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一.俺が、二重生活を送ることになった訳

 俺の名前は加藤要(かとうもとむ)、三十六才、独身。


 地元ではそこそこレベルの高い進学校を出て、上京。それなりの大学へ合格し、卒業。新卒でIT関連の会社へ入社後、同じ業界内で転職を繰り返しつつスキルアップに励む……そんな、日本のどこにでもいそうな、ごくごく普通のサラリーマンだった。だったんだよ……間違いなく。


 あの日、あの時。十年前の四月一日、午前零時四十分までは。


 ん? もったいぶるなって? まあまあ、そう言わずに聞いてくれないか。こいつを話しておかないと、俺が使ったアレだとか、奇妙な生活環境について、絶対に理解してもらえないだろうからさ。


 その日、俺はいきなり真っ赤な夕焼け空に放り出された。


 ああ、別にスカイダイビングしてたんでも、世を(はかな)んで高いところから飛び降り(I Can Fly)した訳でもないぞ。気がついたら、いきなり空を飛んでいた。いや、あれは落ちてたって表現のが正しいか。


 そこへ至るまでに、俺が何をしていたかって? 家のパソコンで遊んでた。マッシブリー()マルチプレイヤー()オンライン()ロール()プレイング()ゲーム()……いわゆるネトゲってヤツでな。


 いい歳して何してんだとか言わないでくれよ。何かが楽しい、面白いと思う感覚に年齢は関係ないんだから。おお、わかってくれるか? 嬉しいね。


 っと、話が逸れたな。とにかく、その日はゲームしてた。今日はどこに狩りに行くか、なんて、画面の向こうにいるだろう誰かと、いつもと対して代わり映えのないチャットを交わしていたことだけは覚えている。


 普段とちょっと違ってたのは、会社の飲み会帰りでアルコールが入ってたことくらい。たいして量は過ごしてないし、酔ってないと思ってたんだが自分では意外と認識できないもんだな。ゲームしながら、うっかり寝落ちしたみたいなんだ。


 そんで気がついたら、命綱もパラシュートもない状態で空飛んでたんだよ。訳がわからないだろ?


 常識的に考えて、俺はその状況を夢だと判断した。最初に説明した通り、俺の意思で命綱無しのバンジージャンプなんぞした覚えはなかったからな。その頃、たまたま明晰夢(めいせきむ)に興味があって、調べてた影響もあったと思う。


 明晰夢ってのは、脳みそ……前頭葉が半覚醒状態にある場合に入れることのある夢の一種だ。


 夢なのに現実みたいにリアルで、五感もしっかり働いてる。厳密には違うんだが本当に起きていることみたいに感じるんだ。


 ほら、よく夢かどうか調べるために頬をつねるなんて表現があるだろう? 一般的な夢なら痛みを感じないから、そこで夢だと自覚して目が覚めたりするんだが、明晰夢にはそれが当てはまらないから普通に痛い。だから、痛みだとか落下による風切り音のやかましさ諸々を判断基準にできなかった。


 とどめとばかりに、見た目プテラノドンみたいなバケモノ、飛竜に乗った女の子に助けられたんだ。夢だと思い込むのも無理ないだろう?


 この時点で「寝落ちしたせいで別の世界に飛ばされた!」なんて考えるのは漫画の読み過ぎか、ゲームのし過ぎで空想と現実の区別がつけられない奴だけだ。


 ……結論から言うと、それで正解だったんだけどなこん畜生!


 そんな訳で完全に夢だと思ってたから、なぁんも警戒しないで助けてくれた女の子と一緒にプテラノドン――翼竜と呼ばれていた生物の背に揺られながら、体感で十分ほど過ぎた頃。眼下に港湾都市が見えてきたんだ。


 夕陽の紅に染められた街並は美しく、思わずため息が出るほどだった。悪いな、俺の語彙じゃこの程度の表現が限界だ。


 その街が、どことなく社員旅行で行ったフランスの港町マルセイユに似ててな。おまけに、沿岸に木造のスツールやガレオン船がズラリと並んでいたもんだから、過去に見た光景と夢とがコラボレーションしていると思い込んじまった。


 一度ズレた歯車、誤った認識を正すってのは、それだけ難しいことなんだよ。


 都市の間を縫うように、運河とおぼしき水の道が何本も通っている。川面を行き交う小舟の群れは、荷物や人を満載していた。


 川沿いに立ち並ぶ建物には統一感というものがない。寄せ鍋の中に、さまざまな文明を祖とした具がぎゅうぎゅうと詰め込まれているような印象を受けた。まあ、日本のごちゃごちゃした街並みに慣れている俺が指摘するのも妙な話だが。


 そんな街の中心部に、高い高い白亜の塔がそびえ立っていた。浅草の某ツリーなんて目じゃない超・超・超高層建造物だ。怖ろしいことに、空に上にいるにも関わらず、てっぺんが見えない。雲をまっすぐに貫いて、さらに上へと伸びている。


 もしも「あれは軌道エレベーターだ」なんて説明されたら、すんなり信じてしまうかもしれない。そのくらいドでかい塔だ。


 こんな感じでとんでもない絶景に目を奪われているうちに、いつの間にか俺たちは黒煉瓦で出来た大きな建物の屋上に降り立っていた。


 イメージとしてはそうだな、数十年前の東京駅をひと回り大きくした感じのものを思い浮かべてくれ。あの洒落た駅との最大の違いは、ぐるりと周囲を囲む水堀があるってことと、外壁に鉄砲狭間(てっぽうざま)らしき小窓が並んでいることだろうか。ちょっとした砦だな。


 しばらく地に足をつけていなかったせいか、足下がふらふらしておぼつかない。そんなところまで再現しなくてもいいのに、明晰夢って奴は無駄にややこしいんだなあ、なんて考えていたあの時の俺を殴りたい。このふらつきには、相応の理由があったというのに、まったく……。


 んで、女の子の後について建物の中を進み、カウンター・バーみたいな部屋に案内された訳だが。どうして外観や廊下は欧州系なのに、この部屋だけ西部劇、マカロニ・ウェスタン風なのか、設計した担当者を小一時間問い詰めたい。


 天井でシーリング・ファンがくるくる回ってる。ものすごいミスマッチだ。や、この部屋には合った内装なんだが、外と中の乖離が酷い。


 とまあ、自分の夢に脳内でツッコミを入れている間に担当者? とやらが持ってきたどでかい水晶玉に手を乗せろって言われてさ。


 今思うに、それが運命の分岐点、ってやつだったんだろう。特に警戒なく触った途端、全身に電流を流されたような衝撃を受けて、そのまま気が遠くなり――俺の身体は地球人とは違う、別のモノに造り替えられた。


 ふつうの人間に見えるって? そりゃそうだ、見た目は全然変わってない。そこじゃなくて、なんだろうな、脳と神経の一部、あとは呼吸器官と喉か? それが変状したんだと思う。


 会社の健康診断――うちは三十歳から、希望者は半額自費負担で人間ドックの全身検査を受けられるんだが、外見上の変化はなかったんだ。血液検査やら尿検査、レントゲン、内視鏡、エコーでも異常はなかった。ただし、それ以外に問題があってな。まあ、話が長くなりそうだし、そこらへんは後でまとめて説明する。


 水晶に触った直後、俺は自分の部屋で目が覚めた。


 寝落ちした後、PC用デスクに突っ伏していたみたいでな。チャットのログを見て、画面の向こうで俺を起こそうとしていたらしい流れを見て取って、とりあえず謝罪のメッセージを打ち込んでからシャワーを浴びて、寝間着代わりの甚平に着替えて布団に潜り込んだ。さっきは妙な夢見たなあ、なんて笑いながら。


 そしたら、例のカウンター・バーの前で、竜使いの女の子と、水晶玉持ってきた担当者と再会ですよ。おまけに、何だかよくわからんが大興奮してるときた。


「あんた〝越境者(クロス・ボーダー)〟だったんだな!」


 ……ってね。


 混乱していた俺に、二人は噛み砕いて説明してくれた。


 ――この世界には、時折別世界からの〝来訪者(ビジター)〟が落ちてくる。


 最初に〝来訪者〟が確認されたのは千年以上も昔のことだが、以来数十年に一人くらいのペースで発見されているらしい。


 この「発見」というのがミソで、実際にはもっと大勢存在していた可能性が高いらしい。どうしてかって? それは、彼らがこの世界に現れた瞬間、死んでしまうからだ。俺のように、空を飛べないただの人間が、突然雲の上へ放り出されたみたいに……生存不可能な場所に出現することがままあるそうだ。


 なんでそんなことがわかるのかというと、この世界では到底造り得ないようなからくり(話を聞いた限り、おそらく腕時計だと思われる)を身につけた死体が、泥沼の底に埋もれていた、とか。


 鉱山で採掘をしていたら、掘り進めた先で発見した巨大な水晶岩の中に、見たこともない程美しいドレスや宝飾品を纏った女性の遺体が封じられていた、なんていう非常にわかりやすい例が世界各地で散見されているからだ。


 そういう意味では、俺は本当に幸運だったんだろう。出現した場所はアレだが、助けてもらえた訳だし。


 最初は〝転送の罠(テレポーター)〟の被害者かと思ったんですけどね、という説明を受けたとき思わず、


「*いしのなかにいる* かよ……」


 と、いにしえのRPGあるあるを呟いてしまったのは、一種のお約束として許してもらいたい。


 さて、この〝来訪者〟だが基本的にいきなり現れ、唐突に消えるんだそうな。


 数時間滞在する者もいれば、数日でいなくなる者、数ヶ月居てこれは定着するかと思いきや、前触れなく消えてしまう者等々、消失のタイミングは様々だが、一度いなくなった者は二度とこの世界に姿を現さない。


 そんな中、ごくごく稀に戻ってくる者がいる。それが〝越境者〟(クロス・ボーダー)だ。


 もしかするともっといるのかもしれないが、実際にそれと確認されたのは僅か三例と非常に少ない。〝来訪者〟自体の数は百を超えているそうだから、希少なのは事実だろう。ちなみに、その三例のうちの一が俺だった。


 そもそもの話、どうして〝来訪者〟がこの世界に現れるのか、その法則自体が判明していない。何せ、過去に来た者たちは、


『リビングのドアをくぐったら、街道に立っていた』


『姿見の前で衣装合わせをしていたら、突然真っ白な光に覆われて……』


『雨の日に外を歩いていたら、何故か知らない建物の中に居た』


 てな感じで、何の脈略もなくこの世界へ放り込まれていた。


 詳しく状況を聞こうにも、数分で消えてしまう者がほとんど。長期間滞在できた者たちの話をまとめてみても、何ら法則性が見出せない。


 とどめに、事情を聞けた〝越境者〟たちが世界を行き来するための条件もばらばらだった。そもそもの話、今までは同じことをしていても別の世界へ移動するなんてことはなかったのに、ある日突然そうなった者たちばかりで、全く参考にならなかったのだとか。


 かつて居た〝越境者〟の一人は妙齢の女性で、彼女は祖母からもらった手鏡に触れることでこの世界と故郷を移動できていたそうなのだが、その鏡を貰ったのは幼い頃。以来毎日のように触っていたというのだから本当に訳がわからない。


 それから、いろいろと事情徴収やら調査した・された結果、俺は眠る――意識を失うことで双方の世界を行き来してしまう〝越境者〟ではないかという仮説が立てられたのだ。布団に入って、割とすぐにミュステリウムへ戻ってきたことから、俺としてもその理屈は納得できた。


 向こうの世界(まぎらわしいので、以後〝ミュステリウム〟と呼ぶ。俺が現れた大陸の名前だ)側で水晶玉に触ったとき、俺は気を失って倒れた。その瞬間姿が消えたので、眠ったり、気絶したり……つまり、意識を失うと〝転移〟すると考えるのが自然だろうしな。


 で、地球側での実証のために、枕の横にビデオカメラを設置しておいたら……寝入った(と、思われる)途端、俺の姿が霧みたいに掻き消えて、布団が空っぽになるっていう決定的瞬間が映ってたもんだから仰天したわ。


 それを三日間続けた後、今度は布団じゃなくて炬燵(こたつ)やソファーで寝た場合はどうなるかとか、とにかく色々なパターンで試し、部屋や寝具、時間帯がキーじゃないことを確認した。


 さらに、ビジネスホテルに泊まったり、レンタカーで車中泊したり、会社の仮眠室に立てこもったりもした。と、言うと語弊があるから一応説明しておくと、単に内側から鍵かけて、俺が起きるまでは誰も入れないようにしただけなんだけどな。この状況でも、やっぱり寝落ちた瞬間に消えていた。


 ミュステリウム側でも似たようなことを試して、ほぼ確定。俺の〝越境〟条件は寝て意識を失うことだ。


 この特異体質(?)のせいで、俺は友人との旅行なんかはもちろんのこと、家庭を持つことすら諦めなきゃいけなくなった。泊りがけで実家に戻るのも無理、日帰り限定になってしまった。他人の目がある場所での居眠りや、全身麻酔なんてもっての外だ。


 どうしてかって? 少し考えればわかるだろ? 隣で寝ていたはずのダンナがいきなりいなくなったら、嫁さんは間違いなくパニックになる。おまけに、トイレに立ったとかじゃなく、霧が晴れるみたいにサーッと姿が消えるんだぜ? 手術するために全身麻酔を導入した患者が目の前で手術台から消失とかもさ、完全にホラー案件だろ。こんなこと、実家にいる家族にだって言えやしない。


 事情を説明できるような、簡単な現象でもない。そもそも〝越境者〟になってから十年経つが、未だにこうなった原因も、解決方法すらわからないんだ。


 神秘研究舎、地球でいうところの大学みたいな場所だな、そこの学者連中曰く、星の配列やら日時、酩酊しての寝落ち……トランス状態に入ったタイミングが神懸かってたせいで〝境界線〟を跨いだんじゃないかって話だが、だからどうしたっていう。なんの解決にもならねぇだろ。


 もちろん、この特異体質とはまた別の理由もある。


 あんたはもう知ってるだろうから話すが、俺は地球で言うところの「魔法」が使えるんだ。中でも得意なのは転移系かな。ちょっとしたモノを動かして手元に引き寄せるくらいなら、手を振る程度でやれる。


 ん? 〝越境〟するくらいなんだから、もともとそういう素質があったんじゃないか、だって? いいや、それはない。俺にこのチカラを焼き付けたのは、例のどでかい水晶玉。


 あの水晶には〝魂の水晶〟(ソウルクリスタル)なんて御大層な名前がつけられてるんだが、基本的に身元確認用に使われるモノらしい。こっちで例えると、市役所の戸籍謄本みたいなモノなんだが、実はそれだけじゃない。


 ミュステリウムで生まれた人間は、三ヶ月以内に役場にある水晶の端末に手を触れさせ、魂の記録を刻まれる。そして毎年の誕生日(こっちにも時間や月、年、誕生日という概念があるのは後から知った)に記録の更新をする。


 こいつのおかげで、その人物がどこの誰であるのか、どんな経験を積んでいるのかがわかるんだよ。


 この積んできた経験、ってのがキモでな。


 〝魂の水晶〟には、戸籍の記録以外にも役割がある。それが魂の経験と肉体の調整だ。


 本人が、これまで魂に蓄積してきた経験とやらを引き出して、肉体に紐付ける。


 例えば……一年間毎日畑仕事をしながら、家のこまごまとした雑用、家族の食事の支度とか、部屋の掃除だとか、そういった諸々を繰り返す生活を送っていたとする。この状態で水晶に触れると、それに合わせて肉体が最適化されるんだ。


 具体的にはクワを振り下ろすために必要な力が減り、草むしりの速度が上がり、料理の味が一年前よりも深みを増し、掃除の効率が上がる。水晶に触れた人物がどんなに不器用でも、だ。


 逆に、天性の才能があるようなヤツの場合、その才がより磨かれることになる。本物の天才を超えることは難しいかもしれないが、才能がなくとも相応の努力をすれば、絶対に報われるってことでもある。


 ただし、関連する素養が全く無い場合には、後天的な目覚めがない限り相当に難しいようだが。魔法なんかがまさにそうだ。


 ……自分の理解が及ばない謎の方法で、身体を勝手に造り替えられる、って考えると滅茶苦茶怖いけどな!


 もっとも、それは俺たち地球人の感覚で、ミュステリウム人にとっては食事や睡眠レベルで当たり前の行為だったりする。最初はビビりまくってた俺も、今ではすっかり慣れちまった。この時ほど、人間は環境に適応できる生き物なんだと実感できたことは無い。


 とまあ、こういうわかりやすい利点があるから、余程に後ろ暗いことをしていない限り、ミュステリウムで生活している連中は毎年必ず〝魂の水晶〟に触れる。不審者だけじゃなく、病気なんかで倒れて意識不明、身元がわからない……なんて時にも大活躍だ。少なくとも、出身地は判明するからな。


 そう、当時の俺も当然「不審者」にカテゴライズされてた。


 寝落ちした時の俺の服装は、ワイシャツとスラックスに、靴下、室内用のサンダル。腰には長財布と家の鍵、ガラケーを入れたウエストポーチを巻いてた。怖いもの知らずな部下に「それカッコ悪いですよ」ってどストレートに言われたが、別にいいだろアレ便利なんだから。あとは衝撃や水に強いって評判の日本製腕時計。


 対して、俺を助けてくれた女の子……今じゃ竜騎士引退して二児の母になってるが、あの娘は短衣(チュニック)革鎧(レザーアーマー)、腰にはレイピアなんつー、コテコテなファンタジー的装備で、周りもだいたいそんな感じ。これじゃあ俺が不審者だと思われるのも無理はない。おまけに、空から降ってきたなんていう、怪しいことこの上ない状況だった訳だしな。


 だからこそ、俺の出自や、街に対して害意がないかどうかを確かめるために、彼女は〝魂の水晶〟がある役所へ俺を引っ張っていった訳だ。


 結果。俺は〝水晶〟に、二十六年分の魂の経験とやらを読み取られた挙句、肉体を最適化されちまった。それが、例の転移系を含む魔法の素養開花。その他にも、記憶力の強化だとか速読とか、できるようになったことがいくつかあるんだが……そこらへんは追々ってことで。


 そんな訳で、あきらかに地球人とは別モノに造り替えられてしまった俺が、結婚したとしよう。もちろん転移体質に触れた上で、それを信じて受け入れてくれる懐のでかい嫁さんが来てくれたらって仮定の上でだ。


 そうなれば子づくりをするのがまぁ普通だし(何か事情があるなら別だけどさ)相手にも、周囲にもそれを期待されるだろう。俺だって、できれば自分の子が欲しい。死んだ親父がしてくれたように、大きくなった息子とキャッチボールをするのが密かな夢だった。


 けどな、そうして生まれた俺の子は……普通でいられるんだろうか。


 無意識に、あちこちへ〝転移〟しまくる超能力者にならないと断言できるか? 俺には無理だ。


 〝魂の水晶〟に触れなければ大丈夫なのかもしれないが、そうでないという絶対的な保証はない。


 だから、俺は今も独身で通してる。


 ん? だったらミュステリウムで嫁さん貰えばいいだろうって? う、うん、そうかもしれないが……そ、その話はもうやめだ、やめ!


 ……と、とりあえず! 俺の抱えてる事情はだいたいこんなところだ。


 例の「寝ると世界を超える」体質のせいで、昼間は地球で開発系サラリーマン、夜はミュステリウムでちょっとした仕事をしながら生活してる。


 ここから先は、そんな俺の奇妙な日常生活と、俺を取り巻く周囲の様子を(つづ)った手記みたいなモノだと思ってくれ。


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