16-7
ジュンが倒したドラゴンは、ゆっくりとクランプの姿に戻った。
地に膝をついたクランプは、呆然とした表情で自分の手を見つめている。
「オ、オレは…負けたのか…? ドラゴンに変身しても、貴様らには勝てなかったというのか…」
ジュンは慎重にクランプに近づきながら尋ねた。
「アンタ、ドラゴンになってる間のことは覚えてないのか?」
クランプは苦笑を浮かべ、首を振った。
「ああ、覚えているのは暴力の快感だけだ。ドラゴンになるというのは、理性を捨て、本能のままに暴れる力だ。それがドラゴンの力を得た者の宿命だよ…」
「それで、結局負けたわけね。残念だったわね、私たち、もうドラゴンとの戦いは経験済みなのよ。」
ルイーザが肩をすくめながら言うと、クランプは深い溜息をついた。
「なるほど…それなら納得だ。貴様らがただの冒険者ではないことは、最初から分かっていたがな…」
ジュンは剣を下ろし、冷静な目でクランプを見据えた。
「アンタには、いくつか聞きたいことがある。話してもらおうか。」
クランプは苦笑し、力なく頷いた。
「いいだろう。どうせ、オレの命はここまでだ。死ぬ前に全て話してやる…」
ジュンはまず、この戦争について問いかけた。
「アンタたちは、何のためにこんな戦争をしてるんだ?」
クランプはしばらく沈黙した後、低い声で語り始めた。
「我々の背後には、クラーン様がいる。リフィリアの貴族の一人だ。戦争の目的は、この地の資源を独占するため…それ以外に何もない。オレたち下っ端に拒否権なんてものはない。ただ従うだけだ。」
ジュンは拳を握りしめた。
「そんな理由で、こんな大規模な戦争を仕掛けたのか…リフィリア本国も関わっているのか?」
クランプは首を振った。
「本国は知らんよ。『資源調査』という建前があるだけだ。本国を騙してやっているのさ。」
ジュンとルイーザは顔を見合わせた。
「でも、そんなことがただの一貴族にできるものなのか?」
ルイーザの問いに、クランプは静かに笑った。
「オレもそう思う。クラーン様の背後には、もっと大きな力があるのだろう…それが何かは、オレには分からんがな。」
ジュンはさらに問いを重ねた。
「最後にもう一つ聞きたい。このドラゴンの力…それは一体何なんだ?」
クランプは疲れたように目を閉じた。
「とある異界には、ドラゴンの力を持つ人間がいるらしい。その血をオレの体に取り込んだ結果がこれだ。」
「アンタは元々普通の人間だったのか?」
「ああ。だが、さらなる力を求めた。それがオレの選択だった…」
その時、クランプの体がゆっくりと灰色に変わり始めた。
「おい! 何が起きてるんだ!?」
ジュンが叫ぶと、クランプは静かに笑った。
「これが代償だよ。人をドラゴンにするなんて無理だったんだ…だが、後悔はない。最期に、お前たちのような強者と戦えたからな…」
クランプは静かに目を閉じた。そして、完全に石化し、彫像のように固まった。
その表情は、どこか満足げだった。
ジュンとルイーザはしばらく無言でクランプの姿を見つめていた。
「これが、力を求めた者の末路か…」
ジュンが呟くと、ルイーザは静かに頷いた。
「でも、これで終わりじゃない。背後にいる『何か』を突き止めないと。」
2人は決意を新たにし、静かにその場を後にした。




