8-3話 水着を試着するためのひみつ道具について
「しかしなんでおれと市川醍醐まで女性用水着試着しないといけないんですか。ていうか試着できるの? ただの外見が女体化しているだけなんだけど」と、おれは言った。
「試着に関する説明は、紺野陽、ハルちゃんがあとでするとして、しないといけない理由は2つあるわ。立花備くんはこの物語に巨乳要素が少ないための読者サービス、醍醐くんは来年女子になったときの事前読者サービスよね」と、千鳥紋先輩は説明した。
「現在3人の一年生は、二年生ではふたりになるんだけど、男子ふたりだとホモっぽいしし、男子と女子だと新一年生が気まずくなると思うので、女子ふたりになる設定よ」
「あ、それだったらあたしが生徒会に行ってもいいですよ? 簿記とか権力とか、ちょっと興味あるんで」と、一年生の樋浦清が言った。
「なお、私が一年生だったときは、生徒会副会長のオカモトと私が男子部員だったのよ。赤鬼・青鬼コンビと学内外でおそれられていて」
「というのは、だいたい嘘だから心配ない」と、三年生の樋浦遊久がフォローした。
「去年の卒業アルバムには、前に確認した通り、物語部なんて部はなかったんだからな。まあそこらへんは、来年の話を考えるときに、作者がなんとかしてくれるだろう」
*
ショッピングモールのスポーツ用品売場は2階にあり、水着はその中でもかなり目立つ場所に置かれ、試着室は5つあった。関谷久志は売場の前の通路にある長椅子の上で、おれたちと関係ないような顔をしながらスマホをいじっていた。
「しかし鳴海和可子さんを除いた9人で各人が3つ試着というのはずいぶん時間がかかるな。紺野の知恵と力についての話を聞こう」
「うん、分身アンドどこでも試着バンド」と、未来から来た青色の猫型ロボットみたいな声で言って、紺野はショルダーバッグからきつねの皮色の腕時計のようなものを出した。
「じゃちょっと、備ちゃんこれを左手につけてみて。で、「3」って書いてあるボタンを押すと、3人になります」
「おお、なんかすごいな。魔法か?」とおれ、というかおれたち3人は言った。
「充分に発達した科学だけどね。で、適当に水着を選んで、試着室に入って、ハンガーを右手で前のほうに持って下げると、こんな感じで試着じゃないけど試着シミュレーションができる」
紺野が適当に選んだ赤色のセクシー水着が、着てないけど着てるように確かになる。
「ちょっと鏡を見る限りでは、胸にはみだし感がないか?」
「それは、バンドに大→小って矢印があるので、見た目のサイズはそれで調整できるんだけど、実際のサイズで選ばないといけないよ? それから、赤・緑・青ってゲージもあるよね? これをいじると色の調整もできる。あと、左手の、時計だったら文字盤にあたるところに、半透明の板みたいなのがあるんで、それを鏡のほうに向けると、僕が持っているこのタブレットで、外部から見ることができるんだ。画面3分割して、同時に見られるよ」
「なんか、アニメになったら素晴らしいことになりそうな道具だな」と、おれは感心した。しかし、実際のサイズというのはおれに関してはないので、どうでもいいことではなかろうか。
ということで、あっという間に、でもないけどだいたい2時間もかからないうちに、みんなの水着が選ばれた。ひとりが3人になって試着して、それをタブレットの画面を見ながらみんなであれこれ言う。
決まった水着は、戦闘服ではないけど、少なくともヒーローアクションキャラの色と同じだった。
嘘レッドのおれと嘘グリーンの市川の水着は男子用なのでサービスカット以外は省略だし、実際に選ばれた水着について話すと、海での水着描写というお楽しみがなくなってしまうので、「相手に着せたい水着」についてだけ書くことにする。
嘘イエロー(遊久先輩)は黄色と黒の横縞で、ハットもおそろいのみつばち水着。選んだのは千鳥紋先輩。
「スクール水着じゃないだけましだったよ!」
嘘パープル(千鳥紋先輩)は濃紺で胸にフリルのあるビキニ。選んだのは遊久先輩。
「これは罠ね」
嘘ホワイト(年野夜見さん)は白地に黒の抽象的な、ブラシで掃いたような線が入っているワンピース。選んだのは鳴海和可子さん。
「やはりこういうの、恥ずかしいです…」
嘘ピンク(清)はライトグリーンの地にピンクの南国風の花のプリントが入っている、パレオつきの、そんなに露出過剰じゃないセパレーツ。選んだのは志展。
「南の島の生まれ、という設定だね。でもって、休暇でやってきた宇宙軍のパイロットが、仲間たちの酒盛りから外れてひとり浜辺のほうにいくと、岬のところで昔の歌を、月明かりの下で歌っていて…」
おれと遊久先輩は清にダブル・チョップをくらわした。
「うるさい」




