第31話 王都、エドゥー
「レイナード先生、起きてください!」
「いや……起こさなくていいですよ。気持ちよさそうに寝ているじゃないですか」
「いや、この姿を見せればレイナード先生の身体の疲れも吹っ飛びますって!」
「私は恥ずかしくて見せたくはないんですけど……」
声が聞こえる。
騒がしい声だ。
人の数少ない睡眠時間を邪魔するなんて……。
とにかくうるさかったので注意することにする。
「おい……静かにして……」
目を開けた瞬間、二つの大きな凸が目に入る。
(で、デカいな……)
「あ、やっと起きましたね」
目の前に立っていたのはハルカだった。
そしてその後ろでは恥ずかしそうに佇むレーナの姿があった。
「ほう……ちゃんと水着になっているじゃないか」
「変成術には少し自信があるんで」
自信満々な様子を見せる。
確かに凄いクオリティだ。とてもその辺に生えていた葉で作ったものとは思えない。
だが、レーナはどうも慣れないようで落ち着きがなかった。
「レーナ、別に変じゃないぞ。なぜそんな恥ずかしがる?」
「そ、それは……その、スースーするんですよ」
要するに水着を着ている感覚があまりないという。
それはまぁ、元々の素材が葉っぱでできているため仕方のないことだ。
変性と言っても元々の素材まで変わるわけではない。
「その……やっぱり恥ずかしいです……」
「そうか? オレはいいと思うぞ」
恥ずかしがるレーナをフォローする。
普通の男なら確実に釘付けになる光景だ。
二人ともスタイルや容姿はピカイチだ。正直、周りの女とは次元が違うと言ってもいい。
レーナは年相応の若々しい雰囲気を漂わしている。胸も大きいし、身長もそこそこあって細身だ。
文句のつけようがない。
ハルカに関しては逆に年不相応な感じだ。
見た目、スタイル共に三十路となった女とは思えない。
大きいところはしっかりと大きいし、細いところは細い。
世の三十路はこの美貌に不公平だと嘆くことだろう。
「れ、レイナード……あまり見ないでください」
「ん? ああ、すまない……」
それを見ていたハルカがニヤリと笑ってこちらを見る
目線が合うとハルカは、
「レイナード先生は一件クールな方かと思いましたが、やっぱり漢なんですね!」
「おい、どういう意味だ」
「なんでもないですよー。じゃあレーナ、行きましょう!」
「えっ? ちょ、ちょっと……」
ハルカに手を引かれ、レーナは湖の中へ入る。
バシャーンと音を立て、水しぶきが舞う。
その水しぶきに光が反射してキラキラと輝いているように見える。
「冷たくて気持ちいいです!」
「この時期の水浴びは最高ですよね!」
二人とも楽しそうな笑みを浮かべている。
「ふん、ガキかあいつらは」
バカにするような目で彼女たちを見る。
そして再び眠気に誘われてそのまま熟睡してしまった。
* * *
「レイナードー起きてくださいー」
「ん……」
俺は目をこすりながら起き上がる。
「そろそろ行きましょう。日が暮れる前に向こうに着きたいので」
いつの間にか彼女たちは水着姿ではなくなっていた。
そして俺たちは馬車に戻り、目的地へ向けて出発した。
馬車がガタガタと音を立てる。
俺は懐にしまってあった懐中時計を確認する。
時刻は15時前を指していた。
「おい、ハルカ。到着予定時刻は分かるか?」
「そうですね、この調子ですと16時くらいには向こうに着くんじゃないですか?」
「そんなに早く着くのか」
10時間以上かかることを前提として旅を計画していたので早く着くのは嬉しい限りだ。
その分、宿を探す手間など面倒な事が楽になる。
灼熱の天候は相変わらずなので、身体を常に冷やしておかないといけない。
(はぁ……早くついてくれぇ……)
馬車で揺られること1時間弱、俺たちは遂に目的地のホンニへ到着した。
「あ、見えてきましたよ。あそこがホンニの王都、エドゥーです」
「やっとか……」
耐えに耐え抜いた身体は既に悲鳴を上げていた。
今すぐにでも盛られた氷の山に顔を突っ込みたい勢いだった。
こんなことなら動かなくとも湖の中で寝れば良かったなと思う。
馬車は検問へと入っていく。
入国審査書と身分証明書を見せ、滞在許可を示すお札を貰う。
「滞在している間はこれを常に携帯しておいください。無くしたら罰金なので」
おお、マジか。
いくらかかるのかは知らんが、こんなくだらない所で数少ない資産を失うわけにはいかない。
しっかり携帯しておこう。
俺は講師用の制服のポケット中に4次元空間を作りだし、そこに厳重に保管しておく。
俺たちは馬車を降りて辺りを見回す。
「クロードとは何もかも違うな……まるで別世界に来たようだ」
「そうですね、建造物のつくりや服装も全然違いますね」
見たこともないような新しい世界に思わず、見入ってしまう。
隣国とはいえ、距離はかなりある。
その上、異国人が出入りしたりすることが少ないらしいのでこの国を知る者はそれほど多くはないという。
「とりあえず、泊まる宿を探しましょう」
「そうですね、もうすぐ日が暮れますし」
「ああ、賛成だ」
時刻は16時をまわっていた。
夕方から夜にかけて宿舎は多くの人が集まるという。
なのでラッシュに巻き込まれないよう、早めに寝泊りするところを探す必要があった。
「あ、皆さん。ここはどうですか?」
ハルカが指を指したのは、一見古臭そうに見える宿だった。
ハルカが言うにはこの国では有名なロテンブロというものがあるらしい。
「外にいながらお風呂に入れるんですか!?」
食いついたのはレーナだ。
「はい、ホンニでは結構普通のことなんですよ」
「入ってみたいです! ね! レイナード」
「お、おう……」
いつもよりレーナが熱い。
こんな奴だっけか? もっと大人しいイメージだったが、こういう顔もするのか。
というわけで泊まる宿が決まった。
二人がルンルン気分で宿の中に入っていく。
その時だった。
―――ザザッ!
「……!?」
俺はすぐ後ろを振り返るが、誰もいなかった。
(なんだ、今の気配は……)
しばらくの間、その場で止まっていたが特に変化はなかった。
「気のせいか……」
「レイナードーはやく行きましょー!」
「ああ、今行く」
俺は不信感を覚えながらも宿の中に入っていった。




