夜道の桜
夜、桜が街灯にあたる、帰り道。あの日もこんな夜だった。
歩き慣れた並木道で、満開の桜が白い街灯に照らされ、青白く不気味に見えていた。なんの帰り道だったのか覚えてはいないけれど、何かから帰っている途中であった。電話越しに聞こえてきた残酷な言葉に声もあげずに、ただ涙が頬を伝うのを不気味な桜を見上げながら待った。
今日とあの日で大きく違うことは、街灯が白か橙かというだけではない。白色ではない、橙色の街灯に照らされた桜には、あの日と違い不気味さはなく、どこか美しく見えた。しかし、やはりあの日と今日とで違うことは、あの日の私はまだ幼かったということだ。
中学三年生十四才の春、六年前の私はまだ、何も知らず、汚いものなど何も知らず、純粋で幼かったのだ。
あの日には戻れない、もう無知ではなくなった。
まだ、桜が不気味に見えていた頃、私は何も知らなかった。
桜が不気味に微笑み、夜風に乗って頭上を舞う。
幼かった純粋は、桜の花弁と共に舞い上がり、散って、見失ってしまった。
見失った花弁が見つかることは、もうない。
小さい頃は泣けた話が、大人になると涙が出ない。なんてことありますよね。自分は、その逆が多いです。