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12:国王との謁見

 話し合いを終えた後、国王陛下に報告と裁可を仰ぐ為、サミュエルは足早に退室していった。その際に指示が為され、ジーン達は部屋を移る事になった。また神祇の長官が突撃してこないとも限らず、またサーの存在も隠しておく為だ。


 二人が連れられて行ったのは城の客室の一つで、その部屋の中だけで生活できるくらいに設備があり、二つ並んだベッドの片方にサーはぽすんと飛び乗った。


「こら、行儀が悪いぞ」

「ほっとくのである。吾輩は疲れたのである」


 サーはごろんと手足を投げ出して転がる。目を閉じ、鼻をぴすぴすと動かす姿に、ジーンも表情を緩めた。


「ありがとな、サー」

「何がである?」

「俺を心配して付いて来てくれたんだろう?」


 親書にサーを潜ませなくても、魔女ならば他にも手段は色々とあったはずだ。それでも態々名代として誰かを送り込んで来た方が効果は高い。しかも、それぞれに部屋を与えようとされた際、サーはジーンと共に居る事を頑として譲らなかった。もしかしたら、いざとなればジーンを連れて逃げるように言い含められているのかもしれない。


「別にお前の為では無いのである。お姫さまにお願いされたから、仕方なしになのである!」


 ぷいっと顔を背ける様は本当に素直じゃない。ひねくれ者としては完璧な態度に、ジーンは声を上げて笑ってしまう。


「何がおかしいのである!?」

「いや、信頼されてて嬉しいだけだ」


 本心からそう言ったのだが、サーは益々へそを曲げてしまったようで、唸りながら手足をじたばたとさせていた。


 そんなこんなで待機を続けていれば、次第に日も傾き暗くなってくる。時間の経過を感じれば焦燥が募り始めるが、今できる事は何も無かった。気を紛らわす為に部屋の広さに任せて色々と運動を繰り返し始めれば、サーに呆れたまなざしを向けられた。それでも無視して続けていると、ふいに扉がノックされた。


「ジーン、私だ」

「デレク隊長?」


 扉を開ければ滑り込むように中へ入って来て、すぐにまた閉じられる。他に誰かを連れて来た気配は無かった。


「この後について、話しに来た」


 告げられた言葉にジーンは姿勢を正す。


「陛下との話し合いは終わったという事でしょうか?」

「ああ、おおよそは。陛下も使者殿と直接話したいと仰せだ」


 デレクは視線を向けられたサーは耳をピクリと動かすとベッドから飛び降りた。


「良いのである。出向いてやるのである」

「お前、陛下の前でその態度は出すなよ」


 相変わらず尊大な様子にジーンはため息を漏らす。


「それで隊長。陛下はいつ頃時間を取って頂けるのでしょう?」

「今夜だ」

「今夜!?」

「ああ」


 面食らって聞き返せば肯定され、目を見開いてしまう。

 できるだけ早く結果を出したいとは思っていたが、予想以上に陛下の反応が早く、戸惑いは隠せない。


「驚くのも無理は無いが、詳しい話は陛下からされるはずだ。その場には殿下も同席する。当然俺も護衛として入る」

「それは助かります。しかし、本当に急ですね」

「陛下もそれくらい重大な事だと認識してらっしゃるのだろう。良かったじゃないか」

「はい。有難い事です」

「当然なのである」


 感謝を示すジーンとは違い、サーはふんぞり返る。


「それで時刻だが、陛下の晩餐が終えてから秘密裏に行う事になる。案内人が来るまで、二人はここで待機していて欲しい」

「わかりました」


 ジーンが了承すると、デレクは来た時と同じようにそそくさと去って行った。それからまたじりじりと経過する時間にやきもきしながら待ち、ようやく扉を叩く音がした時には飛びつくように出迎えた。案内人の姿は見覚えがあり、陛下の腹心と言われている侍従だった。


「こちらへ」


 無駄な話を一切せず、案内が開始される。どこへ行くのか気にはなったが、質問さえ許されない張り詰めた空気に黙って付いていく。そうして辿り着いた先で、ジーンは冷や汗を掻く事になった。

 連れられて来た先は王族の居住区域で、ジーンはこれまで王太子の部屋までしか行った事が無い。しかし案内人は迷いなく更に奥へと進んで行き、行きつく先は案の定、国の頂点に座す国王陛下の自室だった。


「どうぞ、中へ」


 ノックもそれに対する返答も待たず、案内人は扉を開けるとジーン達を中へと促す。戸惑いつつも相手をこれ以上待たせるわけにもいかず、重い足取りで入る。一方サーはトコトコと相変わらず軽快な歩みだった。

 居室は王の部屋らしく豪華な品々が揃えられており、どれもが一級品で視界を彩ってくれ、普段であれば目を奪われるだろう。しかし今は、よそ見をしている暇はない。


「案内ご苦労。下がって良い」


 王が労いを掛ければ、案内人は一礼して部屋を去っていく。

 部屋の中程に佇むのは王、サミュエル、宰相で、部屋の壁際には護衛と警備を兼ねているであろう騎士団長と副団長、デレクの姿がある。重苦しい空気の中、錚々たる面々に飲まれない様に、ジーンは腹に力を込めた。


「そなたがユージーン・ベルファイスだな?」

「はい。その通りにございます」


 宰相の問いかけに返事し、ジーンは膝をついて礼を取る。


「陛下並びに宰相閣下におかれましては、私の話に耳を傾け、時間を割いて下さった事、感謝致します」

「良い、面をあげよ」

「はっ」


 陛下の言葉に従い立ち上がれば、今度はサーへ視線が集まる。


「そして、そちらが冬の魔女殿の使者だな?」

「いかにも。白天山が主の従者・サーである。主の名代として来たのである」

「では名代殿、そちらに腰を据えて、ゆっくり話そうでは無いか」


 指し示されたのは向かい合わせのベルベッドのソファーで、間には美しい装飾の施されたテーブルがある。

 王達が動くのに合わせ、サーはさっさとソファーに座る。ジーンはそちらへは向かわず、デレクや王の護衛がいる壁の端へ行こうとした。


「ジーン。どこへ行く? お前もこっちだ」


 サミュエルに止められ、向かいかけた足を戻せば大きく頷きを返された。しかし、できる事なら壁に張り付いて居たかった。デレクからは同情と激励の込められたまなざしを送られた。

 仕方なしにソファーの方へは来たものの、座るまでは躊躇われて、またもやサーの斜め後ろに立つ。さすがに慮ってくれたのか、これ以上はサミュエルも指示を出さなかった。


「さて、まずは皆の認識を揃えましょう」


 どうやら宰相が議長を務めるらしく、口火を切る。


「冬の魔女殿が求めるのは儀式の恒久的停止と、剣の返還。そして、大元の原因である春の喪失に関する情報提供と、その活動に対する許可。それで間違いないですか?」

「ないのである。あの儀式は理を歪めるが故、今後一切行ってはならないのである」


 ハッキリと言い切ったサーに、王はおもむろに口を開いた。


「その通り、あの儀式は春を呼ぶものでは無い」


 王の言明にジーンは息を呑み、サーも少なからず驚いた様だった。


「知っていたのであるか?」


 サーは目を細め、真意を探る様に問う。


「そう、知っていた」

「知っていて、何故儀式を続けたのである?」

「そう厳しく問い詰めないでくれ、サー殿。我々人は、そこまで察する事はできないのだ」


 サミュエルが割って入り、取り成そうとするが、王はゆっくりとかぶりを振る。


「言い訳はすまいよ。人の身に過ぎた行為は良くない結果を招くかもしれぬという懸念はあった。それでも続けて来たのは我らが王家だ」


 王は訝しがるサーの視線をまっすぐに受け止める。


「王と王位継承者にのみ開示される、歴代の王の備忘録がある。そこには後に伝えた方が良い事や、表に出なかった真実等が載っている。もちろん、二百年前の出来事についても」


 やはり王家には知られざる情報が眠っていた。

 予想は正しく、ジーンは逸りそうになる気持ちを、拳を強く握り締める事で堪える。


「我が王家は魔女殿の要求を飲むつもりだ。春が取り戻せるのであれば願っても無い事だし、それについて否やは無い。ただ、全員がすんなりと受け入れるとは思えぬ故、こうして秘密裏の会談になった事を詫びよう」

「構わないのである。こちらにとって大事なのは、世界の安寧であり、人の営みは範疇外なのである。こちらに害が無ければ良いのである」


 不遜で遠回りな物言いだが、つまりは「気にするな」と示しており、、間違いなく意を汲み取った王は少しだけ表情を和らげた。


「使者殿。それに辺り、図々しい事は承知の上だが、一つ頼まれて欲しい事がある」


 王の言葉にサーは目を瞬かせながら思案し、ふんすと鼻息を吐いた。


「とりあえず、聞くのである」

「有り難い」


 了承を得た王は居住まいを正した。


「そなたの主は二百年前も王国を救う手助けをし、そのまま宝剣も貸し与えたままにしてくれ、今もこうして国の危機を救おうとしてくれている。その献身に感謝と謝罪を、そして此度の事が落ち着いたならば、褒賞を与えたいと伝えて欲しい」


 非公式な場とは言え、国の長が魔女の功績を認めた。

 彼女の清廉な行いがついに報われたのだと思えば、胸が熱くなり、快哉を叫びたくなる。同じ気持ちを共有しようとジーンはサーを見やった。


「断るのである」


 サーがばっさりと断じ、一同は愕然とする。


「吾輩の役目は終わったのである」

「さ、サー?」


 しれっと告げたサーはソファーから軽やかに降り、空いた場所へと移動していく。そして皆の戸惑いの視線を受けながら止まると、手を床へかざした。


「言うべき事は、直接伝えるといいのである」


 サーが言ったのと同時に、その足元に銀色の光が起こる。光は粒子を孕み、渦を巻いて舞い上がり、その中に麗しき影を浮かび上がらせ始めた。

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