1話
「凛音?りーおーんっ!!聞いてないでしょ!」
「ん?……あ~ごめん。」
隣の席へと顔を向ければ、少し頬を膨らませてこちらを見ている女の子。大変可愛らしい。
さらさらとした茶髪のセミロングは先端が少しカールしていて、目元はぱっちり。まさに美少女、といった容貌の彼女は、橘晴。この高校に入ってから仲良くなった子だ。
「もう。またぼーっとしてたんでしょ。」
「凛音の悪い癖だね」と続けられた言葉には苦笑いを返すしかない。
「そんなんじゃ、噂の転校生ちゃんと仲良くなれないよ!」
「別に、わざわざ転校生と仲良くしなくても良いでしょ」
「えー?」
そこから晴と他愛ない話をしているうちに、朝鈴が鳴り、担任が入ってきた。くあ~と欠伸をしていて、やけにだるそうだ。しかし残念なことにこれがこの人のデフォルトだ。普段からやけに眠そうで、やる気を出している所なんて見たこと無い。先生としてそれでいいのかと問いたくなるような人なのだが、授業は大変分かりやすい。
「あ~。おはよう。全員いるよな?……よし。入ってこい」
「失礼します」
最初に目についたのは髪の色。この学校にはカラフルな髪色の人が多いが、その中でもこの子はだいぶ目立ちそうだ。
「初めまして、一葉香苗です!家の事情で中途半端な時期の転校ですが、よろしくお願いします!」
元気良く言い切って、ペコリと髪を下げた時、ピンク色の髪が揺れた。
それと同時に、何かが頭をかすめた
「……?」
一葉香苗さんが顔を上げ、にっこりと笑う。その瞬間、私の頭の中へ奔流のようにたくさんの映像が流れ込んできた。それは膨大な量の記憶。
それらを処理し終わったとき、ついつい口から言葉が零れた
「嘘でしょ?」
ここは、乙女ゲームの世界らしい。




