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そういえば、ルイーザと一緒に冒険を始めてから、まともに料理をしていない気がする。
食事は立ち寄った村で買った保存食がほとんどだし、魚や肉を焼いて終わり、という簡素なものばかりだ。
「もしかして……ジュンとルイーザ、今まで料理してないの?」
ウェンディが驚いたように声を上げる。そういえば、彼らと旅を始めてから、料理をする姿を一度も見たことがない気がする。
「まあ、料理は得意じゃないけど、何とかなるだろ」
「そ、そうよね。大丈夫……なはずよ」
「ちょっと待ちなさい!その根拠のない自信はやめて!分かったわよ、私が料理するから、あなたたちは敵が来ないように見張っててちょうだい!」
ウェンディは、ジュンとルイーザが料理をする様子を想像し、慌てて役割を引き受ける。もしこの二人に料理を任せたら、何が起きるかわからない――そんな不安が彼女を突き動かした。
仕方なく料理担当から外された二人は、村の外へ出て見張りをすることになった。
しかし、今のところモンスターが出てくる気配は全くない。
「……暇だな」
「そうねぇ」
夕飯までは時間がある。敵が現れない限り、このまま数時間は手持ち無沙汰だろう。
「カカオ山って、どんなところなのかな?」
「さあな。でも、名前からしてチョコレートの材料がいっぱい採れるんじゃないか?」
「そういえば、チョコレートの材料ってカカオだったわね。ジュンのいた世界にも、チョコレートってあるの?」
「あるよ。糖分が欲しい時には便利だし、美味しいしね」
「へえー、どこの異界でも似たような食べ物ってあるんだね」
そんな他愛もない会話がしばらく続いた。
「モンスターは結局来なかったな。たぶん、村人を攫った時点で用は済んだんだろう」
「そうね……ていうか、これって私たち、ただの口実で外に追い出されたんじゃないの?」
簡単な料理くらいは覚えておくべきかもしれない――。
ジュンとルイーザは内心そう思いながら、鍛冶屋に戻った。
鍛冶場では、ウェンディが用意した料理が並んでいた。
「私の腕にかかれば、こんなものよ!」
得意げなウェンディの表情に、ジュンとルイーザは目を丸くする。目の前には、見た目にも美味しそうな料理が整然と並んでいた。
「美味しそう!いただきます!」
一口食べると、その味は絶品だった。肉と野菜がバランスよく調理され、どちらも食材本来の美味しさが引き立っている。
「この料理に勝つのは無理だね。僕たちには到底無理そうだ」
「しばらくは、ウェンディが料理担当ね!」
笑いながら食事を済ませた後、クロックが作り上げた装備品を見せてくれた。
「まずはこれ、『フレアマント』。防寒対策はもちろん、火属性の攻撃も防げる特製品だよ」
深紅の生地が特徴的なそのマントは、温かさだけでなく頼もしさも感じさせる。
「次に、この『スコップグローブ』。村で採掘されているコンクリストーンを集めるのに使う手袋でね。崖を登ることもできる優れものだよ」
「崖を登れる手袋って……どういう仕組みなの?」
ジュンが不思議そうに尋ねるが、クロックは笑って軽く肩をすくめた。
「これがあれば、カカオ山も安全に進めるはずだ。でも、外はもう暗いし、夜の山道は危険だ。明日の朝、出発するのがいいだろう」
こうして、ジュンたちは冒険の準備を整え、明日の朝を待つことにした。
「さあ、いよいよだね」
山の向こうに明るくなり始める空を見上げながら、ジュンは静かに呟いた。
カカオ山――その未知なる冒険の始まりが、すぐそこに迫っていた。
ジュン「特に何もない回だったね」
ルイーザ「平和が1番ね。何もないのが1番いいのよ」




