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第3話 魔術講師、レイナード先生

 王立アロナード総合魔術学園。

 クロード王国の中でも最大規模を誇る魔術学校である。毎年多くの生徒がこの学び舎で学び、より有力で高度なキャスターの育成のために日々尽力している。

 魔術学校とはいっても魔術だけ学ぶわけではない。剣術、体術、錬金術……様々な分野に渡って学べることができ、それがこの学園の大きな特徴でもある。

 そしてこの俺、レイナード・アーバンクルスはこの学園の魔術講師として勤務することになった。

 全ては平穏な引きこもりニート生活を取り戻すため……ただこれだけのために俺は講師という道をやむを得ず選んだのだ。

 

 待っていろニート生活。早く金を貯めて自由を手に入れてやる。




 * * *




 

 ―――ジャーーーーーー。


「ふう……」


 俺は髪を拭き、体を拭いた後、シャワールームを出る。

 そしてすぐに洗面台へ。

 フィーネに汚いと言われ、初対面の女に不審者扱いされたこの顔を綺麗にすべく、シェーバーで髭をそる。

 再度、顔を洗って洗顔料をたっぷりとつける。

 そして最後にタオルで拭く。


「よし、これなら何も言われることはないだろう」


 フィーネが用意してくれた魔術講師用の制服を身に纏い、シャワールームを出る。


「あ! おかえりなさい。スッキリしましたね」

「ん? お前、まだいたのか」

「はい、この後会議なのでご一緒にと思いまして」

「ああ、そうか」


 ということで一緒に講師室へ。


「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はレーナ・アルフォートと言います。今年で2年目の魔術講師になります」

「レイナード・アーバンクルスだ」

「よろしくお願いします! レイナードさん!」

「ああ、よろしく」


 元気なお姉さんだこと。歳は20歳くらいといった所だろうか。

 実際よく見てみると彼女もフィーネに引けを取らないくらいの美人だ。スタイルもいいし、世の男性からすれば文句なしだろう。


 ちなみに俺は全く興味がない。異性に関して意識をしたこともないし、向こうからそういったお誘いが来るわけでもない。

 ぶっちゃけ同じ種族という認識しか持っていないのだ。

 だからこの歳になっても嫁さん一人貰えない。

 まぁ別に俺は一生独身でも構わないがな。正直独り身の方が楽だ。


「あの……レイナードさんってここに来る前は何をされていたんですか?」

「えっ……?」


 いきなり痛い質問である。

 引きこもってニートやってました、なんて言えるわけがない。

 かといって過去の話が言えるわけでもなく、返答に迷う。


「ふ、普通に商人をやっていた」


 咄嗟に出た回答がこれだ。俺の歴史上で商人という言葉は欠片も見つからない。

 こんなのが昔、世界を轟かせた英雄だなんて笑い話もいいところだ。

 そのような貫禄はとっくの昔に失せている。


「商人をしていたんですか。ということは元々キャスターじゃないんですか?」

「え、まぁうん。そうだな」


 でたらめな回答を平然とかます。

 ここでキャスターやってましたとかいうと話がややこしくなりそうだからな。

 時には嘘も正義なのだ。


「あ、ここが講師室ですよー」


 俺はレーナに案内され、中に入る。

 中ではこの大勢の講師陣が一堂に会していた。


(なんだよ。すげぇ講師いるじゃねぇか。なにが講師不足だ)


 なんか上手い具合にハメられたと思い、不機嫌になる。


「それでは講師の皆さん、これから会議を行いますので集まってください」


 なんか偉そうな人が出てきた。

 レーナが言うには講師統括という学園の講師陣のトップに立つ者で元ルミリエ所属のキャスターらしい。


 ルミリエ魔法騎士団。まだ魔王が健在した数十年前の話だ。

 俺は神魔団の一員としてその時代を生きていたが、それとは別にルミリエ魔法騎士団という中堅キャスターによる大規模なギルドが存在した。今は魔王を討伐したことによって解体されたらしいのだが詳しいことは知らない。


「えー、ここで皆さんに新任の先生を紹介致します。レイナード先生」


(ん? オレか)


 大人数の講師陣の前で自己紹介が行われる。

 これから頑張ります的なことを言ってテキトーに自己紹介を終わらせる。

 にしてもこれだけ元英雄が顔を晒しているというのに誰も不自然な顔を見せない。

 まぁ、あれから20年くらい経つからな……それにアーク・シュテルクストは原因不明の病で死んだことになっている。

 まさか今ここに立っている冴えないおっさんが魔王討伐を成し遂げた英雄だとは誰も思わないだろう。


 会議は順調に事を運び、何事もなく終わりを迎えた。 


「最後にレイナード先生、レーナ先生は残っていただけますか?」

「あ、はい!」

「は、はぁ……」


 そんなわけで講師統括様に呼び出された。


「ようこそ、アロナード総合魔術学園へ。私は講師統括のエルナーです」

「レイナード・アーバンクルス……です」


 改めて個人的に自己紹介をし、握手を交わす。

 きちっとした身だしなみに綺麗な黒髪ロング、講師統括にしては少女感が漂う美女だ。

 基本的に魔術学校の講師は美人率が高い。

 なぜかは俺には分からん。人気の職か何かなのだろう。


「もう学園長から聞いているかと思いますが、レイナード先生には今年入学したばかりの新入生を担当していただきます。元々勤務していた担任の先生が急な事情でやめなくてはならなくなってしまって……」

「はぁ……そうですか」

「いきなり担任を持つことは大変だと思うので今年はレーナ先生に助手としてついてもらうことにしました」

「じょ、助手ですか?」

「はい。受けてもらえますか?」

「は、はい! ぜひ!」


(レーナが助手に入るのか……ということは一人で担任を受け持つわけではないということか)


 俺の中の現時点での講師プラン、それはいかに自分に負担がかからず一日を過ごせるかだ。

 基本的に面倒なことはしない。無駄な行為を省いて、省いて省くことによって講師プランとして究極のサイクルを作り上げる。それが今やるべき第一の課題だ。

 それに今回は嬉しいことに助手がいる。これは大いに活用せねば。


 頭の中でいかに楽な方法で講師生活が送れるかをひたすら考えていると、


「レイナードさ……あ、先生! これからよろしくお願いしますね! 足りない所だらけの私ですけど全力で先生をサポートしますっ!」


 猫耳をピクピクさせながら俺の方を見てくる。

 そして俺には眩しすぎるくらいの輝かしい笑顔を向けてくる。

 なんて眩しい笑顔なんだ。こんな笑顔、俺は一生かかってもできないなと思った。


「うん、よろー」


 ゆるーい感じで返答。


「それじゃあレイナード先生、これからよろしくお願いしますね」


 エルナー統括講師は一言言って講師室を去る。

 さてと……俺たちも……


「レーナ……先生でいいのか?」

「え? ああ、呼び方とかですか?」

「そうだ、これから一緒にやっていくんだ。なんて呼ぶかくらい決めておかないと」

「普通にレーナで大丈夫ですよ」

「分かった。じゃあオレのこともレイナードで構わない」

「あ、はい! 分かりましたレイナード」


 呼び方も決まったことだし、俺たちは生徒のいる教室へと向かう。

 とりあえず今日は様子見だな。俺が担当するクラスにどんな奴がいるのかまだ分からない。

 今日の所はレーナに任せるとしよう。


「あ、そうそう。そういえば私も担任持つのは今年が初めてなんです」

「そうなのか」

「はい! 去年は事務的な作業ばかりで……だから今年は凄く楽しい一年になるんじゃないかなーって」

「そうか」


 楽しい一年どころか地獄の一年になりそうである。

 だが、これもニート生活に戻るための試練。運よく生計の目処が経ったら一年で講師生活を終えることもできる。

 我慢、我慢だ。


「ここですよ、レイナード」

「ああ」


 ―――ガラガラっ


「―――あ、先生入ってきた」

「―――あの人が新しい先生?」

「―――結構いい感じかも!」

「―――もう一人の先生も可愛い!」


 教室内がざわつき始める。

 俺は教卓の方へ行き、近くにあった椅子によっこらせと腰を掛ける。


「……えーっと」


 教室内がシーンと静まり返る。


「うーん……よし決めた。お前ら勝手に自習でもやっとけ」


「……え?」


 俺のこの一言で教室内が沈黙の渦に巻き込まれた。

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