17-1
タルテン鉱山の解放に続き、第二、第三の都市であるマルクスとビレアもアスター軍の手によって解放された。
これらの勝利は、サウスエンドランドの戦況を劇的に変え、アスター軍の士気を高めていく一方で、リフィリアの貴族クラーンに恐怖と焦燥をもたらしていた。
「こ、こんなはずでは……!」
クラーンは荒い息を吐きながら、デスクにしがみつくようにして呟いた。
最初は些細な悪事だった。サウスエンドランドの開拓で得た利益を少し誤魔化し、自分の懐に入れる。それだけだった。
しかし、欲望は次第に膨れ上がり、今では島全体を巻き込むクーデターと戦争へと発展してしまった。
「まあ、当然の結末だな。悪党にはピッタリだよ」
不意に背後から低い声が響いた。
「き、貴様は……ルーリッヒ!」
振り返ったクラーンの前には、大柄な男――カラスカ団のリーダー、ルーリッヒ・カラスカが立っていた。
その顔には薄ら笑いが浮かび、冷酷な視線がクラーンを射抜いている。
「そもそも、貴様らカラスカ団がアスター軍の足止めをできなかったから、こうなったのではないか!」
クラーンは怒りをぶつけるが、その声には焦りと怯えが滲んでいた。
「おっと、耳が痛いねえ。けどな、敵が思った以上に手強かったんだよ」
ルーリッヒは肩をすくめ、悪びれる様子もない。
「くっ……このままでは、ワシの地位が……」
クラーンは震える手で額を押さえた。
(コイツはもう終わりだな)
ルーリッヒは冷めた目でクラーンを見下ろし、内心で見限ることを決めた。
「レクス!」
鋭い声で呼びかけると、静かに現れたのはルーリッヒの片腕であるNo.2の男、レクスだった。
「なんだい、ボス?」
「戦いの勝敗は見えた。ここは引き上げる」
「撤退か?」
「そうだ」
その一言に、クラーンは顔を青ざめさせた。
「ま、待ってくれ! ワシを見捨てるのか……?」
「そりゃ、こんな負け戦にいつまでも付き合うほど暇じゃねえからな」
「ま、負け戦だと!?」
ルーリッヒの言葉に、クラーンはついに膝をついた。
自分が敗北を認めざるを得ない状況に追い込まれたことを、痛感していた。
「おいおい、ここまでやっておいて、もう降参か?」
別の声が響くと、そこに現れたのは、サウスエンドランドの支配を目論む張本人、リーダスだった。
「リーダス殿……」
クラーンは縋るような目でリーダスを見上げる。
「ワシはアンタ達の指示通りに動いた。そんなワシを見捨てるつもりか?」
「見捨てるつもりはないさ。ただし――」
リーダスの口元が冷酷に歪む。
「お前がこれからも組織の駒として動き続けるなら、な」
「……捕まるのはゴメンじゃ!」
クラーンは即座に答えた。その姿はもはやプライドを失った男のものだった。
「なら話は早い。ルーリッヒ、クラーンを連れて次の場所に向かえ。あそこなら簡単には落ちない」
「いいだろう。けど、アンタはどうする?」
「この戦争を終わらせるために、アレを動かす」
その言葉に、ルーリッヒは目を見開き、そして不敵に笑った。
「アンタ、随分と酷いことをするもんだな……これでアスター軍もおしまいだ」
部屋には緊張感が漂い、戦いの幕引きが近づいていることを感じさせた。
果たしてリーダスが動かす“アレ”とは何なのか――それが戦場に投じられる時、アスター軍は試練の時を迎えるのだった。




