第34話 駆け引き
「どういうことですか、ゲッコウ様。今まではそんな素振り……」
「気が変わったのだ。お前は恐らくしきたりを破ることとなるだろう。それは何を意味するか分かっているんだろうな?」
「は、はい……」
「なら答えは出ているはずだ。相手を待たせてしまっている、行くぞ」
ドスのきいた低い声で彼女を圧倒する。
その存在感はとてつもないものだった。
近づいただけでも焼けそうな……何か強い力を秘めている、そんな感じだ。
従うしかないハルカ。
コクリと頷き、ついていくことを承諾する。
(なるほどな……あれが原因か)
状況を察する。
それにしてもあの不愉快なオーラはなんなんだ?
目に見えて分かる強い覇気。
魔力によるものか? いや……違うな。
ゲッコウの身に宿している謎の力が何かが分からない。
今まで色々な奴のオーラに触れてきたが、あいつは他の奴とはまた違うものを感じた。
まぁとりあえず最初はあいつのことを知るのが先決だ。
俺はすぐ横にいたレーナに五感魔術を用いる。
『おい、レーナ聞こえるか?』
『えっ……?』
レーナは俺の方を向き、驚くような表情をする。
『五感魔術を使って言葉をお前の脳に伝達している。とりあえず聞け』
『あ、はい』
俺はとりあえずレーナに指示を送る。
まず一つは感情的にならないこと。人は感情的になればなるほど冷静さを欠きやすくなる。チャンスがピンチに変わるのもこれが原因になることがある。
そして二つ目は相手をよく見ること。行動や仕草は大きなヒントになる。そこから答えを導き出すことは決して難しいことじゃない。
そして最後に勝手な行動はしないこと。俺が指示をするまで動かない。
以上のことを伝え、俺は彼女についてくるように言う。
もし仮に交戦状態になりえる状況になってしまったらレーナには下がるように伝えた。
ハルカは俺たちの方へ向き、ニコッと笑う。
(あいつ、何笑ってんだ?)
俺たちが諦めたように見えたのか奴らに抵抗する素振りを見せない。
ふざけるな。俺がわざわざここまで来た理由はなんだ?
お前に自由を与えるためだ。
悪いが簡単に終わらせるわけにはいかない。
それにこの俺をガン無視とはあの男、いい度胸をしている。
ハルカしか見えていないのか知らんが、気に食わない。
俺はゲッコウと言う男の行く方向に立ちはだかる。
「ちょっと待ってもらおうか」
「ん? なんだ貴様」
「オレか? オレはそこにいるハルカ・スメラギのワークメイトさ」
「ワークメイト……? ああ、報告で聞いたな。なんかくだらんことをやっていると」
「報告……? ということはお前たち彼女を監視していたってことか?」
さぁ……ここからは駆け引きだ。
できる限りの情報源を手に入れたい。
俺は奴の表情を見ながら話を進める。
「もし仮にそうなら、それは異国間交流法に違反しているのではないか?」
「ふん、今時現地に出向いて監視する奴などおらんわ」
「と、いうことは追従系の魔術とかか?」
「それをお前に言った所でなんのメリットになる?」
「いや、単なる興味だ」
なるほど。恐らく魔術ではないのは間違いなさそうだ。
微かにだが、顔に余裕らしきものが見受けられた。
それにこいつからは魔力をあまり感じない。
正直その辺の底辺魔術師よりもないくらいだ。
そう思えばこの莫大な力はより不自然さを増す。
それにこの国で魔術を使用する者はハルカ説によると少ないらしい。
そこから模索すると魔術を使っているという可能性は低くなる。
そしてそれ以外に考えられるとしたらマジックアイテムだ。
それは人の生活スタイルや行動を映し出すマジックアイテム<グラウンズミラー>。
一般人の間では決して流通しない封じられしマジックアイテムだ。
主に王室護衛、いわゆる重役人の身を守るための監視用として用いられる。
世界でも五つほどしか存在していないとのことだ。
この情報は決して一般人の耳に入ることはない。
耳に入るのは莫大な力を持った国と神魔団のメンバーくらいだ。
神魔団には優秀な工作員がいる。
普通なら絶対に持って帰れない情報を持ち帰って来るので団にとってはとてつもなく大きな存在だった。
(これは国が絡んでいる可能性が高いな)
おそらく黒幕はこいつとはまた別にいる。
彼ともう一人、この国を動かせられるような膨大な権力を持ったものが。
繋がりを暴けば必然的に答えが見えてくる。
「貴様は何がしたいのだ? 悪いが我々は急いでいるのだ。そこをどいてもらおうか」
おっと、どうやらここまでのようだ。
これ以上攻めると交戦状態になりかねない。
俺はすぐ後ろに下がる。
俺がその場から下がると奴らはそのまま歩いていく。
ハルカとすれ違う時、俺は彼女に目で意思を伝える。
それに気づいたのか、ハルカは首を縦に振りそのまま闇の街へと消えていった。
「レイナード……」
去った後、レーナが悲しそうな顔をして俺を呼んだ。
「どうしたレーナ」
「私……何にもできなくて」
自分が何もできず立っていたことに悔しさを感じているみたいだ。
俺は彼女の潤んだ目を見て、
「気にするな。大雑把な情報は掴めた。収穫はなかったわけじゃない」
「す、すみませんでした……」
俺は彼女に気持ちを切り替えるように言う。
「レーナ、落ち込むのはまだ早い。次なる行動に移すぞ」
「何をされるおつもりで?」
「ふん、ついて来れば分かるさ」
俺はそう言って再度繁華街の方へと足を運ぶ。
「え? あ! ま、待ってくださいレイナード!」
レーナは疑問に思いながらも走って俺の後についてくる。




