10-2話 ようこそ霊獣図書館へ
(以下しばらくは、水木しげるの絵のイメージで読んでください)
月のない夜の闇よりも暗いその巨大なものは、震災時の使用が想定されていた極上のLED外部用照明が市川醍醐によって当てられ、ようやく部分的に見ることができた。大きさは距離と仰角から言ってだいたい15メートル、ガンダムとだいたい同じ大きさで、姿はぼろぼろの黒の僧衣を身につけた一つ目の大入道だった。
対抗できる武器としては樋浦遊久が持ってきたATMぐらいしかないのだが、とりあえず市川を除いた物語部員とそのサポートメンバーはめいめい用意した武器を持って宿泊所から浜に出てみた。
「やめて、醍醐くん。この人、というか人じゃないけど、まぶしがってる」と、樋浦清は言った。
照明は顔ではなく胸の当たりに向けられた。
「なんか手話してるよ。私・あなた・たち・友だち?」と、松川志展は言い、一同は構えていた武器を置いた。
「みんな落ち着け。まず、人差し指と親指でこう、四角いフレームを作って、あの岬の上を見ろ」と、ヤマダは言った。
そのフレームの中に見えたのは金色に輝く、ケネルワース城風の3階建ての建物だった。
「でもって、次に大入道を見てみろ」
大入道は、明らかに。
「たぬきだな」
「誰がどう見てもたぬきです」
「2メートルぐらいあって、普通に大きいけど、たぬきですね。あ、手を振ってる。えーと、手を・下に・おろして」
その通りにすると、たぬきは再び大入道のように見え、その化物は両手の指で浜に、四角いフレームを作った。縦が50センチ、横が150センチぐらいなそのフレームの中には、巨大な金色の照明の、図書館のカウンターみたいなものがあるホールと思われるものが見えた。
「これじゃ、小さくてうまく入れないんで、もう少し大きくならないの? あと位置が高いから、そこらへんも」
大入道はうなずいて、マッチョポーズでりきむと、大きさが見る見る身長で4倍ぐらいになり、その手で砂を少し掘ってフレームを作ったので、縦が2メートル、横が6メートルぐらいの、入りやすそうな窓になった。
ホールの奥、カウンターの前では、手招きしている霊獣っぽいものがいた。
「これは…たぬきですね」
「明らかにたぬきだね」
「…たぬき…」
謎の巨大フレームをみんながくぐり抜け、ホールに入ると、たぬきは言った。
「ようこそ霊獣図書館へ。私が館長です」
そのたぬきは、十分に年経ているように見える、樋浦遊久ほどのサイズの大だぬきだった。




