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初めての戦闘/サクラの潜在能力 ①

 ・パラム 北門


 噴水広場から北。エリーに案内されるまま付いていくと、レンガで造られた壁が並ぶ場所へ抜ける。


「システム的にモンスターが街に入ってくる事は、襲撃イベントを覗けばあり得ないんですけどね」


 雰囲気、とのことらしい。外壁は四、五メートルくらいはあるだろうか。視線を這わせると、壁は街を囲うように並び建てられているようだ。


「そしてここが北門。パラムの外に出る場所です」

「おぉ……でっかい扉だねぇ……」


 巨大な門を見上げるように、感嘆とした声を出すサクラ。外壁と同じくらいのサイズの門は現在開かれており、両開きの扉の近くには槍を持った兵士らしき人物が複数立っている。


「彼らもNPCですね。夜になったらこの門を閉める設定をされてます」

「こんなおっきな門をどうやってあの人数で閉めるんだろ?」

「それはほら」

「……雰囲気?」

「クスッ……ええ、そういうことになります」

「何ともまぁ夢の無い。こんにちはー!」


 と、サクラがいくら声をかけても、門番達は同じ台詞を繰り返すばかりだった。


「これから先はモンスターが出るようになります。ご武運を」

「武器や防具をちゃんと装備したかい? 気を付けてな」


 等々。台詞に加えて身振り手振りまで同一なせいか、人形でも相手にしているような感覚に陥る。


「うーむ、ますますエリーがえぬぴーしーってことを忘れちゃいそうだ」

「自分のことながら不思議な光景だとは思います……私も、こんな感じだったのかなぁ……」

「エリー?」

「……いえ、何でもないです。さっ行きましょうっ」


 訝しげにこちらを見やるサクラに首を振って応えたエリー。

 こうして、二人は初めてパラムの外へと出て行くのだった。



◇◇◇◇



・始まりの草原 Lv1~


「おぉ、何か見えた」


 北門を抜けた瞬間、二人の目には確かにそんな文字が映し出されていた。やがてフェードアウトするように文字は消えたのを確認すると、サクラはいよいよ始まるであろう戦闘に胸を躍らせる。


「私もこのログを見たのは初めてです……うぅ、本当に大丈夫でしょうか……」


 一方、エリーは不安そうに辺りを見渡していた。


「武器なんて何も装備してないのに──はっ!?」

「ん? どしたの?」

「サクラさん武器は!?」

「え、武器? ……あっ」


 どう見てもサクラの服装はただの布の服とサンダルのみである。今更ながらそんな初歩的な事に気付いた二人が慌てふためくのと同時に、近くで何か黒い光が輝き始める。


「エリーっあれ何!?」

「モンスターが出現する時の演出ですよぅ! 良いから早くアイテム欄を開いて下さいぃ!」

「おおぉぉわかった、分かったからそんなに揺らさないで」


 両肩に手を置いて激しく揺らしてくるエリーを制し、アイテム欄を開こうと手を動かすサクラ。


「ところで、アイテム欄ってどうやって開くの?」

「んもおおおお!」


 草原にエリーの呆れと諦めと悲しみの入り混じった悲鳴が響き渡った。


「コンソールを呼び出して袋のアイコンを触るんですよぉ!」

「……こんそーる?」

「あぁそうですかそこからですか!」


 もはや見慣れつつあるサクラのクエスチョンマークを振り払い、エリーは彼女の襟元をつかんで北門から街の中へと逃げ去る。


「はぁっ……はぁっ」

「びっくりしたぁ。エリーって結構力あるんだねぇ。お母さんに引き摺られた事思い出したよ」

「~~この人はもうっ」


 緊張感の欠片も見当たらないサクラに若干の苛立ちを覚えつつ、エリーは荒げた息を整えてから説明を始めた。


「良いですか? コンソールっていうのは──」

「ふむふむ──」



◇◇◇◇



・始まりの草原 Lv1~


 サクラ:Lv1

 右手:

 左手:ショートソード

 胴体:布の服

 足:革のサンダル


 再び北門から出てきたサクラの手には、今度こそちゃんと武器が握られていた。既に腰元の鞘から刃は抜かれてあり、陽の光に当てられた切っ先が鋭い輝きを放つ。


「よーし! 今度こそっ!」

(本当に大丈夫なのかな……さすがに不安になってきました……)


 テンションが真逆の二人を他所に、例の黒い光は彼女達の反応を待たずに訪れる。


(でも、この辺りのモンスターは全てレベル1だと聞きます。いくら初心者のサクラさんでも負けることはない……はずぅ)


 黒い発光が収まると、二人の前に何やら黒っぽく、ゼリー状の物体が姿を現した。


「……? あぁっ、何か見たことあるかも! スライムじゃないあれ?」

「……スライム……のはずですが……」


 何かがおかしいとエリーはその物体を見て感じた。少なくとも彼女の知る限り、通常のスライムは青や緑を基調とした半透明なモンスターだという。それに対し、眼前のスライムは明らかに黒い。半透明どころか、中身が分からないレベルに黒く染まっている。


「っそうだ、レベル……は?」


 【▼らイ務】 Lv無〓


 モンスターの頭上にポップアップされた文字を、エリーは何度も瞼を擦っては見やる。


「なんて読むのアレ」

「わ、分かりませんよぅ。でも──」


 街の案内係として生まれ、様々なプレイヤーから色々な話を聞き及んだエリーでも()()()()()は知らない。ただ、【】が付いているという事の意味は知っていた。


「──サクラさん気を付けて下さい! あれはユニークモンスターです!」

「ゆにーく?」


 ユニークモンスター。通常のモンスターのレベルやスキル能力が倍以上になり、ステータスの値が跳ね上がる。また種族によっては耐性値の増加、加えて特殊スキルも所持していることもあり、熟練のプレイヤーでも苦戦を余儀なくされる相手である。事前に情報収集をした上で討伐をするのが基本的な倒し方だが、それよりもとエリーが続ける。


「なんで!? アリステオでユニークモンスターが出るなんて今まで一度も……!」


 ゼリー状の黒い物体、黒スライムとでも今は言うべきか。黒スライムは既にサクラ達に気付いている様子で、何度も身体を前後に揺らしている。反動を付けて飛び掛かってくる兆候だ。


「おっ来るかっ!? よぉし……」


 ショートソードを竹刀に見立て、右足を前に出し、左足を後ろへ下げて踵を少し浮かせる。剣道で言う、いわば正眼の構えを取るサクラ。その切っ先はしっかりと黒スライムを捉えている。驚愕により思考を混乱させているエリーに対し、サクラの立ち姿はあまりにも毅然としていた。


「サクラさん!」

「大丈夫。でも危ないかもだから少し下がってて」


 声色すら凄然としたものに変化していた。つい先ほどまで明るかった彼女とはまるで違う異様な様子に、エリーはびくりと肩を震わせて我に返る。その背中を恐る恐る見守りながら、後ろ足で後方へと下がっていくエリー。


 先に動いたのは黒スライム。一定の反動を付けた後、前方のサクラに向かって飛び掛かってきたのだが、その速さが尋常ではなかった。物理法則を無視したかのような速度で飛来した黒スライムに、目を見開いて驚きの形相を浮かべるサクラ。しかし直ぐに平常心を取り戻した彼女は、冷静に重心をずらして身体を横に開き、黒スライムの突進を回避する。

 サクラのわずか後方へとその勢いのまま飛来する黒スライムは、質量を感じる振動と土煙を上げて、そのまま地面にめり込んだ。


「隙ありッ!」


 その隙を見逃さなかったサクラは左足のつま先に力を籠めてショートソードを振りかぶる。大地を蹴ると同時に振り下ろされた剣戟。鮮やかな剣筋は空を切り裂いて黒スライムへと煌めいた。


「メェェン!!」


 気迫の籠った掛け声を伴って刃が黒スライムに触れた途端、粘土でも殴ったかのような鈍い手応えがサクラの手に伝わる。


「むぅ」


 不満げに口を尖らせたサクラは、ショートソードを引き抜いた勢いで後方へ下がる。現実なら間違いなく一本であろう一打が通じるほど、この世界は甘くないようだ。

 地面にめり込んだまま、何やらうねうねと蠢く黒スライム。ともすればサクラが打ち込んだ剣の傷はあっという間に塞がってしまった。


 スキル:自己修復


「うぇっ!? そんなのありぃ!?」

(あっ、やっぱりサクラさんだ)


 さすがに平静を崩したサクラは卑怯だぞぅと指を刺す。遠巻きにそれを見ていたエリーはどこか安堵した様子で胸を撫で下ろす。


(それにしても自己修復なんて……! 本当に、どうなってるの……!?)


 自己修復を持つモンスター自体は珍しくはない。ただ、そのようなスキルを持つモンスターは第三ステージからの帰還プレイヤーからしか聞いたことがない。エリーの額に、冷や汗が伝っていた。


(でも、見た目がスライムなら……!)


 エリーは多数のプレイヤー達から聞いていた情報を急いで整理していく。

 その合間、前方では黒スライムが再び動きを見せていた。

 傷の塞がった黒スライムは地面にめり込んだまま身体の一部を伸ばし触手に変化させ、それらをサクラへと向かわせる。鞭のようにしなった触手は、サクラに体勢を直させない勢いで次々と放たれていく。それに対し持ち前の運動神経でもって避け続けていたサクラだったが、ここで彼女は、この世界があくまでもゲームであるという事を思い知らされてしまった。


(おかしいなっ……まだ、まだ動けるはずなのにっ、足がうごかないっ)


 触手から身を躱す度、サクラの動作が鈍くなっている。それは戦闘経験が皆無のエリーから見ても分かるほど。

 自身の緩慢さに困惑するサクラの思考はやがて焦りを生み出す。その焦りが引き金となり、無理な体勢で動こうとしたサクラは自ら蹴躓きバランスを崩してしまう。


 サクラ:Lv1

 HP:40/40

 ⇒状態:疲労


(やばっ──)


 同時に、サクラのスタミナが切れたという表示がなされる。追い討ちをかけるように、触手の一本が彼女を捉えた。


「あぐぁっ!」

「サクラさぁんっ!!?」


 腹部に当たった横殴りの殴打は、サクラの身体をくの字に折らせて吹っ飛ばしていく。強烈な振動を伴って地面を転がって行ったサクラは、気合いと根性で何とか立ち上がるも足取りが覚束ない。振動は全身の痺れをも引き起こしていた。


 サクラ:Lv1

 HP:2/40

 ⇒状態:瀕死/疲労/麻痺(中)


 そんな数値がエリーの目に映る。堪らず彼女の元へ走ろうとしたが、サクラの掌がそれを静止させた。


「けほっ、だぁいじょぶ……何とか、なるって」


 どこにそんな気力が残っているのか、サクラの瞳は依然として力強く輝いている。


「……っサクラさん! あれがスライムだとしたら、身体の中に()があるはずですっ! それさえ壊してしまえばっ!」

「核?」

「スライムの()()です!」


 既に整理を終えていたエリーは、サクラに向かってありったけの声で答えを送り込んだ。


「……おっけーぃ」


 腹部から込み上げる嘔吐感を我慢しつつ、エリーの言いたい事を把握したサクラは頷いて応えた。


(痛みがないのは良いけど振動が凄いなぁ。死んじゃう時はどうなっちゃうんだろ)


 思考を巡らせながら彼女は前進する。


(まったくもう。身体を動かせるのはいいんだけど、ここまでハードだとは聞いてないってお母さん)


 その歩みは迷いがなく、黒スライムの元へ向かっていた。

 対象が再び攻めてきていると判断した黒スライムは、再度触手を伸ばしてサクラへと向かわせる。これに対し、サクラは避けようともせず飛来した触手を見やっていた。


「危ないっ!」


 あの一撃が当たってしまえば間違いなく彼女は死亡してしまうだろう。エリーの両手は、無意識の内に視界を遮ってしまう。

 所詮はゲームである。現状仮に死亡したとしても噴水広場に戻るだけではあるのだが、冒険開始早々にこの様な形でそれを目の当たりにするのは、今のエリーにとって恐怖以外の何でもなかった。


 『ユニークスキル:【剣技/紫電一閃】 を習得しました』


 刹那、一筋の煌めきがサクラの手元から放たれる。


「エリー!」

「──えっ?」


 確かに聞こえたサクラの声に、恐々とした面持ちで両手を下げるエリー。先程見たステータスのまま、彼女の足元には切り払われた触手が転がっていた。


「ね? だいじょうぶって、言ったでしょ? だから、そんな顔しないで」

「……はぃっ」


 目線を上げると、こちらに顔を向けたサクラが笑みを浮かべて立っていた。それを見たエリーも、自然に引き攣っていた表情を緩めていた。

 息も絶え絶えでどう見ても満身創痍な状態なのに、なぜ彼女の笑顔を見ると安心出来るのかエリーは不思議で仕方なかった。

 エリーの返事を聞き遂げたサクラはすぐさま黒スライムへと向き直り、歩みを再開する。


(……こんな気分は久しぶりだ。中学ん時の全国以来かな?)


 先ほどから心臓の鼓動が大きく聞こえている。


(でも、楽しい!)


 『ユニークスキル:【不屈の精神】 を習得しました』


 鳥肌の立つような緊張と高揚感。思い切り身体を動かせる解放感。

 既に間合いは剣の届く範囲。意識を研ぎ澄ませ、先ほど放った剣技の感覚を思い出す。


「──行くぞぉ黒ちゃん! 君は、良い相手だった!」

「黒ちゃん!?」


 【剣技/紫電一閃】


 黒スライムに向かって、渾身の一撃が放たれる。

 それは黒スライムの身体を易々と切り裂き、体内に存在していた核をも割ったのだった。


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