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第98話 自らの限界


 昼下がり、俺は学園の展望デッキで安らいでいた。ここで浴びるそよ風は心地よいなんてものじゃない。辛い時や苦しい時があっても此処に来ると大抵どうでもよくなる。

 それくらいの安らぎが此処にはある。そんな至福の地で俺は魔技祭準決勝の作戦を練る前に一人静かに一服をしている所だった。


「……次は準決勝、相手は2年B組か……」


 3年A組の試合後、すぐに次の試合が執り行われた。そして勝者となり準決勝まで勝ち上がってきたのは2年D組、2学年で下位クラスでありながら準決勝まで勝ち上がってきたいわゆるダークホース的存在だ。

 

 ちなみにだがここまで勝ち上がってきた1年勢はもちろんAとB組のみ。これはレーナ曰く前代未聞の出来事でもう一方のブロックで行われる1年B組と3年A組の試合か我々1年A組と2年D組の試合でどちらか1年勢が決勝へ進むようなこととなれば魔技祭始まって以来の歴史的快挙となるという。


 もちろんどちらも決勝に1年勢が勝ち上がって来ればそれこそ魔技祭のトップヒストリーとして名を残せるほどの快挙となる。

 

「快挙……ねぇ」


 正直、名誉だの快挙などは勝利を得た時の副産物でしかない。一番の目的は金だ。

 だが、今まで完璧に事が運んでいた俺の計画も少し衝突せざる負えない事態が発生していた。

 それは3年A組との試合を見ての事だった。


「奴らにどうやって勝つか……悩ましいな」


 あの一戦は本当に残酷なものだった。あまりにも一方的な試合運びで周りからすれば遊ばれているようにしか見えなかった。

 驚異的な身体能力、高速詠唱による連続魔法の使用、そして聖剣。疑惑を覚える程に強い要素のみが凝縮されたような連中だった。

 

「聖剣も拵えてはいたが一回も使ってなかったしな……」

 

 もはや使うまでもないくらいの圧勝劇だった。これには観客席も言葉を失い、数万人ほどいるスタジアムも数秒間の間、静まり返ったくらいだ。

 

 まぁここまでは魔技祭での奴らの話だ。だが俺がいの一番に引っかかっていた出来事はまた別にあった。それは前にハイアットが言っていた十人の聖剣使いに関してだ。

 ハイアットの管轄地帯にある神魔団の支部が襲撃されたことについて彼は情報を探っていた。


「十人と聖剣……これだけで犯人は奴らではないかと真っ先に疑うべきなのだろうが……」


 だがこれではあまりにも情報不足だ。もしかしたら他の組織による陰謀かもしれない。

 すぐに目星をつけるのは得策ではないだろう。


「魔王の動向も気になる所だ。くそっ、なんで俺がこんなことを考えなければならんのだ」


 俺はただ安寧に引きこもりたいだけなのに過去の遺産が弱りはてた俺に試練を与えてくる。

 だが神魔団に恩があるのも紛れもない事実だ。俺が英雄を捨て引きこもれたのも彼らの力があってこそだった。

 その後は何も働きもしない俺を無償で養ってくれ、衣食住何一つ不自由のない生活をしていたのだ。


「恩は返す……か」


 ふと昔の出来事を思い出してしまう。俺がまだ普通の人間だった時の話だ。まだバケモノになる前の……両親と共に辺境の村に住んでいた時の淡い記憶だ。

 

「ふっ、こんな時に昔を思い出すとはな……過去をはもう全て切り捨てたはずなのに」

「過去は大切にすべきですよ、レイナード先生」

「……!」


 背後から若い男の声が聞こえた。もちろん聞き覚えのある声、耳に胼胝ができるほどに。

 

「ラルゴ……」

「どうも、レイナード先生。お隣よろしいですか?」


 と言っても許可をする前に隣に来るのがラルゴ・ノートリウムと言う男。

 俺が無言で頷き、共に昼下がりの王都の景色を眺める。

 

「何の用だ?」

「いえ別に用はありませんよ。リラックスするために立ち寄ったらたまたま先生を見かけましたのでご挨拶にと」

「……聞いていたのかさっきのこと」

「はい? 聞くとはどういうことで?」


 ラルゴは「ん?」と疑問を匂わせる表情を浮かべる。


(良かった、さっきの独り言は聞かれていなかったみたいだ)


 ひとまずホッとする。

 

「次は準決勝ですねお互いに」

「ああ……そうだな」

「私は決勝でレイナード先生と対峙できることを楽しみにしていますよ。あの時のリベンジ、果たさせてもらうためにね」

「ふん、こっちも負けるわけにはいかないんでね。決勝まで来たら容赦なく叩き潰してやる」

「はっはっは、毎度毎度言ってくれますね先生は。それでこそ私の良きライバルです」


(ライバルと思っていたのか……)


 妙に勝負ごとで張り合ってくる理由が今分かった。

 だが今大会ではラルゴのチームも驚異的な強さを見せ順当に勝ち上がってきている。しっかりと綿密な作戦を立て、生徒たちのコンディションを最高の間で持って行かないと正直苦しい試合となることだろう。

 

「ふぅ……それでは私はそろそろ戻りますね。幸運を祈っていますよレイナード先生」

「ああ、お前もな」


 そう言うとラルゴは口元歪ませ、微笑む。その後ろ姿には何とも言えない哀愁が漂っており、言葉と心の強さの矛盾を感じた。


(あいつ……気付いているのか……)


 次の試合、3年A組との試合には決して勝てないということをラルゴはいち早く気づいていた。

 生徒たちの能力ではない。自分の講師としての能力の限界を感じ、まだまだ伸びるはずの生徒たちに限界を与えてしまっていることに気付いたのだ。


 そのことをしっかりと自覚する辺り、彼も一人の魔術師キャスターとして優れたものを持っているのだろう。

 

(自らの限界……俺の限界はどこにあるのだろうか)


 そんなことを思いつつ、二日という時は経った。



 そしてその初戦、1年B組と3年A組の試合はB組の完敗という形で幕を下ろした。俺たち1年A組は辛くも勝利を収め決勝ではあの十人の聖剣集団、3年A組と対峙することになった。

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