3-4話 この物語の作者に関するプロファイリング(その2)と、少し怒っているある人物
「なるほど」と、樋浦遊久は納得した。
「この話の作者は、アニメと映画とジャズと落語と本が好きで、ゲームと漫画には興味がないんだな」
「好き、というより、興味がない登場人物を設定できない、ですね。興味がないかは、これからの話を読んでみないとわかりません」と、備が答えた。
「ああ、どうも電車が駅につきました。あの電車で千鳥紋先輩が来るんですね。そろそろ出ましょうか」
3人はファミレスを出て、樋浦清はお手洗いに行ってからファミレスを出た。
*
駅から病院への道は一本道で、両側にイエロー・ブリック・ロード(ただの点字ブロック)がある歩道がついた2車線道路だった。物語部の5人は道路の右側の歩道を歩いた。
先頭の道路側を歩くはしばみ色の瞳と同系色の髪を持つ樋浦遊久は一番背が低く、並んで歩いていた千鳥紋は高校生女子の平均身長より少し高く、すみれ色の瞳と同系色の髪を持ち、お互い人の話を聞かない会話をして盛り上がっていた。
その姉の後ろを自転車を押しながら歩く妹の樋浦清は高校生女子の平均身長より少し低く、さくら色の瞳と同系色の髪を持ち、その隣の市川醍醐は高校生男子の平均身長より少し低く、エメラルドグリーンの瞳と緑の混じった黒髪を持ち、お互い楽しそうに会話をしていた。
一番後ろを歩く立花備は灰色の瞳と赤い短い髪を持ち、高校生男子の平均身長より少し高かった。
5人が歩くところは、さながら季節の花が動くようでもあり、醍醐と清は花婿と花嫁のようでもあった。
「しかしこの、みんなが歩くところって、簡単なようでけっこうアニメだと難しいんだよなあ」と、備は知った風なことを言った。
「そうなの?」と、あまりその方面にくわしくない遊久は聞いた。
「まず、身長が違うと歩幅が違います。軍隊の行進は無理矢理歩幅を合わせてますが、オリンピックの開会式の選手入場でもけっこう、こんなになって人の足踏みそうに歩いてる人いますよね。アニメの場合、ひとりやふたりならともかく、歩幅が違うそれ以上の人間を、しかもひとりは自転車を押しながら歩かせるというのは、大変なんですよ」
「ふむ、お前の話は無駄に納得できるな」
「さらに背景を、それも遠景と近景を、歩く速度に合わせて適切に動かさなければなりません。映画のフィルムは1秒間に24コマで、デジタル撮影も無理矢理それに合わせてますが、だいたいのアニメは1秒間に8コマです。どうもそれ以上動くアニメは、動きすぎるように見えるんですね」
「ふむふむ」
「プレパレードは大変なんだね!」
「人間の歩く速度は、1分80メートルで不動産業界は計算していますが、おれたちの今の早さは1分60メートル以下でしょう。映画監督の木下惠介は、1955年の映画『遠い雲』の中で、飛騨高山の不動橋のショット、約55メートル、1分33秒を高峰秀子に122歩、田村高廣に113歩で歩かせました」
「ふーん、じゃ、こういうのはどうかな」
そう言うと遊久は歩きながらくるりと1周半回って、後ろ向きに歩きはじめた。
「へへん、だ」
「ええと…そういうのは演出、というかショットを刻んで、うまいことやるんじゃないかと思うんですが…そんな歩きかたしてると危ないですよ、ほら、車が」
歩いている5人の前方から農作業用軽トラックが来て、後方に走りさった。
「はい、ここで遊久先輩は死にました」
「いや別に死なないでしょ。どうして?」
「アニメの第一話で、路上で車とすれ違ったり、路上でダンスしているキャラクターは、そこで死んでおり、その先はその子の死ぬ一瞬の間に見た幻、ということになります」
「そ、そうなの? 俺、死んでるの? じゃ、ここから先は全部嘘?」
「いや大丈夫だよおねーちゃん。この物語はアニメじゃないし、そもそも最初から全部嘘だから」
「茶番だわ」と、千鳥紋が言った。
しばらく歩いていると、病院側から数えて2つ目の交差点に、日傘のようなものをさした人影が見え、さらに歩いているとその人影は藤堂明音で、彼女は白いゴスロリ風の日傘をさしており、少し怒っているのがわかった。
「お前ら、だらだら歩きすぎ!」




