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物語部員の生活とその意見  作者: るきのまき
6・樋浦遊久の物語・その1
37/86

6-2話 物語部の顧問の先生・ヤマダが語る神について

「世界が終わるまであと28日と6時間と42分と12秒、だわ」と、『ドニー・ダーコ』を見ているらしい千鳥紋は言った。

「ああ、だったら大丈夫だ。そのあたりの俺たちは、このアニメ見てるから」と、俺は答えた。

「ちょっと待ってください、遊久先輩。おれたちってアニメだったんですか? いつから先輩はリアルにこだわらなくなったの?」と、立花備は聞いた。

「いや、この話はまだアニメにはなっていない。ただの物語だ。物語だけどリアル。特に問題はない」

 頭をかかえている立花だが、とりあえず俺はヤマダに話しかけた。

「つまらん冗談はやめろよ、ヤマダ」

 物語部の顧問であるヤマダは、本名は山田洋司という、いかにも嘘くさい名前で、ウサギのマスクを取ったらリアルの高校生とたいして容姿が変わらない、年齢不詳すぎるキャラだった。逆光を浴びて奥の席に座っているその姿は、神というより悪魔というか、ただの悪人のようにしか見えなかった。

 部屋の机は窓と平行にひとつ、そこからタテにふたつ、さらにドアの近くに平行にひとつ、という配置で、要するにロの字の中央のスペースがない形で、各机に椅子が3つずつあり、最大で12人が入れることになっている。

 俺とワカクマと千鳥は、ドアから見て左側の席に座り、一年生3人は奥のヤマダと向き合う形で座った。

「君たちが来たのは知っていた。何を聞きたかったかも知っていた。ぼくがこの物語の作者かどうか、物語部とはそもそも何だったのか、だよね」

 ヤマダはだいたい過去形で話をする。俺は過去形と現在進行形で話をする。ヤマダは神で、すべてが終わった視点で話をするからだ。

「君たち、特に立花備には残念なことだったが、神は物語の作者ではなかった。神もまた、作者によって作られる存在でしかなかったんだ」

 そう言ってヤマダは、机の隅を叩いて、鼻を近づけた。叩かれた机は、いかにも安物の机のような音がした。きつね色の机は、周囲が焦げたきつね色のラバーで囲まれていて、俺も鼻を近づけたら、おいしそうなにおいがした。

「とりあえず、お茶とケーキでもどうかな」

 ヤマダは、自分が座っている机の両端を切り取って三等分の倍、6個のかけらにして俺たちにくれた。

「これは、ベイクド・チーズケーキですね。普通においしいです」と、妹の清は言った。

「ちょっと帽子を借りるよ」と、ヤマダは醍醐の丁稚帽子から、鳩を出すように高そうなカップに入った紅茶を7個出した。

「ふむ。これは嗅覚と味覚はまがうことなきベイクド・チーズケーキだけど、叩くと机の音がする。触覚と視覚と聴覚は違う法則なんだな」と、俺は言った。

「お茶はシレットね。ちょっと珍しいわ」と、千鳥が言った。

「話を続けよう。神とは、万物の創造主じゃなくて、万物の存在を記号化した存在だったんだ。つまりたとえば、「なんだかよくわからないけど、まぶしくて明るいもの」に「光」、「暗くてよく見えないもの」に「闇」という名前を与えた。存在と記号とは違うんだけど、名前をつける、つまり記号化することで意味のない音に意味を持たせることができるようになった。ひ・か・りはただの音だが、「光」は意味だ。存在と記号を別々に扱うことによって、人は嘘がつけるようになった。ぼくは誰か、多分世界という存在を作った作者によって「神」と名前がつけられた、ただの記号だ。旧約聖書の中では、世界最初の嘘つきだ。知恵の木の実を食べると死ぬ、という嘘をついた。知恵の木の実を食べた人間は、嘘がつけるようになった。つまり、この机がベイクド・チーズケーキであっても、何の問題もない」

「要するに今回は説明回なんですね」と、俺は言った。

「ところで、どうして一年生の中からおれたち3人が部員に選ばれたんですか」と、立花は聞いた。

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