第23話 水入らずの会話
―――ドサッッッ!
俺は王宮で使われてそうなキングサイズのベッドに向かってダイブする。
「ふかふかだなぁ……うちのとは大違いだ」
生きている環境の差に少し妬く。
「あいつら……どうやってここまで富を手に入れたんだ? 神魔団の時は兼業で冒険者をやっていたというのは聞いたことがあるが……」
冒険者の収入ではこんな屋敷などとてもじゃないが買うことはできない。
疑問が積もっていく。
―――コンコン。
いきなり扉を叩く音が聞こえた。
「俺だ。今、いいか?」
この声はレザードの声だ。
「あ、ああ。構わんが」
―――ガチャ。
レザードが部屋に入ってくる。
「どうした? 何か用か?」
「ちょっとお前と一対一で話したくてな」
「奇遇だな、ちょうど俺も聞きたいことがあった」
レザードは近くにあった椅子に腰をかける。
そして少し間、沈黙が続く。
沈黙の後、彼はそっと口を開き始める。
「お前はなぜ魔術講師なんてやっているんだ? 引きこもりだったお前が珍しい」
「フィーネに無理矢理やらされているだけだ」
「フィーネ? フィーネ・アロナードのことか?」
「そうだ、それ以外考えられんだろ?」
「そういえば……学園に携わる何かをしていると風の噂で聞いたことあるな」
「学園長な」
とは言っても相変わらず表情のない奴だ。
感情があるのか疑うレベルである。
人間は感情の生き物であると言われるが、こいつにはそんな定義は当てはまらない。
さっきレーナに対して見せた表情の変化には本当に驚いた。
こいつにも感情があるのだな……と。
「で、お前はなぜこんな豪邸に住んでいる? 深山で修行していたと聞いていたが」
今度は俺がレザードに質問をする。
するとレザードは、
「とある目的ができてな。山を離れることになった」
「とある目的?」
「ああ、”ある物”を探していてな」
テーブルに肘を立てながらレザードは言う。
レーナと出会った時もこの時期だったようだ。
山を出ていく二日前辺りで彼女を見つけたらしい。
俺はレザードの目を見る。
「一体何を探しているんだ?」
レザードは突然俺の方へと目を合わせる。
そして一言。
「魔剣だ」
「魔剣?」
俺はあまりピンとこない。
レザードは説明を始める。
「ああ。1000年前、人類が初めて魔王を倒した時に当時の勇者は魔王の邪念が世に流れ出ないよう、一本の聖なる剣に邪念を封じ込めた。そしてその剣は今もどこかの島の地中深くに眠っていると言う」
「それを探しているのか?」
「そうだ。だが、その後魔王は二度復活した。お前も見ただろう? 魔王を倒した時、邪悪なオーラが天に向かって飛んでいくのを」
薄らとした記憶しかないが、邪悪なオーラは感じた。
俺だからよかったものの普通の人間があのオーラに触れたら恐らく大変なことになっていただろう。
それほど魔王の邪念に関しては物凄かった記憶がある。
「それで、その話と魔剣にどう関係あるんだ?」
「その邪念の行く先が魔剣の在処ではないかと踏んでいたのだ」
「そのオーラが飛んで行った先にその魔剣はあると?」
「そういうことだ」
レザードは魔王を討伐した後、密かに飛んで行ったオーラを追いかけていたらしい。
高度な転移魔術を駆使し、追いかけて行ったが最終的には消えてしまったらしい。
「今も捜索は続けている。この屋敷はその過程で手に入れたものだ」
「過程?」
「ああ、俺は今、国家間の貿易関係の職についている」
「貿易……だと?」
邪念が消えた所を基点に近くの国と貿易をし、情報を手に入れているらしい。
そしてこの屋敷はその貿易で得た莫大な富で買ったものだと言う。
一人でやるにはさすがに手間がかかるということでセントレアも手伝うことになり、ここに一緒に住んでいるらしい。
なんと贅沢な……俺なんか低所得の上、社畜のように働かせられているというのに。
自分と比べると余計惨めな気持ちになってくる。
「お前は今どこに住んでいるんだ?」
「ああ? オレは王都で借家借りて住んでいるが?」
ちょっと不機嫌になった俺は嫌味を含んだ返答をする。
まったく……そんなことを聞くとか喧嘩売っているのか?
だが、レザードは、
「そうか、まぁ何かあったら言ってくれ。元神魔団のメンバーとして俺のできることなら力になろう」
「そりゃドーモ」
レザードはそう告げて寝室から出て行った。
「はぁ……いいなぁ、金持ちになりてぇー」
俺の目標はズバリ、あの天国のような毎日を過ごせたニート生活の復活だ。
莫大な富があれば、一生遊んで暮らせる。
やりたい放題、今度はフィーネとかにもごちゃごちゃ言われなくて済む。
独立してニート生活を実現できた時、俺は真の天国に足を踏み入れたことになるのだ。
それまで我慢だ……耐えるしか……ない!
俺は再度、ふかふかのベッドへダイブする。
「あぁ~ようやく休める」
最近は残業が多くなってきてロクに睡眠時間も取れていない。
とことん爆睡する時間を設けないと、身体が持たない。
そして俺は横になっている内にいつの間にか深い眠りについてしまった。




