでいるのだ。
エゴノミクストの話では精神的な問題らしいが取りあえず欠かさずに御見舞いには行くようにしている。
「では、私はいつも通りに」
「うん、そうしてくれるとありがたい」
その頃、魔法師教会では……
「教祖よ、我らの差し金は全て弾かれましたぞ!どうするのですか!?」
ある一人の老人が言う。
それに対し[教祖]と呼ばれる老紳士は「計画の第五項に入ろう。五項なら奴もフフッ」老紳士は怪しげに笑う。
「第五項でございますか、しかし先日の暗黒聖典傘下の磊塊聖典も深傷を負ったのですぞ」
「フフッ、何のための裏軍だい?」
「なるほど、暗澹聖典ですか」
「そうだ、魔王の手の者が探りを入れたようだけどその程度では裏軍は見つからないよ」
「暗澹聖典の何処を御使いに?」
「全てさ、どちらにせよ魑魅も協力してくれたしね。そうだね、決行は一ヶ月後、それまで手出し厳禁だよ」
「はっ、全ては神の御意志のままに」
そのころ魔王城では……
「魔王様、役者は出そろいました。決行は?」
「三週間後、その位に計画を実行しよう。あと、ミコトたちの大学の推薦枠は?」
「はい、用意しております」
「よろしい、ミコトは何処まで行けるか楽しみだな」
「ええ、まさか魔王様があのような者たちを招き入れるとは」
「奴らを殺すための理由作りにはちょうどよかろう。最悪、人間どもの戦争に巻き込まれかねん」
「ええ、戦争に巻き込まれることを望むものなどいますまい」
「いや、魔界のバカどもは戦争を望んでいると聞く」
「そんなことが、あちらのナリトン様は」
「やつも、戦争を望んでいると聞く」
「なんですと、あと三日ほどで総合魔王会議があるというのに」
「ふっ、良い機会ではないか。奴を殺すには」
「ナリトン様を?」
「ああ、魔界のアホどもを纏めて納めるには良い機会ではないか」
「流石でございます。私はこれにて。我ら一同死ぬまで魔王様の配下でございます」
「ああ、後でミコトを我の部屋に呼んでおけ」
「かしこまりました」
「そういや、さっきヴォンエリが呼んでたな」
「ヴォンエリ様が?」
「うん、ンダボレアの部屋に来て~って」
「というか、ンダボレア様のお部屋は?」
「えーと、確か地図があったはず。確かこの辺にいれたんだけどな~」
「御主人様、なんで空中でごそごそしているのでしょう?」
「ああ、魔法でね。イアルハースターっていう便利系の魔法でね」
「なるほど」
「おっ、これこれ」
僕は、大体自分の身長の半分はあるであろう巨大な地図を床に広げた。
「えーと、今はここですよね」
「うん、でここが報告とかするとこで……あー、ややこしい!」
「ここでは?」
「いや、ここは医務室」
「あの~、お困りですか?」
「ん?どちらさん?」
「ああ、申し遅れました魔法大学理事長サルデフォン=グファレリウスです。以後お見知りおきを」
「ああ、これは御丁寧にありがとうございます。僕はミコト=イグナスと申します」
「あなたがミコトさんですか」
「ん?なにか?」
「いえ、お噂はかねがね」
「何の噂ですか?」
「聖霊三王と聖霊女王と契約をしたと、しかも魔法師教会の磊塊聖典を一掃したとか。魔界ではポピュラーな話題ですよ」
「めっちゃ拡がってるし。というか、魔界!?」
「はい、それはそうとなにかお困りで?」
「ええ、ンダボレアの部屋に行きたいのですが」
「あっ、それならここを突き当たりに行って右に曲がってエレベータに乗れば直ぐですよ」
「それは、御丁寧に」
「いえいえ、では私はこれにて」
「はい、さよなら」
僕は案内された通りに行った。しかし、道が長すぎて半日も掛かったという。
「ンダボレア~いる~?」
「はいはい、今開けるのじゃ」
ンダボレアがドアを開けるまでのタイムラグ約一秒。
「もしかして、待ってた?」
「いや、魔法で開けたのじゃ」
「うん、分かってた。分かってたけど」
「それはそうと、ミコトを魔法大学の特待生枠に無理やり突っ込んでおいたのだ」
「無理やり!?」
「そうじゃ、あのアホ理事長が特待生は入れない!何て言うから権力を行使してやったのだ」
「それ、大丈夫?」
「大丈夫だと思うのだ」
「まじで、大丈夫かよ」
「それはそうと、魔法大学の場所知ってるのか?」
「この辺じゃないの?」
「いや、ここは表、つまり本当の住みかではないのだ」
「じゃあ、魔界?」
「そうなのだ、こちらは政府機関専用の土地なのだ」
「あー、なるほど。確かに政府関係者しか見たことないや」
「まあ、そういうことで魔法大学は魔界にあるのだ」
「というか、魔界ってどんなとこ?」
「簡単に言うと悪魔と魔族が暮らす地獄的なとこなのだ」
「今の説明だと完全に危険地域だぞ」
「……、あっそうなのだ。ミコトに言っておく事が」
「否定しないんですね、そうですか」
「まあ、そんなことはほっておいて。魔法大学の荷物は届いたか?」
「あの、でっかい箱みたいの?」
「そうだと思うのだ」
「ていうか、魔界への行き方とか知らんけど?」
「そこに関しては大丈夫なのだ。こちらで魔動車を手配しておいたのだ」
「ありがと、ンダボレア」
「友人だからな」と言いながらドヤッていたがそこはスルーしておいた。