6-1話 ちゃんといる物語部の顧問の先生について
昔のSFに出てくる金星みたいに、毎日毎日雨が続いて鬱陶しい。お花畑だった世界は圧倒的な緑の成長に押され、そんな日々にもかかわらず妹の樋浦清はレインコートを着て自転車で学校に通って、それが部室のカーテンレールに引っ掛けられたハンガーにかかっているので、部室全体の湿度があがってどうにも困った。俺は相変わらずマメにアニメを部室で見ている立花備に声をかけてみた。
「そう言えばさ、毎週お前が見てた春アニメ、今どうなってるの? 『物語部員の生活とその意見』だっけ」
「あーっ、あれ、もう10話なのに全然見るの忘れてました」
「だめじゃん。ちゃんと見てないと犯人、ていうか、この物語の作者、わからなくない? 原作出てるんだったらそっちのほう読むとか、さ」
「アニメオリジナルなんで、原作はないんですよ。ノベライズは上下巻で、上巻は今月、下巻は来月の新刊ですから、アニメで真相わかるのが早いはずです」
「ふーん…このアニメに出ている製作スタッフとか声優なんかは、守秘義務があるとかで教えてくれないしなあ。妹のクラスの松川志展ちゃんも、準レギュラー出演で春休みのうちに収録終わってるのに、楽しみにしててくださいね、みたいな感じでさ。とりあえず5話の続きが気になるのだが」
「それがですね、5話の次は5.5話で、今までの話の総集編とかになってたんです」
「なるほど、作画スタッフ力尽きたんだな。録画が残ってるならそれ飛ばして、6話から見ることにしよう」
「先生の話ですかね」
「ヤマダかあ」
ということで、俺たちはひと月ほど前のアニメを見ることになった。
*
「そう言えば、うちの部って顧問の先生いるんですか」と、立花備が体育会系部活動アニメを見ながら俺に聞いた。
「いるに決まってんじゃん。正式な部活動だし。対抗試合とか県大会・全国大会優勝とか、そういうのがない部なんで、いないように見えても仕方ないけどね」
「対抗試合はもうこりごりです。でも、物語部の顧問の先生には興味を持ちました。先生がこの物語の作者なのかも知れない」
「いやあ、そんなことないよ。だってヤマダだぜ」
二年生のふたり、千鳥紋と年野夜見も相槌を打った。
ヤマダは主に三年生の国語や進路指導をしているので、一年生には馴染みがないのも無理はない。
「俺のクラスの担任だから毎日会ってるし、物語部のメンバーがどんな話を作ったか毎週報告してるんだ」
「どんな人なんですか。この部室に来たことないですよね」
「俺たちがいないときをねらってしょっちゅう来てるはずだよ。部室に変なものがあったりしたら、だいたいヤマダのせいなんだよね。「これから行く」ってメールしたから、行こうじゃないか」
「行ってもいいですか、じゃないんですね」
「ヤマダはあれでも神様なので、俺たちがいつ行くかは知ってるんだ」
ということで、何やらワカクマの課題がこなせない年野夜見を除いて、物語部員の全員と、謎の人工知性体であるクマのぬいぐるみ(通称ワカクマ)で、ヤマダに会いに行くことにした。年野は「古文とか、特別に聞きたいことがあったら僕ひとりでヤマダに会うから」と、非常にどうでもいい態度だった。
ワカクマはある程度は自分でもそれなりの早さで歩くことはできるのだが、どう見てもぬいぐるみのクマが、普通の高校の廊下を自立歩行するのはあやしすぎるので、俺がいつもの通り抱えて歩くことにする。
立花は「たまには清と並んで歩かせてください」と言ったので、先頭は俺とワカクマ、次が立花と妹、最後が市川醍醐と千鳥紋、という隊列になった。立花と妹は高校生らしくお互いの勉強方法とかチャーリー・パーカーの話とかしてて、醍醐と千鳥はアレクサンドロス死後のディアドコイ戦争について話していた。
面談の場所は、個人情報とかで入室が厳しくなった教員室のとなりにふたつある教員予備室のうちのひとつで(この場所のために校長室が移動されることになった)、だいたいの生徒はここで先生と話をする。全体的には物語部と同じぐらいの広さの、あまり物が置いてない部屋だった。
「やあ、待っていたよ、新一年生」と、ヤマダはウサギのマスクをかぶって、半袖の白のシャツにオレンジ色のネクタイをしめたかっこうで言った。
「世界が終わるまであと28日と6時間と…何分だったっけ?」




