12-2話 ぼくの愛 語るよ ぼくの夢 作るよ
次の日の放課後、おれは物語部のみんなに説明した。
「容疑者を元にした以下のようなリストがあるとします。ひとつは被害者のリスト、つまり「嘘をつかない人のリスト」、もうひとつは犯人、つまり「嘘をつく人のリスト」です。そのリストを作った人が犯人だったら、犯人は嘘をつくので自分を「嘘をつかない人のリスト」に入れる。だからそのリストは本当は「嘘をつく人のリスト」なんだけど、そのふたつのリストのどちらが嘘をつく人のリストなのかは、リストを作った人が嘘つきか嘘つきでないかがわからないとわからない。だからふたつのリストを作るんだったら「嘘をつかない人のリスト」と、「嘘をつくかつかないかわからない人のリスト」にしないといけない。つまりこの世界には、リアルと、リアルかどうかわからないものしかないんです。まず、裏物語部との闘いで手に入れた裏世界の宝の地図を裏返しにして、おれたちの世界の地図に重ねます。これが遊久先輩が手に入れた鍵。mapですね」
地図の大きさは10×15センチと小さなもので、おれはそれを机の上に広げた。
「次に、千鳥紋先輩が愛用している紅茶用のカップをひとつ置きます。これがcup」
ひとつ何万円もしそうな、高そうなカップが地図の上に置かれた。
「その中に、まず年野夜見さんが手に入れたワカクマさん、今は超クマさんって言ったほうがいいかな、の、ただのボタンのように見えるけれどスーパー監視カメラになってる目を入れます。これがeye」
「なるほど、英字で3文字」と、年野夜見さんは言った。
「そして、今日の昼に藤堂さんに分けてもらった卵焼きが清と関係するグッズ。これもカップの中に入れます。eggですね」
この物語の1話、最初の藤堂明音さんと樋浦清の会話から謎解きの手がかりはあったんだ。書いてる作者も大変だったろうが、書かれているおれたちも大変だった。
「それから、ぼくのグッズは、紺野からもらったこの、きつねのしっぽの形をしたアクセサリー、つまりfox」
「なんかぐつぐつ、カップの中で化学反応してる!」と、清は言った。
「さらに、ヤマダからもらった鍵、keyを入れて、コンビニコーヒーの使い捨てマドラーでかき混ぜます。うわっすごい泡立ってきた」
金色の泡はカップからあふれ、受け皿を使っていなかったので下の地図が少しずつ濡れてきた。
「じゃ…市川、歌え!」
「え、何を?」
「かき混ぜながら歌うときの歌」
「えーと…それでは」
と言って、市川醍醐は映画『八十日間世界一周』の中の曲、「アラウンド・ザ・ワールド」に適当な日本語の歌詞を乗せたものを歌いはじめた。
ぼくらは 作るよ
ふしぎで すてきな 物語を
「だめ。それは盗作だ」
「まあ確かに、他のアニメでもやったのありますからね…。では、『美しく青きドナウ』の曲で」
ぼくの愛 語るよ
ぼくの夢 作るよ
「こんな感じですか?」
「いいぞいいぞ」
きみの嘘 信じる
きみの血を 感じる
その世界 嘘から
その未来 過去へと
素晴らしい それが ぼくらの望むハッピー・エンド
そうこうしているうちに、カップの中のものはすっかり混ざってきた。
「最後に、市川がこの部室に置きっぱなしにしている帽子、hat、これはシルクハットかな、をかぶせて、しばらく待ちます」
「正確にはローマ帽子なんですけどね」と、市川は言った。
「地図、目、カップ、卵、きつね、鍵、帽子。英語で3文字。地図は図、カップは椀、きつねは狐、帽子は帽でもいいんで、そうすると日本語で1文字。で、物語部の部員の色は、はしばみ色(hazel)が遊久先輩、紫(purple)が千鳥紋先輩、ビスク色(bisque)が年野夜見さん、緑(green)が市川、ピンク(pink)が清。そして…おれが赤、red。英語で3文字、日本語で1文字です」
「ななな何か、『虚無への供物』みたいだな」と、遊久先輩は言った。
帽子を通して見ていても、金色の光はどんどん強くなり、そして地図が一瞬のうちにリアルな世界になって、物語部員は高校がある駅の上空600メートルぐらいのところに、物語部での姿勢のまま浮かんでいて、それから万有引力の法則にしたがって下に落ちはじめ、それにつれてみんなの間隔が広がっていった。




