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「始まりの異界ですか。そんなものが本当にあるとでも?」
「あるかどうかなんて分からないさ。無いなら無いと証明すればいい。有るのに探さないなんて、もっと勿体ないだろ?」
「どちらにしても、あなた達の冒険はここまでです。この強化された私には、絶対に勝てません。この力なら、あのギガロでさえも敵わないでしょう。」
「お前、ギガロの仲間なのか!」
「ジュン、ギガロって、確か……」
ルイーザは、ジュンから異界の笛を手に入れた際に聞いていた「ギガロ」の話を思い出した。異界を生み出した元凶であり、ジュンに冒険のきっかけを与えたリズの仇。その名前にジュンの目が鋭く光る。
「聞いていますよ。かつてギガロがレベル1相手に敗れたと。あれがあなた達なら、この強さにも納得です。だからこそ、手加減はしませんよ。地面に落下して終わりになる予定でしたが、直接仕留めに行きます。残念ですね。落下して死ぬより、もっと苦しむことになりますよ。」
「それはどうだろうね。お前がその姿になったおかげで、色々見えてきたよ。」
「ほう、それなら試してみなさい。もっとも、無駄でしょうけど。」
そう言うと、ローデンは上空に飛び去った。そして空から連続して火の玉を吐き出し始める。それは、まるで隕石の雨のようだった。
「ここは任せて!」
「愚か者。あなたの技は既に見ています。タワーでの戦いでは盾を使っていましたね。今更、そんな盾でこの火の玉を防げるとでも?」
「いや、僕が出すのはこれだ!」
ジュンは、光でできた半球状のバリアを展開した。その大きさは、3人をしっかり包み込むほどだ。火の玉が次々とバリアにぶつかるが、すべて弾き返され、ダメージはゼロ。ローデンの攻撃は完全に無効化された。
「な、なんだこれは!?」
「決戦に挑む前に、クルールから教わっておいて良かったよ。」
ジュンは、決戦前夜にクルールから伝授された「光のバリア」の魔法を思い出していた。これまでにウルフから習得した盾の魔法を応用し、あらゆる攻撃を遮断するバリアを作り出したのだ。このバリアは高度な光魔法の一種で、通常の魔力では扱うのが極めて難しい。しかし、クルールの丁寧な指導のおかげで、ジュンはある程度使いこなせるようになった。
さっきの風の渦にはあえて使わなかった。ウェンディの力で十分対抗できると分かっていたし、何よりもこのバリアは魔力の消費が激しい。温存し、ここぞという場面で使うために隠しておいたのだ。そして、ローデンに油断を誘う狙いもあった。
「くっ……どこまでも計算を狂わせる連中ですね。」
ローデンの表情に焦りが浮かぶ。これほどの力の差があるにもかかわらず、なぜ勝てないのか。ジュンたちの強さの源が何なのか、彼には見当もつかなかった。




