3-3話 この物語の作者に関するプロファイリング(その1)
駅前の、どこにでもあるようなファミレスで、樋浦清、市川醍醐、立花備の物語部1年生、それに樋浦遊久は遅い昼食と飲み物を取っていた。樋浦清は菜の花のパスタとアイスコーヒー、市川醍醐はホットケーキとホットコーヒー、立花備はレモンパイとホットコーヒーとオレンジジュース、樋浦遊久はイチゴのデリシャスパフェ。窓際には清と備が向い合って座り、通路側には清の隣に遊久、備の隣に醍醐が座っていた。窓の外からは駅の出入り口の階段と、清がここまで乗ってきた自転車が見えた。
清は病院のある駅の前まで電車ではなく自転車で来たため一番早くつき、備は千鳥紋が駅につくのを確認するために窓際に座っていた。紋は図書委員の雑用があるので、少し遅れてそちらに向かう、ということで、4人はファミレスで待つことにした。
「今の時間帯は上り・下りとも1時間に3本。まあ典型的な東京近郊のローカル線だな」
備はオレンジジュースをストローで飲みながら言った。
「じゃあ、その間にだらだらと話でもしようか」
「ああ、この世界が誰かの夢の中だという、くだらない設定についてだな」
「はい、遊久先輩。この世界では誰でも、願いごとが一つだけかなうことになっています」
「そ、そうなのか。たとえばこんなのも?」
遊久の周りにオプティカル・エフェクトが生じ、着ているものはそのままで、スリーサイズのくっきりした、背のすらりとした、いかしたお姉さんに遊久は変身した。
「なるほど。それではおまえの話を、あ、あれ?」
変身していたのはほんのちょっとの間で、すぐに遊久は元の、高校生にしてはボリュームの足りない体型に戻った。
「たったひとつの願いがそれですか。まあ樋浦さんらしいですけどね」
少しふくれている遊久と、腹をかかえて笑っている醍醐、そして困っている清に、備は説明する。
「つまり、この話の作者は、お姉さんの属性にナイスバディではなく、ちっちゃいものを望んでいるんでしょうね。だから、そういうのは無理」
「わかった、今までの話から、この物語に作者が望んでいることを想像するんだね?」
「正確には、プロファイリングだな、清。作者は何が好きで、何ができないか」
「面白そうです、やってみましょう、備」
「まず、酒とタバコは、話の中に出てこないから、やらない、ってことになるみたいな」
「酒、タバコ、運転免許など、一定の年齢以下では属性として持てないから、それに関しては不明だな。たとえば…この中で自転車に乗れる人は?」
全員が手を挙げ、備はうなずいた。
「そうだな。つまり作者は自転車に乗れる。つまり、自転車に乗れない登場人物は、メインキャラクターとしては想定できない」
「すごいです、備くん」
「そうだよね、備」
「くだらん、相変わらずくだらないぞ、立花備」
遊久はテーブルの上に顎をのせて、ぶつぶつ言った。
「入院している女子高生が考える夢なんて、どうせ、私はとらわれのプリンセス、誰か私を助けに来て、みたいなくそつまらない物語なんだよなー。物語好きの俺らなめるな、って感じだよ」
「それは言いすぎだよ、おねーちゃん」
「まあそういうアニメも、ないことはないんですが、でもこの話、よく出来てると思いませんか、遊久先輩」
「そんな、出来不出来なんて読者じゃないとわかりませんよー、だ」
「確かに、樋浦さんの言うとおり、物語の登場人物には、その中の物語の出来は不明です。ただ、ぼくも言いたいのは、この話の作者があまりにも、キャラの扱いが雑だ、ってことです」
備が説明した。
「つまり、こんだけ話が続いてるのに、ぼくたちの容姿描写、全然入ってないじゃないですか」




