第12話 圧倒的な敗北?
魔術講師としての人気(俺はどうでもいい)をかけてラルゴ・ノートリウムと決闘をすることになった。
そして今、その瞬間が訪れようとしていた。
「両者、構え!」
ジャッジに扮したフィーネが戦闘準備をするよう促す。
コロシアム内が静まり返る。それにより一気に緊張感が増してくる。
「……始め!」
フィーネが白旗を振り下ろす。
その瞬間、決闘が開始された。
「まずは挨拶代わりといきましょうか。《アイシクルフェンサー》!」
ラルゴは氷属性の中位魔術を放つ。氷の矢が弾丸のように次々と襲いかかってくる。
だが、これを何事もなかったかのように軽々とかわしていく。
たったこれだけなのに観衆は大騒ぎ。すごい盛り上がりを見せる。
「流石ですレイナード先生。この程度ではまったく動じないと」
「ああ……」
俺から言わせれば中位魔術ごときで動じる方が珍しい。
するとラルゴは次なる一手に移る。
「では……これならどうです?」
両手を合わせ、擬似的な霆を発生させる。
身体全体から強力な魔力を感じる。
この構えは……高位魔術か。
「いきますよ、《サンダーオブゴッテス》!」
激しい閃光と共に、凄まじい雷が引き起こされる。
そして神の裁きとも言えよう強力な雷魔術が俺に襲い掛かる。
(神の裁きと比喩される高位魔術か……バリアは張っておくか)
俺は通常では視認不可能な超絶に薄いバリアを体中に張り巡らせる。
ラルゴの放った魔術は俺を直撃。
それを俺は難なくと弾き飛ばす。
(宮廷魔術師と言ってもこの程度か。もう少し面白いことになってくれることを期待したのだが、考えすぎだったようだな)
最初は相手の様子を見て楽しめそうだったらリハビリがてら運動しようと思ったが、その必要はなくなった。
と、なるとやることはただ一つ……
「ぐはっ……!」
俺はその場で豪快に倒れ込んだ。
まぁ……もちろん演技である。
「やっと効き始めたようですね」
俺は何のことだと思ったが、とりあえずラルゴの話を黙って聞いてみることにする。
「≪サンダーオブゴッテス≫は威力こそ高位魔術の中では中堅ですが、状態異常を付与する魔術として高位魔術の中でも随一です。貴方の身体にはとてつもない量の電流が流れ込んでいるはずです」
「……そういうことか」
正直、全くなんともないのだがとりあえず乗っておくことにする。
てか、そんな魔術を決闘ごときに使うなよ。俺じゃなかったら軽傷では済まされんぞ。
ラルゴは倒れた俺の元へと寄る。
「どうします? まだ戦いますか?」
「い、いや……もう戦えん。降参だ」
俺は迷いもなく降参を選ぶ。
そしてその脇では他の人にバレないようにクスクスと笑っているフィーネの姿が。
(くそ……何を笑っていやがる。早く判定を下しやがれ)
心中でイライラが募る。倒れ込みながらフィーネのいる方向を向き、怒りの表情を見せつける。
それを察したのかフィーネは慌ててジャッジをする。
「しょ、勝負あり!」
フィーネが勝敗を決する赤旗を揚げる。
『勝者は1年B組担任、ラルゴ・ノートリウム先生です!』
アナウンスが流れた瞬間、観衆がどよめく。
熱狂のあまり地鳴りが発生するくらいだった。
「―――すげぇ! さすが現役宮廷魔術師!」
「―――格が違うな」
「―――さすがラルゴ先生!」
ラルゴに対しての称賛の声があちらこちらから聞こえてくる。
(はぁ、やっと帰れる。面倒なことになる前にさっさと消えよう)
俺は周りの目を盗み、そっとその場を去ろうとする。
すると、
「レイナード先生?」
「……!」
しまった、バレたか。
見つからないように去るつもりであったが、ラルゴに見つかってしまった。
「今度はなんだ? お前の目的は達成しただろ?」
「いえ、そういうことじゃ……」
「じゃあなんだ?」
「……また手合わせ願いたいなと。今度は本気のあなたと」
ラルゴは俺が手を抜いていたことに気がついていたみたいだ。
まぁ普通なら気づくよな。反撃すらしてないし。
俺は人気なんか欲しくもなんともないので、どちらにも利益となる行動をとるには俺が盛大に負ければよかった。
そうすれば俺の方へ傾いていた人気がラルゴの方へ行き、俺はまた平和な講師生活へと戻れるという寸法だ。
そして俺は去り際に背中を見せながら、
「また気が向いたらな」
そう言って俺は人知れず地下演習場から姿を消した。
「お疲れ様です。レイナード」
「うむ」
地下演習場を出たすぐの所でレーナは待っていた。
「やっぱりラルゴ先生は凄いですね! さすが現役の宮廷魔術師です!」
どうやらレーナには演技をしていたことはバレていないみたいだ。
魔術講師だったら一発で見抜けるであろうことに気付かないのもどうかと思うが……
レーナは先ほどの戦いで結構興奮しているらしく、いつもとは雰囲気が少し違った。
「でもレイナードも負けていませんでしたよ。≪アイシクルフェンサー≫をかわしている姿はとても華麗でした!」
「ああ……そうか?」
なんか励まされている気がして悲しくなってくる。演技だとしても周りの人からみたらボコボコにされているようにしか見えなかったはずだ。
おそらく決闘に負けてしまった俺に気を使っているのだろう。
「ま、奴のほうが一枚上手だったということだな。元商人ではさすがに無謀だった」
「相手は王国を守る使命を持った魔術師であるが故、負けることは許されないですからね」
「そうだな」
こうして二人の魔術講師による戦いはレイナード・アーバンクルスの完敗という形で終わった。
ある意味、圧倒的敗北ということになったのは生まれて初めてだ。
でもまぁ、これであのうるさい日々から解放されるのだったら全然問題ではない。
「はぁ……疲れた。体中痛いしなんなんだ今日は……」
俺はその後、疲れでボロボロの身体に鞭を討ちながら帰宅するのであった。