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「そうね、この村の男性たちはほとんど村の外に出稼ぎに行ったわ。この村だけだと産業はないからね。まあ、その結果、こんなに人が少ないけど……」
ウェンディが少し寂しそうに言うと、近所のおばさんが明るく笑い飛ばした。
「何言ってるの、ウェンディちゃん。外で働いてる人たちのおかげで私たち元気にやってるんだから、それこそ感謝よ!」
その言葉に、村人たちの穏やかな笑顔が重なる。確かに、この村の人々は不自由どころか、満ち足りた表情をしている。幸せそうな空気が、そこかしこに漂っていた。
「まあ、確かにそのおかげで私も外に出るきっかけをもらったわけだし……」
ウェンディがぽつりと呟くと、おばさんが目を細めた。
「本当よ。ウェンディちゃんが立派なヒーラーになったって聞いた時、ご両親もすごく喜んでたわ。」
「……あ、そうだ。お母さんとお父さんは?」
その問いが投げかけられた瞬間、周囲の空気が急に静まり返った。村人たちの明るい表情が、一瞬にして曇る。
「……」
「……やっぱり。」
沈黙を破るように、ルイーザが不思議そうに口を開いた。
「やっぱりって?」
ウェンディは少し俯き、しかし努めて明るく答えた。
「実はね、二人とも今はサウスエンドランドの外にいるの。私と同じヒーラーで、色々な場所で人助けをしてるのよ。」
それを聞いたジュンはすぐに察した。
「なるほど……。世界改変の影響で、この異界にはまだ戻ってきてない可能性があるんだね。」
「ええ、まあね。もっとも、両親からしたら私たちの方が行方不明みたいなものだけど。」
ウェンディの軽口に、ルイーザが少しだけ笑みを浮かべた。
異界が重なり合ってできたこの世界。巻き込まれなかった異界の住人から見れば、こちらの方が異質なのだろう。
「でもまあ、あの両親ならどこにいてもやっていけるわ。きっと大丈夫。」
ウェンディの言葉には揺るぎない信頼が感じられる。その姿に、ジュンたちも自然と頷いた。
「それはそうと……ウェンディの家ってどこにあるの?」
突然の質問に、ルイーザが興味津々な顔をする。
「いきなり聞くわね……。でもまあ、確かに気になるか。」
「そりゃそうよ!仲間がどんなところで育ったのか、見てみたいじゃない。」
「はいはい、分かったわよ。勝手に入り込まれる前に案内するわ。」
ウェンディはため息をつきながらも、どこか嬉しそうに笑った。
彼女に連れられて向かったのは、村の中央から少し離れた場所。小高い丘の上に立つその家を見た瞬間、ルイーザの目が輝いた。
「大きい家だね!これって……豪邸ってやつじゃない?」
「ウェンディ、もしかしてお嬢様だったの!?」
ジュンが驚いた声を上げると、ウェンディは慌てて否定した。
「ち、違うわよ!ここは村の中心から離れてるから、土地代がかからないだけなの!」
その時、家の方から杖をついた老人が歩み寄ってきた。背筋がピンと伸びたその姿は、まさに執事そのものだった。
「お、お嬢様!お久しぶりでございます!」
「……ウェンディ?」
「うん、とりあえず家の中に入りましょうか……。」
ジュンたちが戸惑う中、ウェンディは少し照れくさそうに微笑みながら家の扉を開けた。




