第9話 不人気から一変して
あの日からレイナード・アーバンクルスの評価はガラリと変わった。
噂は瞬く間に学園中を駆け巡り、今や学園内の人気魔術講師の一角となったのだ。
(あぁ……やりすぎた……)
俺は自分に人気というステータスがついてしまったことに後悔していた。
ひっそりとテキトーに講師生活を送る予定がまさかの大人気講師にまでなってしまったからだ。
廊下ですれ違えば誰かしらに声を掛けられる。
講師室でも同じだ。休息を取りたいのに声を掛けられるため休むことすら出来ない。
くそっ、これは神の悪戯か何かなのか……
日々ストレスが溜まっていく。
今日も例のように自習という名の授業をするべく1年A組の教室へレーナと共に向かう。
赴任して何週間か経って、ようやくレーナとも砕けた関係になってきた。
何となくだがレーナとの関係に距離があり、やりにくい時があった。
対立していた時なんかは特にそうだ。
ちなみに生徒の前では一応『先生』と付けるが、普段は呼び捨てだ。
「それにしてもレイナード、すっかり人気者になっちゃいましたね」
なぜか分からんが嬉しそうな顔をしてこちらを見てくる。
俺は不満全開の表情で、
「ふん、オレは全く望んでいないのだがな」
「またまたー、ホントは嬉しいんじゃないんですか?」
「この顔を見て嬉しそうと思えるなんて……どうやらお前の眼は腐りきっているようだな」
「えー! ひどいですよー!」
少しあたりの強い言葉を掛けるとレーナはしゅんとした悲しみの溢れる表情に変わる。
これが面白かったりする。唯一のストレス発散と言っても過言ではない。
「はぁ……だりぃなー」
お決まりのセリフを吐きながら教室の扉を開ける。
―――ガラガラっ。
「ああ……今日は凄いですね」
「……なぜだ、なぜ……」
教室内はこの時間に授業のない学園生で溢れかえっていた。
ひろーい教室が一気に埋まるくらいだ。
「あ、先生! おはようございます!」
「はよー先生」
いつもと同じようにフィオナが元気よく挨拶をしてくる。
ガルシアは最近、柔軟になってきて以前のような獰猛さは薄れた。
「ああ。ところでフィオナ、これはどういうことだ。前より数が多いぞ」
「いや……私も色々対策はしたのですが……」
そう、この現象は数日前から起こった。
この学園で魔術講師として人気が出始めた頃、時折クラス外の学園生が俺の授業を見に来るようになった。
授業と言っても完全自習スタイルだ。
自ら学び、不明な点があれば助言をするという単純なスタイルだ。
授業とは言い難いものであったのだが、これが人気を博してしまった。
初めは数人だったのだが、これがエスカレート。
今や教室内が暑苦しくなるほどにまでになってしまった。
挙句の果てには学園の講師すら見に来るようになったくらいだ。
こんなのとてもじゃないが自習なんかできやしない。
「悪いフィオナ。今日はもう終わりだ。とてもじゃないが自習なんかできない」
「わ、分かりました……」
フィオナは少し残念そうな顔をするが、まぁ仕方ない。
俺は教室を後にする。
だが、これで終わるような奴らじゃない。
俺が教室を出ていくとすぐに追いかけてくる。
「―――先生!」
「―――レイナード先生!」
ザザっとあっという間に囲まれる。
「―――オレにも魔術を教えてください!」
「―――ワタシにもーーー!」
腕を引っ張られ、どこからかエルボーを食らわせられ、大波乱。
「ちょ、お前らやめろ……! レーナ! 助けてくれ!」
「は、はい! 今すぐ行きます!」
レーナの巧みな口述で何とか助けられる。
というかこれが初めてではないのでレーナがいなかったら今頃どうなっていたか……
俺たちはリラクゼーションルームへと行き、休息を取る。
「はぁ……これが続けば確実にお陀仏だ。天に召されるのも時間の問題だろう」
「そんな……不謹慎なこと言わないでください」
今の俺は心身ともに疲れ果てていて前向きに考えようとする気力すらなかった。
いや、本当にガチで。ぶっちゃけ死んでいてもおかしくはない。
ニートで引きこもりだった俺にこのような過酷な環境。生きている方が不思議なくらいだ。
「いつも悪いなレーナ。お前がいなかったら死んでいただろう」
「そ、そそそんな! 大したことはしていないですよっ」
いきなりの感謝に顔を赤くしながら焦るレーナ。
だが、感謝しているのは本当だ。こんな俺の助手でもよく働いてくれている。
「これからも俺の助手として頼む」
こう言うと、レーナは満面の笑顔で、
「は、はい! こちらこそよろしくお願いします。レイナード」
敬語なのに名を呼び捨てなのは少し違和感があるが、まぁその内慣れてくるだろう。
そんな感じで俺たちが休息の時を過ごしていると一人の若い男が入ってくる。
その男は一直線に俺たちの元へ。
そして俺の目の前で立ち止まった。
「あの……あなたがレイナード・アーバンクルス先生ですか?」
「あ、ああ。そうだが」
(誰だこいつは)
見たことのない男だ。
長身かつブロンドの髪が特徴的で顔は……まぁイケメンだ。
いかにも万人受けしそうな現代若年と言わんばかりの男だった。
見た目だけで判断すれば俺の嫌いなタイプだ。
そして謎の男はいきなり尋ねてくる。
「すみません、あなたにお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
「……は?」
俺は唐突な出来事に思わず、声が漏れてしまった。




