第13話 レイナード先生、課外授業に行かされる
時はラルゴとの決闘があった次の日になる。
「すごく疲れてますね……レイナード」
「ああ……昨日のあれが影響した」
日々の疲れが腰痛や頭痛などに変わり、俺は昨晩寝ることすら許されなかった。
よって寝不足の上に身体も痛い、その上精神的なストレスも溜まっているという三重苦に見舞われていた。
そして俺はいつものようにレーナと共に教室に向かったのだが……
「あ、おはようございます! 今日も良い天気ですねぇ」
なぜか我がクラスの教壇にラルゴ・ノートリウムが立っていた。
その上、沢山の生徒たちを連れてきていかにも何かをやりますという雰囲気を出していたのだ。
「おい、これはどういうことだ?」
やっと静かな講師生活を送れると思った途端この始末。
ストレスが溜まっていたのもあってか、つい感情が表情に出てしまう。
「れ、レイナード先生? 怒ってます?」
俺の身体から異様な雰囲気を察知したのだろう。ラルゴはいきなり低い姿勢で応対する。
「当たり前だ。よそのクラスで何をやっている」
俺の表情が段々と険しくなっていくにつれてラルゴの顔にも焦りが出てくる。
「い、いや……その、せっかく昨日あれだけ盛り上がったんでいっそ合同で……」
「断る!」
俺は最後まで話を聞かずに拒絶する。
この自習の時間を睡眠時間にあてようとしていた俺の計画が崩れるからだ。
しかもこのラルゴとか言う男、とにかく動くことが好きで暇さえあれば指導と称して生徒たちとドンパチやっているのだそうだ。
「どうしてです? みんなで授業をやったほうが楽しいではありませんか!」
(相変わらず身振り手振りが鬱陶しい奴だ。こんな奴が宮廷魔術師だなんて世も末だな)
こう思いつつ俺はラルゴにはっきりと申す。
「悪いがお前の授業スタイルとオレの授業スタイルは全く違う。オレは静かに授業がしたいんだ」
ここまで言えば、さすがに食い下がるだろう。
と、思っていたのだが、
「そうですか、静かな所をご所望と! ならば皆でハーバー高原へ課外授業に行くのはどうでしょうか? あそこは静かでいい場所ですよ」
「……」
俺の言っていることは見事に通じていなかった。しかも話は俺を抜いてどんどん進んでいく。
「いいですね! 私も賛成ですラルゴ先生」
「俺もだ。昨日の決闘を見て思いっきり動きたくなった」
フィオナとガルシアも大いに賛成のようだ。
その他A組、B組の生徒も賛成の念を推した。
「ではそうしましょう!」
同じ講師である俺の意見を聞かずに話が決定してしまった。
(ふざけんなよ……)
そんな中で俺の心中を察してくれたのはレーナただ一人だった。
それ以外は”あのバカ”と一緒に勝手に盛り上がっていた。
「これは断れないですね……」
「……レーナ。骨は拾っておいてくれよな」
「えっ!? な、何を言ってるんですか!?」
そんなわけでA組とB組で合同課外授業が行われることになった。
* * *
時刻は昼過ぎ。
王都から数分の高原地帯に俺たちはいた。
「殺人的な暑さだ……」
ラルゴの言う通り、これほど良いという日はないくらい天気に恵まれていた。
照り付ける太陽の光が俺の身体を少しずつ喰らっていく。
ちょっとでも運動したら蒸発しそうな勢いだった。
「さぁ……皆さん集まってください!」
ラルゴの号令で生徒たちは集まる。
「それではA組とB組による合同授業を行いたいと思います。お互い知らない者同士であるかもしれませんが、親睦を深める良い機会だと思って取り組んでください」
「―――はいっ!」
そんなこんなで実戦形式による課外授業がスタートした。
普段は学園内で使えない魔術もここでは使えるので皆、張り切っている。
ラルゴ含め皆が盛り上がっている中、俺は休める場所がないか探していた。
「ふぅ……ここなら休めそうだな」
日陰でちょうどいい感じに休めそうな樹木を発見。
そこに寄りかかり、静かに目を瞑る。
「ああ……気持ちいいな」
涼しく、安らかなそよ風が俺の疲れた身体を癒していく。
木々の葉が風に揺れ、心地の良い音を奏でる。
なんて気持ちのいいことだろうか。
こんなに心安らぐとは思ってもみなかった。
「外で寝るのもまた一興かもな……」
英雄時代はこんなにゆっくりと自然に触れたことはなかった。
ましてや引きこもりの生活を送っていた頃は外に出るだけでも抵抗があった。
だからこそこんなにも気持ちの良い感覚は味わったことがなかった。
「ある意味最もこの世で偉大な物は自然なのかもしれないな」
そう思っていると、どこからか誰かの視線を感じる。
「誰だ?」
「あはは、バレてしまいましたか」
そう言うと木の陰からひょっこりとレーナが現れた。
「なんだ、レーナか」
「なんだとはなんですか!」
レーナはさりげなく俺の隣に座る。
「どうした? 生徒たちに指導していたんじゃないのか?」
「疲れちゃったので休憩しようとしたらレイナードの姿がなかったものですから」
「よくこの場所が分かったな」
というのも此処はハーバー高原の奥にあるハーバーの森の入り口付近だ。
集合場所から歩いても数分はかかる。
「休める場所がないかって思ったら此処しか思いつかなかったので……」
「そうか」
さすが俺の助手だ。時を重ねるごとに俺の生態を理解している。
最近では結構忖度をしてくれて助かる場面も増えてきた。
「気持ちいいですね……ここ」
「ああ、オレも驚いた」
レーナは猫耳をピクピクさせる。
そしてそれに反応した俺はとあることを聞いてみる。
「前から気になっていたんだが……お前はなんでそんなものをつけているんだ?」
「え……? 付けているとは?」
(付けているっていう自覚ないのか!)
逆に驚きだが、とりあえずスル―することにする。
「猫耳だ。初めて会った時から気になっていたんだ」
「ああ、これですか?」
そういうと当たり前のように猫耳を外す。
「やっぱり取り外し式だったのか!」
「あ、はい……ちょっと色々とありまして……」
「聞いてもいいことか?」
とりあえず確認は取ることにする。
言いたくないことを無理矢理言わせるのは可哀想だからな。
だが、レーナは何の迷いもなくOKサインを出す。
「じゃあ聞かせてくれ」
俺がこう言うとレーナは口を開き、ゆっくりと話し始める。