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物語部員の生活とその意見  作者: るきのまき
1・樋浦清の物語・その1
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1-4話 部室でくつろぐ清と物語部の起源について

「あー、やっぱ部室に来ると落ちつくなー」

 わたしはパイプ椅子に座って、へたれネコのようになってくつろいでいる。

 場所は物語部の部室で、部室は図書室の予備資料室みたいなところで、壁には昔の新聞の縮小版とか、昭和の時代の学生アルバムで住所や連絡先がしっかり載っているのとか(これは鍵がかかったスチール本棚に入っていて、背表紙しか見られない)、バルセロナ・オリンピックぐらいまでしか載っていない百科事典とか、予約録画できるテレビセットとか、居心地のいいソファとか、壊れて出ない音があるクラリネットとか、万国旗とか、冷蔵庫とか、将棋盤とかがある。

 時間は放課後の午後4時で、初夏になりかかっている今の季節の太陽はそれなりに暑いはずなのだが、どうもこれから雨になるらしく、墨で描いたような雲が重く広がっている。

 その雲の下にはずーっと先まで、まだ田植えがはじまっていない田んぼがある。

 物語部というのは「ものがたりぶ」と読んで、部活動は物語を作ることで、学校内の人間から依頼があったら、ボランティアとしてそういうのも引き受ける。

 まあ、遅刻の言い訳とか、課題ができてない言い訳とか、男女交際のお願いを断る言い訳とかですね。

 それだけだと言い訳部みたいなんだけど、誰かがどこかで落とした金を作ったり、行方不明のネコを作ったり、未来から来たエージェントの過去の人生を作ったり、学園ラノベの物語設定を作ったり、作れないものはない、ということになっている。

 ただやはり、作られたものは実際にあるものとは少し違っていて、作られたネコは本物のネコと比べると色がやや薄めだったりする。用水路に落ちて死んだネコもいたらしいが、それが本物って誰にわかるんだろう。

「なんで落ちつくかというと、やはりおまえが主人公キャラじゃないからだろうな」

 部内カーストの最上位である樋浦遊久はわたしの姉で、当然ながら居心地のいいソファに横になって本を読みながらそう言う。

 わたしの姉は小学生のときから身長が変わっていない(と思う)、小さい子萌えの人用に作られたキャラ設定で、頭がよくて口が悪くておでんが好きで、はしばみ色の瞳と、同系色の髪をミディアムローズボブにしている。

 どんなものか想像できない人は検索してみるといい。

 読んでる本は岩波文庫の小杉天外『魔風恋風』前篇、といかにも女学生っぽい。今どきの女子高生じゃないですけどね。

「そんなこと聞いてないよ。じゃあなんでわたしの視点で話が進んでるのさ」

 数学か物理の予習をしながら、種類が不明だけどいい香りの紅茶を飲んでいる千鳥紋先輩が話に割り込む。

「確かサイコロで決めたと思うわ。それから予習しているのは数学で、飲んでる紅茶はダージリンよ」

 姉が座りなおして腕組みをしてあいづちを打つ。

「そうだよ。思い出したよ。要するに誰でもよかったんだな」

 わたしの向かい側で、スマホの画面を見ていた市川醍醐が話に割り込む。

「最初はジャンル、恋愛ものにするはずだったんですよね。ところで、喜んでください、ネットアンケートで松川志展さん、彼女にしたいキャラクターのナンバーワンですよ」

「ああそうかい、よかったね」

 あれ以来、志展ちゃんはクラスの人気者で、昼休みになるとあちこちのグループに呼ばれて、いろいろなものをもらっている。口がうまくて可愛くて、オーバーアクションだけど何もらっても喜んでくれて、その次の日にはのど飴とかガムとかお返ししてるんだよな。太鼓持ちの壱八か居残り佐平次だな。まあ自分の、いささか炭水化物過剰なお弁当は自分の席で食べるんだけど、それはつまりわたしの隣の席だ。

「ちなみに樋浦清さんは、妹にしたいキャラクターのナンバーワンです」

 とりあえず一発殴っておく。

「ひどいよダイゴ。どうして同じクラスなのに、モブキャラに混じってるわけ?」

「そ…それは席が離れてるし、男同士の会話ってのもあるし、なんか微妙じゃないですか、女子に混じって食事するって…」

 姉がわたしを抱きしめてくれる。

「だめっ。清は俺だけの妹だから」

 生まれてからずっと妹だったんだからしょうがないな。

 この部室には年野夜見先輩と、クラスが違う一年の立花備がいるんだけど、年野先輩は詰将棋の本と将棋盤見てるし、立花は予約録画していた深夜アニメをヘッドホンで鑑賞しているので話に参加しない。

 千鳥先輩が言う。

「ところで、今まで樋浦妹さんの話を読んでみたんだけど、ひとつ不思議なところがあるわ」

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