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物語部員の生活とその意見  作者: るきのまき
1・樋浦清の物語・その1
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1-2話 こういう、おいしい、って表現、本職のシノブさんならどうやるの?

 ここで普通の小説家だったら、藤堂さんの作る卵焼きに関する描写に変なメタファーを入れて話をうやむやにしたり、ややこしくしたり、長くしたりしがちなものだ。多分まあ「お母さんが作ったみたいな味」とは言いませんよね。

 藤堂さんの卵焼きは、かきまぜ方が徹底していないため白身と黄身がいい加減に混ざっていたり、日によって焦げ具合が違っていたりして、これは多分その日の卵焼きを作っているときに聞いていた音楽が影響していると思う。

 卵焼きを作るのに一番向いている音楽は、ジャズ・ピアノ、特にチック・コリアがいいんだよね。

「残念だけど、私はTED聞きながら作ってるんで、多分その時の話してる人に影響されるんじゃないかな」

 と、藤堂さんがTEDみたいな身振りでツッコミを入れる。

「正しく作られた卵焼きはお弁当に入れられ、失敗したものは仕方ないので朝食としてパンと一緒に食べられるのです。みなさんもそうですよね?」

「おお」と自称声優の松川志展は拍手するので、わたしも釣られて拍手するつもりが、つい拝んでしまう。

「学校に持って来てるのは成功したのだけだったとは」

 藤堂さんと最初に意識して口を聞いたのは卵焼きのおかげだ。始業式から3日目ぐらいのときだったかな。日記に書いてあるからあとで確認しよう。

 その日はちゃんと昼休みにパンを買いに行って、売れ残っていたピーナツバターのコッペパンを、これは売れ残るのも無理はないな、と納得しながら食べて、ふと斜め前の席を見ると、美人でなんか昔から知っているような子が、お嬢様学校で地元では有名な白美神女学院のコスプレをして、手作りの弁当を食べているのと目が合った。

 わたしの入った高校は制服がないので、各自が勝手な服を着ていいことになっていて、他校の制服は一部加工がしてあるなら、コスプレとして認めないこともない、という自由すぎる校則だ。

 藤堂さんが差し出した弁当箱の裏の卵焼きを手でつまみ、これはうまい、卒爾ながらあなたは…ア、アカネちゃん。

 ここで会ったが盲亀の浮木優曇華の花という感じだが、別の親の仇ではないのでびっくりしただけだった。

 藤堂さんの本名というか名前は藤堂明音というんだけど、いかにもグーグルのかな漢字変換で出て来そうな名前のほうは、藤堂さんに、絶対にその名前で呼ばないで、と言われてしまったので、封印する。

 次の日から藤堂さんは、わたしの分の箸と、倍量の卵焼きをお弁当に持ってくるようになった。

 問題は、その味が毎日少しずつ微妙に違っていて、そのたびにおいしさの表現を変えないといけないんだよね。

 卵焼きの味は、どうも卵ではなくて味付けで決まるみたいなんだけど、わたしの勘では週末に昆布だしと鰹だしを大量に作って、みりんと砂糖の加減を毎日変えているんだな。

 要するに何かの実験体として、わたしが使われている。

 ここでアニメなら、ちゃんと10日分ぐらい表現方法を変えて、声優の人も違う演技するんだよな。

「こういう、おいしい、って表現、本職のシノブさんならどうやるの?」

 と、わたしはとりあえず松川にネタを振ってみる。

 今まで松川は呼び捨てのひどい扱いですが、これは叙述トリックで、松川志展はマツカワシノブっていう、少し小さめの、男子10人が見たら8人ぐらいは、美人じゃないけどかわいいっていうタイプの子です。残りのふたりは「おれに言わせるの、それ?」って言って顔赤くする。

「いろいろ出来なくはないけど、まずそのシナリオをよく読みこんで、キャラ設定と状況をつかんで演技をするのです」

 なんか真面目な話になってきたな。

「あと、監督が求めているものに合わせる、というのもありますね。過剰な演技を求めてる監督もいれば、素人っぽい演技を求めている監督もいるわけで」

 で、松川はかなりがっかりする。

「あーあ…どうも自分の演技は、少しオーバーアクションらしいんです…子役長くやってきちゃうと、どうしてもそうなるんですよね」

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