第71話 詰問、そして……
「そ、その……それはどういう意味でしょうか?」
「え、まんまやで? あんたはそこにいる冴えないおっさんのどこが好きなんかと聞いているのさ」
(悪かったな冴えないおっさんで)
突如スカーレットが放った一言によって場の雰囲気がまた違った感じに変わる。
先ほどの勢いのあったレーナとは対照的に今度は一気に奥手になる。
「どうなんやぁ……? ん~~?」
「それは……そのぉ仕事仲間として……」
「え? 聞こえへんよ~?」
人に聞こえないギリギリのラインで話す。
それをじーっと見つめるスカーレットと目をそらし顔を真っ赤に染めるレーナ。そしてそれを影のようにニヤニヤと笑いながら見つめるフィーネ。
さらに学園長室の端の方で爪を噛みながらオドオドするハルカ。
(おいおいなんだよこのさらに混沌な雰囲気は!)
なんか俺の立ち位置がないような気がする。場違い感が半端なかった。
スカーレットに問い詰められてレーナは完全に黙り始めてしまう。
だがそれでもグイグイ行くスカーレット。
フィーネ曰く神魔団にいた時と同様、Sっ気があるのは昔から変わらないようだ。
にしても酷い空気だ。早くこの場から出たい、そんな気でさえもいた。
数分もの間、意味の分からない沈黙が続いた。
そして―――
「はぁ……中々口を割らへんなぁ。まぁええわ、これ以上聞いたらさすがに可哀想だからな」
「う、うぅ……」
熱があるのかと思うくらい赤く染まったレーナにようやくスカーレットが諦める運びとなった。
そして長い詰問に耐えたレーナは腰が抜けてしまったのかその場に座り込んでしまった。
「お、おい大丈夫か?」
「は、はい……大丈夫です……」
具合を悪そうにするレーナの背中をゆっくりと擦る。
そしてスカーレットの方を向き、
「まったく悪ふざけが過ぎるぞスカーレット。フィーネと俺は仕事仲間だ。それ以上でもそれ以下でもない。変な詮索はするな」
「はぁ……こんだけやっても収穫なしか。こりゃ助手の嬢ちゃんも大変やな」
「……何のことだ?」
「いや、なんでもない。ただ一つ言えることはそこにいる嬢ちゃんをもっと大切にすることやな」
「なんだと……?」
疑問を浮かべる俺にスカーレットは少しばかりの溜息を吐く。
「ま、うちからは以上や。世話になったなフィーネ。例の件、考えときや」
「え、ええ。わざわざありがとうね」
最後にスカーレットはニヤリと笑い、俺の耳元に口を寄せる。
そして小声で、
「んじゃレイナードせ・ん・せ・い、今日話したこと頭に入れときや」
「……言われなくても分かっている。さっさと帰れ」
塩対応をする俺にスカーレットはまたも大声で笑い飛ばす。
「はっはっは! こりゃ参った。嫌われちゃったわぁ。ほな、帰れ言われたんでおいとましますわ。達者でな」
「じゃあ私はスカーレットの御見送りでもしようかしら」
「別にそんなんええよ。子どもじゃあるまいし」
「いいえ、あなたはこちら側からすれば客人なのだからそれぐらいしないと」
「はぁ……まぁええわ。ほないこかフィーネ学園長」
「ええ」
去り際、スカーレットはおれとレーナに笑みを浮かべ学園長室から出て行った。
「はぁ……やっと解放された……」
呪縛に解放されたかのようにレーナの具合が良くなっていく。
真っ赤に染まっていた顔も今では正常に戻った。
「悪かったなオレの旧友が迷惑かけて」
「へ、平気です。とてもユーモラスな人でしたね」
「ま、まぁ……あんなアホみたいな性格してるからな。まだ具合悪そうだな……保健室へ行くか? オレが連れていくぞ?」
「そ、そんな悪いですよ……それに私はもう大丈夫です」
「本当か……?」
俺は具合を確かめるべく、額に手を乗せる。
そして顔を近づけ、まじまじと様子を見る。
「あ、あの……」
「ん、どうした?」
「えっと……えっと……」
レーナの顔はまたも赤くなっていき、俺とまともに目も合わせられない状態となってしまった。
「お、おい大丈夫か? やっぱり具合が悪いんじゃないのか?」
全力で首を振るレーナだが、声も出せないほど苦しそうだった。
これは恐らく俺に気を遣っての否定なのだろう。
だが今の時期にレーナに倒れてもらうのは大変痛い。俺はすぐさま決意する。
「えっ……! 先生!?」
俺は何も言わずにレーナをお姫様抱っこする。
「しっかり掴まっていろ。オレが今すぐ保健室へと運んでやる」
「い、いいです。大丈夫ですから!」
「いや、よくない。それにさっきより顔が赤い。これは紛れもなく体調の悪い証だ」
時間が経つにつれどんどんレーナの顔が赤く染まっていく。
これはやばい、重病だ。
「おい、ハルカ」
「ひゃっい!?」
いきなり呼ばれたからか飛び跳ねたような声を出す。
「レーナの仕事分を頼めるか? 埋め合わせはきちんとする」
「そ、それは大丈夫ですが……」
「そうか、ありがとう。オレはレーナを保健室へと運ぶ。統括にもそう伝えてくれ」
「わ、分かりました……」
「じゃ、頼んだぞ」
俺はそのままレーナを抱っこし、保健室へ向けて走っていく。
それをハルカは羨ましそうに見ていた。
「いいなぁレーナ先生、羨ましいなぁ。……でも、今度は私が……!」
ハルカは自分の右手をギュッと握り、その拳を天に掲げる。
そして俺は広い学園をお姫様抱っこで駆け回り、目的地の保健室へと辿りつくことができたのであった。




