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2-2

水江の街に着いたのは、江戸川町を出てから約4時間後だった。


元の世界なら徒歩で10分ほどの距離なのに、歩きではこんなにも時間がかかるとは思わなかった。

街に入ると、案内用の地図が記された看板が目に入る。さて、まずはどうしようか……。


ギルドの支部があるようだ。

リュカから聞いていた通り、冒険者として自分を登録しなければ、モンスターを倒しても報酬が得られない。加えて、冒険資金を稼ぐために依頼を受けるのも良い考えだ。依頼内容はモンスター退治や素材集めなど、ゲームの世界でよく見るようなものばかり。幸い、この周辺で解決できる仕事が多いらしい。


とはいえ、まずは腹ごしらえだ。エドガー平原を越えるのに体力を使い果たしてしまった。

街を見回すと、懐かしい店の看板が目に飛び込んでくる。牛丼チェーン「ヤシの家」や、ファストフードの「ファンタッキーチキン」。


「こんな世界でも見慣れた店があるのか……」


元の世界から丸ごと取り込まれたような景色にほっとする。ここなら知り合いに会えるかもしれないという期待も湧いてきた。


とりあえずヤシの家に入ることにした。牛丼を食べるのは久しぶりだ。


店内はカウンター席が並び、そこに数人の客が座っていた。だが、どこか異様だ。変わった服装をしている客が目につく。異界の住人なのだろうか。深く考えないことにする。


ジュンはカウンターの空いた席に腰を下ろし、店員に注文した。


「牛丼一つ、ご飯大盛りで」


「はい、かしこまりました」


店員は手際よく注文を通し、厨房で調理を始めた。その姿に安心感を覚える。


「この世界で牛丼が食べられるなんて、思ってもみなかったな」


数分後、目の前に牛丼が置かれる。見た目も香りも元の世界そのままだ。箸を手に取り、一口食べると、記憶通りの味が口の中に広がった。


だが、そんな静かな食事の時間も、他の客の騒ぎ声に遮られた。


「なんだ、これは?」


「お客様、どうかされましたか?」


「こんなものを、この2本の棒で食べろっていうのか?食べづらいだろ!」


箸を扱えないのか、男が怒鳴っている。店員がすぐに謝り、スプーンを用意すると告げたが、男はさらに高圧的な態度を取る。


「迷惑かけたんだ。当然、タダにするんだろうな?」


店員が困惑して黙り込む中、ジュンは眉をひそめた。悪質なクレーマーだ。思わず注意しようとしたその時――隣の席にいた女性が先に口を開いた。


「ちょっと、あんたたち、うるさいよ!」


「あ?なんだ、この女!」


「食事中くらい静かにしなさいよ。それに、出された料理に文句つけてタダにしろなんて、どれだけバカなの?」


「な、なんだと!」


女性の痛烈な言葉に男たちは激昂し、椅子を蹴って立ち上がる。


「おい、この女、ただで済むと思うなよ!覚悟できてるんだろうな?」


これ以上放っておけない。ジュンは席を立ち、二人の間に入った。


「まあまあ、落ち着こうよ」


「なんだ、てめえは?」


「2対1で女性相手に声を荒げるのはどうかなと思ってね。それなら外で話をしてくれないか?」


「正義の味方気取りかよ?」


「いや、ただ静かに食べたいだけだよ」


その言葉が火に油を注いだのか、男の一人がジュンに向かって拳を振り上げる。


――パシッ。


ジュンはその拳を軽々と受け止めた。そして、相手を制圧するような姿勢に持ち込む。


「い、痛え!お、おい、まいった、降参だ!」


男たちは捨て台詞もなく逃げていった。


「リュカとの修行のおかげだな」


ジュンは拳を緩めながら、静かに呟いた。

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