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物語部員の生活とその意見  作者: るきのまき
3・年野夜見の物語・その1
19/86

3-5話 鳴海和可子の事故の原因と、彼女の病室で起こったこと

 藤堂総合病院は、数年前に藤堂明音の養父が作ったもので、小さいながら堤を持つ川はその病院の東側を北から南へ流れ、大きく折れ曲がって東から西に流れたあと、また電車の線路に沿って北から南へ流れる。

 藤堂明音が立っていたのは、病院にほど近い交差点で、そこから南のほうにのびる道は、川を越えて物語部員たちの高校まで続いている。樋浦清が病院のある駅の駅前まで来たのもこの道だった。

「なんで藤堂さんここにいるの?」と、立花備は少し驚いた。

「清から、ぼちぼち事故現場に寄って病院に行くから、と連絡があったので、ここで待ってたんだ。一応ざっくり説明しようと思ってな。事故が起きたのは、ここではなく、もうひとつ北のほうにある交差点だ」

     *

 問題の交差点の、横断歩道のところに一同は集まった。事故にあった鳴海和可子は死んではいないので、花束があるわけでも、新しく信号機が設けられているわけでもない、ただの交差点だ。

「その日、院長である父は少し早く家を出た。何かの会議が予定されていて、事前の書類チェックのためだったかな。父はこの道を北から南へ、そして鳴海和可子さんは西から東へ進んでいた。この道に出れば学校までは一直線だ。で、横断歩道を自転車で渡ろうとしていた鳴海和可子は、なぜか途中で止まった。なぜか、というのは、だいたいわかっている。そのときの父の証言では、スマホの画面を見るのに止まったんだ。しかし、なぜその日、その場所にいなければならなかったのか。物語部だったら物語を作ってみてくれないか。なお」

 と、藤堂は指を一本立てた。

「鳴海和可子さんのスマホは、彼女の病室にある。これは事件ではなく事故なので、つまり誰かが故意に彼女を殺そうとしたわけではない、と警察は判断しているので、犯人探しは特にされていない」

     *

 ちょっと用事があるから先に行ってて、と藤堂は言ったので、他の5人はさっさと病院のほうへむかった。

 鳴海和可子の病室は5階建ての建物の一番東側の特別室で、東と南の窓からは川と、堤に植樹されたコブシと、物語部員たちの学校が見えた。病室は広く、ほどほどに暖かくて、薄い緑色に壁が塗られていた。出入り口は西側にあり、部屋の北側の3分の1はカーテンで覆われていた。

 ベッドの鳴海和可子にはいろいろなものが取りつけられ、その頭は包帯で覆われていた。

 彼女の髪は何色で、目をあけたらその瞳はどんな色なんだろう、と立花備は思った。

 この人はどんな夢を見ているんだろうか、と樋浦清は思った。

 清楚で、はかなげで、どちらかというと美人で、誰かに似てるな、と市川醍醐は思った。

 これは罠ね、と千鳥紋は思った。

 へえすごいね、俺たちが何思ってるか、この話の語り手にはわかっちゃうんだ、と樋浦遊久は思った。

 入り口の反対側、つまり東側には、小さなテーブルがあり、そこに鳴海の、電源が切ってあるスマホが置かれていた。さらに、ふたつあるパイプ椅子のひとつの上にはこげ茶色の、テディベアにしては太っており、樋浦遊久よりは少し小さいぐらいの、大きなクマ人形が置かれていた。

 立花備は、ベッドの足元から回り込んで反対側に回り、スマホを手に取り、電源を入れた。起動して、待機状態から最初に写ったのは、メールチェックの画面だった。

「なるほど…最後に鳴海和可子さんがメールを受け取ったのは…」

 部屋の窓のシャッターが降り、一気に暗くなって、部屋の中はエメラルド色の、少しチカチカする明かりで満たされ、クマの人形がしゃべった。

「ようこそ、オズのエメラルドの都へ」

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