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妖精フィリス/名剣イスケンデルベイ

 ・セカンダリーワールド 某所


 常夏のような快晴の下、浜辺にセッティングされてある小さなサマーベッドの上に彼女は寝転がり、くつろいでいた。白と薄緑を基調とした可愛らしいパレオに身を包み、顔の三分の一は覆い隠さんばかりの大き目なサングラスを装着し、ベッド脇のドリンクホルダーからジュース入りの容器を手に取る。口をすぼめてストローから中身を吸い込み、爽やかな柑橘系の味に舌鼓を打ちつつ、ゆっくりと嚥下する。定期的に聞こえるさざ波の音に耳を澄まし、一息。


「──やっぱ、リゾートって良いわねぇ」


 AIにもバカンスは必要である。そう言わんばかりに小さき妖精──フィリスは眼前に広がる海辺をぼんやりと眺めていた。


 ここはゲーム内のとある位置に存在する、彼女専用の小さな島である。専用というのも、此処は彼女が()()()()()()()島であり、基本的に外部から入る事の叶わない場所だからだ。仮にプレイヤーが運よく訪れる事が出来たとしても、島の中には()()()()()()()()()()()()()()()が蔓延っているため、例えラスボスを倒した程の手練れだろうがその理不尽な強さの前には強制送還を余儀なくされるだろう。


 おもむろにフィリスが手を横に振るといくつかのモニターが開いていく。第一第二、第三ステージといった表記のされた画面、大量の文字列が並ぶ画面、あるいは色々なモンスターが並ぶ画面等、中身に映し出されている物は様々だ。


「くっしっしっしっ。あのプレイヤー、ビビッてやんのー! うけるぅ」


 フィリスが目にしたのは第三ステージのダンジョンの一つ。ラスボスを倒した後に開放されるダンジョンの中で、とあるプレイヤーが黒いモンスターに圧倒されていた。プレイヤーは驚愕と焦燥の入り混じった形相で逃げようと試みたが、黒きモンスターの攻撃の数々に敢え無く死亡させられてしまった。その場からプレイヤーが消滅して間もなく、モンスターも後を追うように消えていく。


「あーあ弱っちぃなぁ。曲りなりに、ラスボスを倒してるのにあの体たらくったら無いわー」


 フィリスが確認していた時点で、あのモンスターに倒されたプレイヤーは数百人にも上るだろう。

 クリア後の開放ダンジョンについては謎が多いとされており、熟練のプレイヤー達でも未だにどれ一つとして踏破されていない。しかしながらそこに至ったプレイヤー達は、裏ダンジョン的な難易度の歯ごたえに胸を躍らせ、または悔しさを滲ませつつ絶対クリアしてやるというプライドの元、各ダンジョンに通い詰めていた。


「ま、あたしが弄ったモンスターだし? そう簡単に倒せるほど楽じゃないわよーだ」


 とはいえこれはゲームである。いくらそのように設定をすれども、それが過剰であればあるほど不具合、バグではないかという情報も流れやすくなる。となればそれを耳にした開発者によって修正される可能性も出て来るが、今現在に至ってはそのような形跡も無い。もしかしたら、向こうも原因不明の挙動に悩まされているのかも知れない。


「……ん? あれ?」


 第一ステージの始まりの草原にて『defeat』というログを見付けたフィリスは、勢いよく上半身を起こしてモニターに張り付いた。


「うそぉ!? アレ倒されちゃったの!?」


 信じられないといった面持ちで画面に食い付く彼女は、その前後のログを漁り始める。


「うわぁまじ……ってこの女、あん時の奴じゃないっ!」


 件のモンスターを倒したのは、つい先日のチュートリアルで会っていた人物だった。先に進む気配も無く遊び惚けている事へ痺れを切らしたフィリスが、容姿設定をすっ飛ばしてゲームに送り込んだあの陽気な少女──サクラだ。


「何かエリーまで居るし、どうなってんの……?」


 エリーとは旧知の間柄である。無論、ゲーム内の話だが。


「よもやあの子が弱点を……って言っても初心者が倒せるようなステじゃ無いわよねぇ」


 そもそもNPCでありレベル1でもあるエリーが、あのモンスターを倒せる手段もない。だとすれば倒したのは、このレベル1の少女という事になってしまう。


「ユニークスキル!? うそでしょ何なのよこの女っ!?」


 紫電一閃が煌めいた場面で目を見開くフィリスは、本来ならあり得ない成果を遂げてしまったサクラに対して驚きを隠せない。モンスターが二度目に放たれたユニークスキルにより倒されるまで、彼女は口を閉じるのを忘れたまま呆然と眺めていた。


「えぇ……どういうことなのよこれぇ……」


 その場にへたり込んだサクラにエリーが抱き着いた辺りで、フィリスはモニターの画面から身体を離す。


「ま、まぁ? 第一ステージにユニークモンスターを出しちゃったのはあたしのミスだし? その時に何かステもおかしくなっちゃったのかも知れないしっ」


 自ら暴露するように独り言ちるフィリスはモンスターの設定用モニターに目を配る。サクラによって討伐された黒スライムを探し出すと、自身がどう弄ったか思い出すように内部データを観察していく。


「あらら、結構文字化けしちゃってるわ。これのせいで数値が狂っちゃってたのかしら?」


 映し出された黒スライムのデータの大半は文字化けを起こしており、本来表記される名前の部分もおかしな物になってしまっていた。


「イスケンデルベイ……? 聞いた事ないわね」


 ドロップ品である剣の名称を呟き、先の二人と同様の反応を示すフィリス。

 そもそも彼女が設定したモンスターの内、全てのドロップ品はランダムな処理設定がされている。理由はその都度考えるのが面倒くさいから。プレイヤーが用いる全てのアイテムから不規則に選出されるため、モンスターの見た目等からくる武器や防具などの関連性は一切ない。


「……見た感じ、柄だけの武器……だし……」


 そんな膨大な数のアイテムから選ばれたイスケンデルベイという剣の設定欄を眺めていると、徐々にフィリスの表情が曇っていった。


 『【名剣/イスケンデルベイ】 攻撃力0~??? 

  ・所有者によって名剣にもなまくらにもなる剣。

  ・所有者の資質によって、剣身を様々な形に具現化させる。

  ・所有者の素質を最大限に引き出し、共に成長をしていく。

  ステータス補正:各値±α

  スキル補正:各値±α

  ※なまくらと化した際は攻撃力0に等しいが、

   所有者が極限までその性能を発揮した場合、この武器は万物をも切り裂く()()()となろう。』


「なに、このチートくさい武器」


 記述されている性能に思わず喉を唸らせるフィリス。

 単純に攻撃力が両極端な武器ということになるが、肝心の火力が見て取れない。しかも一定の数値で収まるならまだしも、成長するとまで書いてあるという事はそれに応じて数値も変動するのだろう。これではATKに対するDFEやHPの値を設定することが出来ないため、迂闊に数値を弄ることがし辛くなってしまう。下手に高く設定しても、数値がオーバーフローを起こしかねない。

 

「な、なんちゅー物を作りおってからに! これじゃ対策のしようが無いじゃないの!」


 空に向かって誰にともなく吠えるフィリスは悔しさの籠った面持ちで容器を持ち直し、ストローを噛む。


「い、いやいや。考え過ぎよあたしっ。だってあいつはまだ──」


 レベル1。初心者の域すら超えていない、単なる一般プレイヤーの内の一人のはず。


 ただ、そんなプレイヤーが黒スライムを倒してしまった事実に加えて、彼女が入手してしまった武器イスケンデルベイに、フィリスは何か引っ掛かりを感じざるを得なかった。



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