8-2話 やっとショッピングモールに合宿の全メンバーがそろう
そうこうしているうちに、藤堂総合病院のマークをつけたワゴン車が、入り口近くの障害者用駐車スペースに止まり、お嬢様の藤堂明音さんと物語部の年野夜見さんと、年野さんにとてもよく似ているが、色が白くてはかなげな感じの短髪の女子が降りてきた。
おれも読者も知っているその子は、この物語の影のヒロインである鳴海和可子さんで、ワゴン車のうしろからおろした、高くて重そうな電動車椅子を使ってこちらに来た。
「どうも、病院以外のところで会うのははじめてですよね」
鳴海和可子さんは高校生活の初日に事故で藤堂さんの父親(養父)の車にぶつかり、それ以来入院していた。おれたち物語部員は、意識が回復する前はぬいぐるみのクマである人工知性体、通称ワカクマを通して部室で話をしており、回復してからは個別もしくはグループで何度もお見舞いに行っていて、直接会ったりもしている。
「ええっ、鳴海和可子さんも水着買うんですか?」とおれは聞いた。
「いや、さすがにそれは無理なんだけど、合宿のほうには参加します」
「今日はうちの病院の新しいワゴン車と、新しい電動車椅子のチェックと、このショッピングモールがちゃんとバリアフリー化されているかのチェックを兼ねて、和可子さんには来ていただいた。あと、私と年野夜見さんの水着選びもしてもらうのだ。合宿に私が参加しないわけ、なくってよ、ほほほ」と、藤堂さんはお嬢様っぽく言った。
「本当は少しぐらいの距離なら歩けるし、リハビリのために足を使ったほうがいいんですが…あっ、気をつけてください、この車椅子、とても重いですよ?」
「なるほど、荷重テスト用ですね。トヨタのパトラフォーですか」と、なんでも知っている市川醍醐は、おれと同じ女体化のまま答えた。
それから冷房が効いていて少し寒いぐらいのショッピングモールの通路、あまり人が通らないようなところで、鳴海和可子さんは車椅子からおりて立ち上がり、おれたちとハグし合った。おれと市川は、外見は女子で触感は男子なのだが、そういうことはあまり気にしないらしい。なお、紺野陽はまだきつねの獣性が残っているので、ちょっと用心するようにおれは言った。
「和可子さん、紺野の目の上に手をいきなりあげると、警戒して逃げていっちゃいますよ? こう、左手で誘って、右手で首のうしろあたりをまず撫でるんです。あ、猫じゃないんで、あごの下をさすってもゴロゴロ言わないんじゃないかな…」
しばらくすると、ショッピングモールと近くの駅を巡回している無料送迎バスが着いて、おれと同じ一年生で違うクラス、つまり樋浦清と同じクラスで声優やってる松川志展と、市川の友だちで体育会系の関谷久志が降りてきた。
このふたりはおれと市川の外見に普通に驚いてくれた。
「では、全員そろったので、2階のスポーツ用品売場に行きましょう。まずとりあえず、ふたりひと組になって、お互い「相手に着せたい水着」と「自分が着たい水着」と「読者サービスのための水着」を選ぶのです」と、紺野は言って、まずおれの腕をつかまえた。
ということで、組み合わせは以下のようになった(敬称略)。
おれ(立花備)と紺野陽。
樋浦清と藤堂明音。
市川醍醐と関谷久志。
年野夜見と鳴海和可子。
樋浦遊久と千鳥紋。
「俺に女性の水着売り場は無理だな。悪いんだけどシノブちゃんが選んでやってくれ。いや、実に残念だ」と、実に残念そうに関谷は言った。
「はい、喜んで!」と、志展は可愛く敬礼した。
「遊久先輩と千鳥紋先輩って…誰にも選ばれなかったお残りさんが組になってるみたいな感じですね」
「私の友だちの後藤景子、通称ケイちゃんは、今日と明日はボランティア部の活動で公園の草刈りしてるの。そのあと関東地区連合の生徒会総会兼強化合宿に行くので、私たちの合宿には参加できないわ」
「えー!? いつになったらケイちゃん先輩に会えるんですか?」
「俺の友だちは生徒会長の石川小百合だが、そういう事情で別の合宿に行くのだ」
「さんざん殺しといて何言ってんですか先輩」
「あっわかった、要するに秘密会議だね! でもって生徒会長のラスボスがペルシャ猫なでながら「あー、ナンバー3の報告は、私にとって非常に納得がいかない。誰か物語部の破壊工作任務を志願し、次のナンバー3になりたい者はいないのか」って言って、ケイちゃん先輩が手を挙げて「それならぜひ、私におまかせを、ナンバー1」と…」
物語をはじめた清に、遊久先輩はチョップをくらわした。
「うるさい」




