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物語部員の生活とその意見  作者: るきのまき
5・立花備の物語・その2
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5-1話 憂鬱な樋浦遊久とその原因の生徒会について

 季節はもう初夏になった。中間試験も終わって、いくら何でも夏休みまでは休日がなさすぎだろう、と思われる梅雨の季節で、田んぼの稲はすくすくと順調に、緑のじゅうたんのようにずっと先まで伸びているのが見える。

 クーラーはあることはあるのだが、勝手に入れるということはできないので、雨に用心しながら窓を開けて風を取り入れていると、運動部の練習の声とか、吹奏楽部の練習の音とか、演劇部の発声練習の声とか、とにかくなにかとうるさい。

「生徒会から呼び出しがあった」と、樋浦遊久先輩はスマホの画面を見ながら憂鬱な顔で言った。

「苦手なんだよなあ、生徒会」

「なんで苦手なんですか。考えてみたら生徒会長がこの話の作者かもしれない。ぜひ会いに行きましょう」とおれは言った。

「だって、相手、向かって右にいるやん」

 おれたちの物語部は図書室のとなり、つまり文系部室や理科の実験室などがある新校舎の3階の隅(学校内では東側)にあり、生徒会室は普通の教室や職員室などがある旧校舎の3階の隅(学校内では西側)で、確かに廊下を歩いているところを窓側から見ると向かって左側から右側に歩くことになる。

「右側にいる敵には、初代ウシトラマンも、ニヴァンゲリオン弐号機も負けてるんだよ! 勝てるわけないじゃん」

「そういうこと言うと、うちの部が最弱なんですけどね」

「とにかくおまえが一緒に来てくれ。ほかの部員は待機だ」

 そう言って遊久先輩は部室の隅にあるダンボール箱を開けて、何やら硬そうなものととがっているものを肩かけのショルダーバッグに入れた。今日の先輩は白のブラウスに黒のジャンパースカートなので、看護師というより衛生兵に見える。

 部室には物語部員の4人と謎の人工知能体が残り、部室内最上位カーストになった2年生の謎の先輩である千鳥紋先輩はソファに寝そべって『全集黒澤明』第一巻を読み、同じく2年生の年野夜見先輩は謎の人工知能体ワカクマと自習を進め、俺と同じ一年生の市川醍醐と樋浦清は、仲良くくだらない話をつづけていた。

 とりあえずおれは廊下を、なんでこのおれが一緒に、とか、ああもうどうして市川と清あんなに仲いいの、おれいらないじゃん、とか思いながら、遊久先輩の歩幅にあわせてだらだら歩いていった。

「テーバイ人の5人のスパルトイでも、俺たちの嘘はわかるまい♪」と、遊久先輩は変な歌を歌っていた。

「それ、何ですか?」

「戦いの歌」

 生徒会室、と書かれていた部屋の少し手前、というか窓側から見たら向かって右側に、白い学生服の上下で、上着の下は裸の、身長2メートルぐらいある、不良だかライバルなのか不明だが、とにかく強そうな謎の男がいた。

「待っていたぞ、物語部の奴ら」と、その男は言い、おれを指差した。

「特に立花備、お前を待っていた」

「どうしましょう、遊久先輩」おれは困った。

「大丈夫だ、あいつは生徒会副会長で、見かけほど強くない」

「問答無用」と、その副会長はおれを殴ったので、おれは3メートルぐらいぶっ飛んだ。そのあとも連続パンチをくらう。

「ゆ…遊久先輩。だめです、全然勝てそうな気がしません!」

「あっそうか、ちょっと待って」

 遊久先輩は間に入って、おれたちの向きを変えたので、おれが窓から見て右側、相手が左側になった。

「すごいです先輩! 相手のパンチが一気にへなちょこになりました!」

「じゃあその勢いでお前のヒーローパンチ、つづけてヒーローキックだ。でもって最後は相手を背後に三点着地な。その時にはもう左側になっててもいいから」

 副会長は、おれの三点着地のあとに爆発したかもしれない。

「よーし、それではこんなザコではなく、生徒会長に会おう」と、遊久先輩は言った。


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