18-2
「さて、島から脱出したいところだけど……」
ジュンはそう言いながら、ふと足元を見下ろした。ワッフルの体には無数の傷があり、所々血が滲んでいる。
「……酷い怪我だな」
自分とルイーザを必死で助けてくれた証だ。こんな状態で無理をさせるわけにはいかない。ワッフルに頼るのは諦めるべきだろう。
「そうね……それに、この島って船が通るはずなのに、ここ数日まったく来ていないのよ」
「船が来ない?」
ジュンは眉をひそめた。
ここはサウスエンドランドと西洋町のちょうど中間にある島。普段なら、一時間に一便ほどの船が行き来しているはずだ。
なのに、今は一隻も来ていない。
「でもさ、あそこに船があるじゃん」
ジュンが指差した先には、港に停泊する数隻の船の姿があった。
「だったら、それに乗せてもらえばいいんじゃないのか?」
「……それが、一番の謎なのよ」
ルイーザは神妙な顔で続けた。
「この島から船で外に行こうとすると、何か見えない壁みたいなものにぶつかるんだって」
「壁……?」
「たぶん、結界か何かが張られているのよ。だから誰も島から出られない」
「結界か……でも、僕たちは普通に上陸できたよな?」
「そうなのよ。そこがまた謎なの」
ジュンは腕を組んで考え込んだ。島に閉じ込められた人々、消えた船便、そして見えない結界。
この島……何かがおかしい。
「とりあえず、拠点を確保しよう。しばらくここで過ごすことになりそうだし、情報も集めないと」
「その辺は任せて!」
ルイーザが得意げに胸を張る。
「そう言うと思って、もう拠点は確保しておいたんだから!」
「お前……本当に頼もしいな」
こんな時でも前向きで行動力のある相棒に、ジュンは心から救われる思いだった。
「じゃあ、案内してくれ」
「うん!こっちよ!」
ジュン、ルイーザ、そしてワッフルは、島の村へと向かった。
彼らが流れ着いた浜辺から少し歩いたところに、小さな村があった。その中にある宿屋が、今回の拠点になるらしい。
「村の人たちに事情を話したら、泊まっていいって許可をもらえたの!」
宿屋の扉を開けると、中には和服姿の少女がいた。
まるで侍のような出で立ち。腰には一本の刀が帯びられている。
少女は穏やかに微笑みながら、ルイーザに向かって言った。
「お帰りなさい、ルイーザさん」
「ただいま!彼は私の相棒、ジュンよ」
「どうも、ジュンです。急にこんな島に流れ着いてしまって、泊まる場所もなくて不安でした。でも、助けていただいてありがとうございます」
「いいのよ。こんな状況だから、宿を利用する人もいないし」
少女は軽く微笑み、続けた。
「遅くなったけれど、自己紹介をするわね。私はリンゴ。富士宮リンゴよ。よろしく。そして——」
彼女は優雅に一礼しながら言った。
「ようこそ、小台場島へ」
ジュンは彼女の言葉を聞きながら、この島がただの島ではないことを確信した。
この島には、まだ何かある——。




