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――さようなら、サウスエンドランド。
色々あったけれど、今ではいい思い出だ。
船の上でそんなことを考えていると、クロックが近づいてきた。
さっきまで、フーラン村の人たちと再会していたようだ。
頬には涙の跡が残っている。
「フーラン村のみんなとも、ちゃんと話せたみたいだな」
「ああ、懐かしい顔ばかりだったよ。嬉しかったけど、やっぱり寂しくもあったな」
クロックは小さく笑いながら、少しだけ空を見上げた。
「これから、どうするんだ?」
「オイラかい? まだ詳しくは考えてないけど……村に戻ったら、旅立ちの準備 をしようと思う」
「旅立ち?」
「うん。オイラ、世界一の鍛冶師 になるのが夢なんだ。そのためには、色んなものを見て、学ばないといけないと思ってさ」
クロックの声には、迷いのない力強さがあった。
「自分の村の中だけじゃ、視野が狭い。だから、もっと広い世界を知りたいんだ」
「そっか……」
改めて思う。クロックは本当にすごいな。
自分の道をしっかり見つめていて、それに向かって歩き出そうとしている。
「なんだかんだ言って、クロックの装備には何度も助けられたよ。きっと、お前なら最高の鍛冶師 になれるさ」
「本当か? それなら、またいつかオイラが作った装備を使ってくれよ!」
「もちろん。楽しみにしてる」
そう言うと、クロックは嬉しそうに笑って、フーラン村の人たちのもとへ戻っていった。
自分はしばらく、ただ海を眺めていた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
ふと思う。
もし自分も、クロックくらいの年齢のときに、こんな風に大きな夢を持てていたら――人生は違っていただろうか。
まっすぐ前を向いて、自分の進むべき道を信じられていたら、今とは違う自分になっていたかもしれない。
クロックが、少し眩しく見えた。
でも――
今の自分にだって、夢がないわけじゃない。
「始まり異界に行く」
そんな途方もない目標だけど、それでも俺は、そのために本気で頑張っている。
ここまで一つのことに熱中したのは、たぶん初めてだ。
これまでは、色々なことに手をつけても、どこかで挫折して、諦めてしまうことばかりだった。
けど、今の探検隊の旅は違う。
これは、僕が 初めて本気で向き合えるもの なんだ。
だったら、立ち止まっている場合じゃない。
この旅を、何としても乗り切る。
そうして、必ず自分の夢を掴んでみせる。
僕は、船の上で静かに拳を握った。




