18-3
小台場島――。
この島も元々は異界のどこかにあったらしい。
だが、世界改変に巻き込まれ、この海の真ん中に飛ばされてきたのだという。
かつては大きな港を持ち、交易の要所として栄えていた。しかし、**「結界」**に閉じ込められてからというもの、船の往来は途絶え、今ではひっそりと静まり返るばかり。
「――これが、この島の現状よ」
リンゴが静かに言った。
「つまり、私たち……この島に閉じ込められたってこと?」
ルイーザが不安げに呟く。
「残念だけど、そうなるわね」
「……島から出る方法は?」
ジュンの問いに、リンゴは眉をひそめ、申し訳なさそうに首を横に振る。
「分からないわ。ごめんなさい」
その一言が、島に漂う閉塞感をより一層際立たせた。
「ううん、リンゴのせいじゃないよ」
「……それにしてもジュン、この状況は参ったわね」
「……ああ。どうしたものか……」
普通に考えるなら、この結界を張った張本人を探し出し、倒すか交渉するのが王道だろう。
だが、その相手が誰なのか、どこにいるのか――まるで見当がつかない。
「そもそも、なんで私たちだけは島に上陸できたのかしらね?」
「それも謎だな……」
島を出る方法が見つかったとしても、もう一つの問題がある。
「仮に島を脱出できたとしても……あの海をウロウロしているクジラのモンスターをどうするか、って話になるわね」
リンゴの指摘に、ジュンとルイーザは思わず顔を見合わせた。
「……まあ、私たち、そいつのせいでこの島に流れ着いた訳だけど」
「でしょ?だったら、ここにいた方が安全じゃない?少なくとも、この結界がある限り、あの怪物がこの島に上陸することはないはず」
リンゴは少し熱っぽくそう言った後、はっと我に返ったように視線をそらした。
「……ごめんなさい、ちょっと熱くなっちゃった」
「何か事情があるの?」
「……ううん、大丈夫」
言葉とは裏腹に、その表情はどこか寂しげだった。
ジュンはそれ以上追及するのをやめ、静かに話題を変えることにした。
「俺たちには、ここに留まるって選択肢はないんだ」
「……どうして?」
「始まり異界を見つけるためさ」
ルイーザが、リンゴに「始まり異界」のことを説明し始める。
彼女はジュンと共に異界を巡る旅をしていること、そして今までの冒険について話した。
「――だから、私たちは旅を続けなくちゃいけないの」
話を聞き終えたリンゴは、少し考え込んだ後、静かに呟いた。
「……そうなのね」
その言葉はどこか寂しげで、けれど、納得したようでもあった。
「とにかく、事情は分かったわ。私が知る限りの情報はすべて提供する。ここから先、この島を脱出できるかどうかは、あなたたち次第よ」
そう言って、リンゴは一枚の地図を机の上に広げた。
「これが小台場島の地図よ」
ジュンとルイーザは食い入るように覗き込む。
全体的には普通の街の地図に見える――ただし、一点を除いて。
村を抜け、北に向かって不自然に伸びる長い一本道。
「……この一本道は?」
「村の背後に、巨大な山があるわよね? もしかして、この道はその山に続いているの?」
ルイーザの問いに、リンゴは頷く。
「ええ。その山の名前は……マクロマウンテン」




