第105話 優勝への波
息を凝らし、特設リングの上に立つ二人の男は身を構える。
バトスは両手の拳を握り、戦闘態勢へと入っている。
勝負は体術競技第三戦目、中堅戦を迎えようとしていた。
そして会場が徐々に静まると……
『……それでは中堅戦、始め!』
開始の合図、そしてそれと同時に大会審判団が大鐘を盛大に鳴らした。
「じゃぁ……最初から飛ばさせてもらうぜぇぇぇぇぇぇ!」
瞬間。始まりと同時にバトスは猛スピードでガルシアとの距離を縮める。
そして息をつく間も与えずに懐に入り込み、一発。
「おりゃぁぁぁぁぁ!」
「んぐっっっ!」
バトスから放たれた鋭い一発はガルシアの腹部をめり込み、そのまま勢いに任せて吹っ飛ばす。
「ぐはっっっ……!」
強烈な一撃を受けたガルシアはそのままリングの端から端へと盛大に飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「が、ガルシア!」
目の前でその瞬間を見ていたフィオナが声を上げ、周りのクラスメートたちも心配そうに見つめる。
リング外にはなんとか出なかったものの、かなりギリギリのラインで踏ん張ることができたこと自体幸運と呼べるほど凄まじい威力の一発だった、が。
これも計算の内。最初の一発をくらうよう指示を出したのも、相手を挑発に乗らせたのも全て俺が仕組んだこと。要は作戦だ。
ハルカも心配そうな表情を浮かべているがたった一人、レーナだけはそんな素振りは見せず冷静にリング上を眺めている。どうやらレーナも”例の作戦”だということに気付いているのだろう。
だがこれは実際に彼と模擬戦をしてみないと分からないこと。彼と決闘をすることによって気付くことができた彼にしかない強みだ。
そしてその本筋を知るのは実際に模擬試合を行った俺と簡単な決闘を任せたレーナのみ。
そう。ガルシアの中に眠る潜在能力の一つ、それは……
■ ■ ■
「おいおいマジか。あれだけ人に喧嘩吹っ掛けといてその程度かよ。ちょっと力出したら追いつけないって……こりゃ失望モンだぜ」
額に手を当て苦笑するバトス。
そしてガルシアは少し苦しみながらもゆっくりと立ち上がると、
「ふーん……なんだ、この程度か」
「あぁん?」
ガルシアが鼻で笑い、口元を歪ませる。
すぐに反応したバトスはまたも猛烈な剣幕でガルシアを威嚇する。
「てめぇ……さっきからなに舐めたこと抜かしてんだ? どうやらまだ痛めつける必要があるみたいだな」
「ふっ、それができたら……の話だけどな」
「くっっ……! バカにすんのもいい加減にしろやぁぁぁぁぁぁ!」
完全に憤怒のスイッチが入ってしまったバトスは怒りに身を任せるとガルシアの方へ爆速で突進していく。
だがガルシアはそれを軽々とかわしバトスの顔面に一発、そして腹部に一発拳を命中させるとバトスはそのままリングの端の方へと飛ばされる。
「ぐぅっっ!?」
なんとか態勢をを立て直し、場外負けを防ぐ。
そして息を切らしながらバトスは、
「はぁ……はぁ……てめぇ今なにをした?」
状況把握が間に合っていないようで動揺を隠せていない。
ただ純粋な驚きと少しばかりの焦りが彼の顔色から伺えた。
まぁそれもそのはず。彼の能力が急激に増幅したのはとある特殊能力による影響、いわゆる固有能力って奴によるものだ。
そして彼のその特殊能力とは恐らく『吸収転換』というもの。説明すればそれなりに長くなってしまうのだが端的に言えば相手から受けるダメージをそのまま自身の能力に書き換えることができるという極めて珍しいタイプの能力。しかもそのダメージの度合いが高ければ高いほどより強大な力を取り込むことができるというガサツなガルシアにはもってこいのユニークスキルだったのだ。
ちなみこれは俺とガルシアが本戦一週間前に行った決闘によってたまたま見つけることができたもので最初は一瞬の出来事なのではと思っていた。だがレーナにも手伝ってもらいながら検証してみた結果、このような結論へと至り、上手く活用できないかと考え始めた。
だがしかしだ。そんな強力な特殊能力にも難解な点は当然存在し、発動条件が相手から一定のダメージを受けなければならないという問題があった。要するに相手から継続的にダメージを負わなければならないというまさに諸刃の剣とも呼べる能力でもあった。
使い方をかなり限定する必殺級ユニークスキルだが、あえて初っ端から行使するために攻撃を受けろと指示を出したのは実戦でどれだけ有効な力を発揮するかを知りたかったという理由があったからだ。
強力なものであっても実戦で役に立たないならまったく意味を成さない。まだ不透明な点も数多くあって、今回の一戦は相手の力量や環境から実験にはもってこいの場だった。
「ほう、さすがは大口を叩くだけある。今のでフィニッシュのつもりだったんだがな」
「ふ、ふざけやがって! ならば、恩恵よ……」
「させない。強化≪クイック≫!」
「……なにッッ!?」
聖剣との呼応による強化系魔術をかけようとしたバトスの隙をつき、俊敏性を増加させる中位体術スキル≪クイック≫を発動。ガチガチに固めた拳を再度彼の腹部にくらわせ、そのまま場外へと吹き飛ばす。
「ば、バカなッ! そんなはずが!」
悲痛な叫びを発し、無残にも場外へ飛ばされたバトスを背景にガルシアは歴代無敗の記録を持つ3年A組から勝利をもぎ取った。
会場は興奮の嵐で埋め尽くされ、バトルジャッジもその一瞬の出来事に自らの役割を忘れてしまうほどだった。
そしてそのまま勢いに乗った俺たち1年A組は続く副将戦、大将戦と接戦を繰り広げながらも勝利を収めた。
優勝の波へと乗った我がクラスは歴代史上初勝利という華を添え、見事勝利を飾ることができたのだ。




