10-6話 とりあえず霊獣図書館の中をみんながざっくり見て回る
神のヤマダと人工知性体のワカクマ(仮)を除く物語部員とそのサポートメンバー11人は、再び中央カウンターに戻り、そこで各人には、周りに手すりがついて、中央に小さな丸テーブルがある円形の、浮かぶ床というか、空飛ぶじゅうたんみたいなものと、担当の豆だぬきの図書館員があてがわれた。
「それではみなさん、自分に興味のある場所へ行ってみてください」と、霊獣図書館の館長は言った。
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「ラノベとかのコーナーあるの?」と、立花備は豆だぬきに聞き、そこへ連れていってもらった。
「ライトノベルとそれ以外のものを区分するのは、われわれにとっては物語と事実との区分以上に難しいのですが、ライトノベルとして出版された、もしくはそのようにヒトの世界には思われているものは、シリーズ順に整理されています。この図書館の「神」部ですね。要するに下のほうです」と、豆だぬきは言った。
図書館の一角には直径10メートルほどの、底は計り知れない穴があり、穴は底のほうからぼんやりと青白色・緑色・薄紅色に塗り分けられていた。立花備とその案内役の豆だぬきは、その穴を使って一気に数百メートル下のほう、つまり青白色の階に降りた。
「霊獣図書館では、オビがついている本はすべてオビつきで保存してあります。重版でつけかえられたオビは、初版のオビをめくればその下にあって見られるようになっています」と、豆だぬきは説明した。
「すげぇ。こんなの国会図書館だって持ってないよ!」
「まあヴァーチャルなんで何とでもなるのです。同人誌関係も、入手可能なものはこの図書館に、ヴァーチャルながら元資料と同じサイズで並べてあります。またメディア担当の図書館員は、図書関連資料としてゲーム・アニメ・フィギュア・抱きまくらその他グッズなども収集対象としております。ただ、そちらのほうは私の担当外なので、興味がありましたら担当者をお呼びしましょう」
「この、青白い本の中で、ちょっとだけ紫色になっているのは?」
「それは出版される予定だったんですが、諸般の事情でヒトの世に出なかったものです。いろいろと特殊な方法で、著者のところから借りてきました。あっ、そのものすごく紫色になっているのは、今の時点では完結していないシリーズで、未来から送ってもらいました。どちらもヒトには読むことができないのです。実際に刊行されたら、その紫色は通常の青白色になります」
「ええっ、このシリーズ、ちゃんと著者は完結させてたんだ! まあ確かに、著者が未来の本を丸パクリして編集者に渡したりしたらまずいからなあ。で、こっちの、この背表紙に貼ってある「神・土・日」とか言うのは何?」と、立花備は『アルスラーン戦記』の1冊を取り出して言った。
「それは明日くわしく説明します」と、豆だぬきは答えた。
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「映画関係のものはどこにあるんでしょう?」と、市川醍醐は豆だぬきに聞いた。
「映画そのものはデータとして保存してあるので、単に黒い箱が置いてあるだけです。映画に関するテキストや写真なら、ヴァーチャルですが実際に存在した形で手に取ることができます。公開時のポスターやパンフレットなども同様です。この図書館の「人」部ですね。要するに上のほうです」と、豆だぬきは言った。
「ただし、撮影方法といった映画技術は「地」部、怪獣映画などは「神」部にあります」
「え…?」
「それは明日くわしく説明します」と、豆だぬきは答えた。
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「この、真ん中の丸テーブルみたいなものを前に傾けると前進し、回すと向きが変わります。上に引っ張ると上に上昇するので高いところの本が取りやすくなり、その逆をやれば下の、図書館の床につきます」と、豆だぬきは樋浦遊久に説明した。
「なるほどねえ、高いところでも豆だぬきさんにはそうやって手が届くんだ」と、樋浦遊久は感心した。
「このバーチャル本棚は、身長150センチぐらいのサイズの霊獣を想定して作られています。それより大きいかたが来られた場合は、少し小さくなってもらうしかないんですね」
「ところでさ、異世界ファンタジーのコーナーの並びかたがさっぱりわからないんだけど。『指輪物語』が「神・金」ってどういう意味?」
「それは明日くわしく説明します」と、豆だぬきは答えた。
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そんな感じで、樋浦清は霊獣図書館の広さと深さを聞いて驚き、千鳥紋は数学と天文学が「地」部にあることに首をかしげ、年野夜見は昔の音楽を聞き、鳴海和可子は昭和の時代の漫画雑誌を読み、松川志展は忠臣蔵関係の本がひとまとまりになっていることに納得し、関谷久志は剣豪や格闘家の一部は「神」部と「人」部の両方に置かれているという説明に膝を打ち、紺野陽はヒトには読めないことになっている本を立花備の前で見せびらかすように読み、藤堂明音は霊獣には「作者」という概念がないという図書館員の説明に納得しそうになったところを「ということはありません」と言われてかえってありそうなことだと思った。
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時間になったので中央カウンターの前に戻ると、そこには西洋の王女みたいな正装をした、水木しげるの漫画の中にいきなり手塚治虫の絵が現れたような木村恵子さんが待っていたので、ここから先はもう手塚治虫の絵のイメージでお読みいただきたい、と、今回の書き手である年野夜見は話を終えた。




