第41話 奴隷の子
描写不足と設定に対する誤りがございましたので修正いたしました。
○3文目 描写の追加
○「おじさん」→「おばさん」に変更。
本当に申し訳ございませんでした。
「いつからお父さんになったんですかー!?」
「んなわけあるか。俺は父親でも養父でもない」
というかなぜ俺のことを父親だと認識したのだ?
今は女の姿のはずだ……
だがまぁそんなことは今はいい。
身体は回復していても意識は完全には回復していない様子だった。
大丈夫かと問いかけるが、再び眠ってしまう。
「流石にこんな短時間では完全回復は無理か」
「癒える前の傷を見てみたら古傷がいくつもありました。恐らく長期間に渡ってこのような扱いを受けてきたんでしょうね……」
「精神は一度傷を負うと回復までに相当なスパンを必要とする。魔術では精神を完全に操ることができても回復させることは不可能だからな」
俺の行使した治癒魔術、≪アンリミテッド・ヒーリング≫には精神回復を促す作用があるが直接的に精神を癒すことはできない。
最高位魔術であっても精神を完全に癒すことはできないのだ。
「とりあえず寝かせておくか。当分は起きないだろう」
「そうですね。ハルカの居場所も分かっていませんし……」
俺たちは寝かせた女の子の上に自分の着ていた魔術講師の制服をかける。
そして静かに去ろうとすると、
「ま、待って……ください」
ん? なんだ?
俺たちが後ろを振り向くと女の子は再び意識を取り戻していた。
「お、おい……大丈夫なのか?」
女の子はうんと頷く。
どうやら今度はしっかりと意識を取り戻したみたいだ。
「痛むか?」
そう聞くと女の子は首を横に振った。
「そうか、良かった」
とりあえず大丈夫そうで一安心する。
しかし、脅威的な回復力だ。
あれだけの傷を負い、精神に多大なる負荷がかかっていたはずなのにほとんど回復している。
相当な精神だ。
「あの……助けていただいてありがとうございました……」
下を向き、囁くようにお礼を言う。
「気にするな」
「うん! 無事でよかったよ~」
今まで苦痛を多く味わってきたからか消極的な雰囲気を感じる。
まぁ、先ほどみたいに事あるごとにサンドバックにされればそうなるのも当然か。
「名前はなんて言うんだ?」
女の子は人の耳に届く限界くらいの声量で答える。
「お、オルカ……です」
「そうか。じゃあオルカ、質問をしていいか?」
「しつ……もんですか?」
「ああ、君のことを教えてはくれないか?」
オルカはうんと首を縦に振り、承諾する。
「よし、じゃあまず君はなぜこんな所にいる? なぜあのような扱いを?」
オルカはゆっくりと話し始める。
「私は奴隷という商品でありながらこのお屋敷で使用人の仕事をしているんです」
「使用人?」
「はい。元々この蔵は売買される前の奴隷たちを保管するための場所でした。しかし私の僅かな能力に興味を示したゲッコウ様はあえて私を生かしたのです」
そうか、ここは奴隷収容所だったのか。
それにオルカが言う僅かな能力……あの驚異的な自然治癒能力だろうな。
それをゲッコウは見出したという事か。
俺はさらに続ける。
「それにしても使用人にしては扱いが酷いな」
「確かにそうですね。同じ使用人なのに……」
こう話すとオルカは、
「無理もないです。私は奴隷一家の娘だったので生まれた時から奴隷としての運命がありました。こうやって生かされているだけでも幸運なんです」
なるほどな……奴隷家族か。
奴隷制度は珍しいことではない。
この国に限らず、世界各国に奴隷制度は存在する。
国によっては一つの大きな市場となっている所もあるわけだ。
奴隷として駆り出される者は主に貧困層の女や子供が中心だ。
男は強制労働を軍や貴族連中から強いられるため、売買されることはあまりない。
だが例外もある。
例えばオルカみたいな奴隷家族だ。
奴隷家族はその名の通り奴隷同士で子を産ませ、一種のルートを作りだす。
これをループさせればわざわざ奴隷を調達する必要がなくなるというわけだ。
決められた運命なんてくだらない。
こう聞くと奴の事を心底嫌いになってきた。
だがまぁ、とりあえずゲッコウがどのような人物なのかは分かった。
それにハルカを探さないと次なる行動へ移せない。
俺はオルカに手を差し伸べる。
「なぁオルカ。こんなジメジメした汚らしい所にいないで俺たちと来ないか?」
「えっ……?」
オルカはきょとんとした目をする。
まぁそういう反応を取るだろうな。
いきなり来ないかとか言われても反応に困ることだろう。
しかし今は時間が全てだ。
迷っている暇はない。
全てが終わったとしてオルカを助けられる保証はない。
それにこの屋敷の情報が足りないこともある。
オルカが一緒に来てくれれば一気に効率良く事が進む事だろう。
そこで俺はオルカに事情を説明し、来てくれないかと再度聞いてみる。
「で、ですが……私は奴隷です。裏切るようなことをしたらゲッコウ様に……」
「じゃあ、こんな絶望的な生活をこれからも続けていくというのか?」
「それが運命なんです……運命は簡単に変えてはいけない気がします」
こんな生半可な交渉じゃ響かないか。
どうしたものか……中々前に進めない。
かといってここに放置するのも妥当な選択ではないだろう。
俺が考え始めるとレーナがオルカの前にちょこんと座る。
「ねぇオルカちゃん。オルカちゃんの望みってなーに?」
「私の……望み?」
「うん」
オルカは無気力な表情で俯く。
「私に望みなんてありません。奴隷の私は何かを望んではいけないんです」
「本当にそうかなぁ……」
「えっ……?」
レーナはオルカの目を見て話を始める。
「望みを持つことに身分は関係ないと思うんだ。こう見えて私も昔は奴隷だったんだよ?」
「そ、そうなんですか……?」
「うん。私も同じような事を考えてた。これが私の運命なんだなって……でもそれは違ったの」
「違う……?」
「そう。死人のように無気力だった私に手を差し伸べてくれた人がいたの。私にとってその瞬間は凄く眩しくて、暖かった」
レーナはオルカの手を握り、話を続ける。
「私はその時に思ったの、運命だからという理由で自分を見捨てちゃいけないんだって」
「自分を見捨てちゃいけない……」
「うん。オルカちゃんの本当の願いはなに?」
「私の本当の願い……」
オルカは一瞬目を瞑り、レーナの方を向く。
「ここから出たい……自由が……ほしい!」
「うん! じゃあ、自由のために私たちと一緒に来ない?」
「……は、はい!」
差し伸べたレーナの手に鎖で繋がれた手でそっと触れる。
オルカは立ち上がり、俺の元へ。
「あ、あのおばさん! 私もついていっていいですか?」
お、おばさん……俺はそう見えるのか。
まぁ……年齢的そう見えんでもないが……
自らの姿ではなくても少しショックな気分になる。
だが俺は快くオルカを迎える。
「ああ、もちろんだ。それと俺の名はレイナードだ。覚えておけ」
「は、はい! ありがとうございます、レイナードおばさん!」
お、おお……
あくまでおばさんは揺らがないのか。
複雑な感情だが、まぁいい。
「よし、じゃあ二人とも次に行くぞ」
「はい!」「はい!」
俺たちはオルカを引き連れ、ハルカ捜索に向かう。




