第85話 葛藤とツンデレ
「もう大丈夫なのか?」
「はい、まだちょっとふらつきますけど」
「まったく無理しすぎだ。もう少しベッドで休んでいろ」
「ご、ごめんなさい……」
俺はフィオナのデコを指でピンっとはねる。
最初リーフから聞いた時は何事かと思ったんだぞまったく。
心中そう思いながら彼女に事情を聞く。
「一体何をしてたんだ? 演習で魔力欠乏に陥るまで魔力を使うことは普通はないはずだが……」
フィオナに真相を問いただす。魔力欠乏なんて自分の限界を知っていれば滅多になるものではない。
魔術師を目指し、魔術に適正がある者は基本的に幼子の時点で自分の魔力量の限界を知ることができる。よっぽど自分の魔力を蒸かさない限りは欠乏にまで至ることはないのだ。
フィオナは俯きながら答える。
「そ、その……今のままじゃなんかダメかなって思って」
「それはどういう意味だ?……」
「力不足だなって思ったんです。特にリーフやガルシアを見ているとそう思うんです」
「リーフとガルシア? あの二人と何かあったのか?」
「い、いえ! そういうことじゃないんです、ただ……」
「ただ……?」
その後、俺はフィオナの話を聞いた。
そこで知ったのは彼女の自分の能力についての悩みと他人にはあって自分にはないという葛藤だった。
「なるほど……自分にはリーフやガルシアのような特殊な能力はないと?」
「はい。リーフの治癒能力と強化系統の魔術は正直クラス内では別格だと思います。ガルシアもいつもあんな粗暴な性格だけど魔術を使う時はホントに冷静で素直でパワーを感じつつも器用に魔術を扱える……どれも私にはないものです」
「それで、自分も何か誇れるものを持ちたいと思ってやったこともない大魔術の練習を?」
「はい……」
彼女はずっと下を向いたまま俺と目を合わせない。怒られる……とでも思っているのだろうか。
確かにもう魔技祭まであと一週間をもう切っている。このタイミングで病気やケガをされてたらたまったもんじゃない。特にフィオナのような主力メンバーが消えるのはかなりの痛手だ。
一応俺も常に口酸っぱく言っているわけではないが無理だけはするなとはクラスの連中には忠告している。
でも俺は今この瞬間、生徒たちに伝えていないことがあったことに気がつく。
「顔を上げろフィオナ。それと、放課後時間あるか?」
「えっ? 放課後、ですか?」
「うん。用があるなら別に大丈夫だが」
「い、いいえ! 何にもないです!」
「そうか。なら放課後、演習場に来い」
「え、演習場ですか?」
「ああ。やることはその時に話す。とりあえず今はここで休んでいろ」
「は、はい!」
俺はフッと彼女に笑いかけ身体を休めるよう指示を出し、出口の方へと振り返る。
「ミキ、後は頼む。フィオナのこと、ちゃんと見てやってくれ」
「はいはい、分かりました。ふふふ」
「何がおかしいんだ?」
「何でもないですよ。乙女心は分からなくても生徒想いなのは本当なんですね」
「な、何をいっている! オレは別に……」
「あー分かりました分かりました。それはそうと行かなくて大丈夫なんですか? 仕事、抜け出してきたんでしょ?」
「あ、そうだった。じゃあ後は頼んだ!」
俺は勢いよく扉を開扉させ、急いで設営準備へと戻っていく。
その時ミキは……
「……はぁ、その頑張りを少しは恋愛に向けてもいいと思うんだけどな……」
そう、思ったのだった。
俺はその後、再び設営準備へと戻った。
レーナとハルカそして暇そうにしていたラルゴを無理矢理引っ張り出し、なんとか自分たちの役割を終えることができた。
「ふぅ……あとは雑務か。ホント社畜だな講師ってのは」
「その割にはレイナードはいつも頑張っていますよね。なんか赴任してきた時とはまるで別人です」
「そーそー、私も初めて此処に来たときは驚きましたよ。先生のやる気のなさに」
「お、オレは別にやる気があってこんなことやっているわけじゃない。全ては魔技祭のためだ」
「ホントですかぁ? 結構まんざらでもなかったりするんじゃないんですか?」
「からかうな! それより今は雑務を終わらせないと先へ進めない。いくぞ二人とも」
俺は少しムッとした表情をしながら講師室のある方角へと歩いていく。
「もう……ツンデレなんだから。行きましょレーナ先生」
「う、うん」
「ん? どうかしたんですか?」
「へっ……? い、いや……なんでもないよ」
「……?」
そんなやり取りが行われていた中、アロナード学園別館では……
「そろそろ魔技祭が近づいてきました。皆さん、準備はよろしいですか?」
「「「「「イエス、マイマスター」」」」」
「よろしい。我々神剣十傑には勝利しか許されません。表向きはただの祭りです……でも、我々にとっては違います。そのことをよーく、肝に銘じておいてくださいね」
「「「「「イエス、仰せのままに」」」」」
同日夜の出来事だ。そして、魔技祭まであと5日ほどまでに時間は迫っていた。




