2-5話 さあさみんなで作ろう物語を(ミュージカル)・2
ぼくはさっそく、樋浦さんからステッキを受け取って、ダンスの基礎から教えることにしました。
「とりあえず、太陽光パネルが邪魔なんで、さっと片付けちゃいましょう」
ステッキを振ると、パネルがキラキラ光って消えました。
「これはすごいな。醍醐は魔法使いという設定なのか」
「魔法使いじゃなくてイリュージョニストと言うとかっこいいですね。はい、ではみなさんちょっと並んで」
正面から見て左から、筋肉男子の久志、いろいろ秘密がある年野さん、いつもエレガントな千鳥さん、美人すぎて困る藤堂さん、ぼく、ポニーテールがかわいい清さん、主人公らしい備くん、落ち着きがない志展さん、無駄に落ち着いている樋浦さん、ということにしました。
「まず、こう、かかとをあげて、それが絶対に下につかないようにして、内側・外側に動かします。あっ、樋浦さんそんなに無理しないで、自然な感じで。次に、そうしながら前に進みます。そうすると、腕もその動きについてきますよね。つまり、かかとが外側ならひじが開いて、内側ならひじが締まる。少しオーバーにやってもいいですよ、藤堂さん」
運動が苦手っぽい年野さんが言いました。
「これは…けっこうきついですね」
「そうなんです、見かけよりハードなんですよね。ワン、ツー、スリー、フォー。次は後ろに下がります。ここらへんで左右の足を、ぼくの足の動きに合わせましょう。そしたら、左右に動きます。これで基本は完成です。で、むずかしいんだけど、足を上げたら同時にそれに手をちょん、と当てるんですね」
「このポーズは、ちょっと恥ずかしいな、醍醐」
「もう、魔法少女やったんだから何やっても恥ずかしくないよ、久志。じゃあ、次は衣装を用意します」
きらきらとオプティカル・エフェクトがついて、みんなの服が変わりました。
久志は新選組の格好。
「下駄でダンスかよ?」
年野さんは、もとのゴスロリ風なのを、もっとゴスロリ風な感じで。
「おやまあ?」
千鳥さんはおしゃれな洋風ゆかたみたいなのを。
「ちょっと足が見えすぎなんじゃないか?」
藤堂さんはシンデレラみたいなドレス。
「ヒールが高くない?」
ぼくはだいたい、フレッド・アステアのイメージでタップを踏みました。帽子を取ってお辞儀。
「ぼくたちのショーにようこそ」
清さんは1950年代アメリカのハイティーンみたいに。
「ロックンロールだね!」
備くんは昔の王子様スタイル。
「これ、上半身はいいんだけど、下のほうはなんとかしてくれよ!」
志展さんは執事。
「素晴らしいです!」
樋浦さんは不思議の国のアリス。
「どうせこんなとこだろうと思ってたよ!」
「はい、スッタカタカタン、スッタカタカタン、このリズムで。ミュージック、スタート」
ぼくらは好きだよ みんなも好きだよ 嘘物語が
さあさみんなで作ろう物語を
だってぼくらの話はでたらめで
いつも誰かが何かを作ってる
(ここでちょっとタップが入ったり、いろいろな人とぼくが踊るのです)
ヒーローはぼくで(ぼく) わたしはヒロイン(清さん) 嘘物語だ
もうこの胸のドキドキが止まらない
「とーまらないーー」とみんなでポーズ。
「ちょっと待った」と、清さんと見つめあうぼくの間に、備くんが割り込みました。
「なんでお前らが主人公なのよ。いつになったらおれの話がはじまるの?」
「でも、楽しかったからいいじゃないですか!」と、清さんのフォローが入りました。
「そりゃ、やってる人たちはいいのよ。楽しいから。でも、ミュージカル映画の歌って踊るシーンってさ、なんかいらなくなくない?」
「それは言ってはいけない」と、藤堂さんが怒りました。
「物語には歌と踊りが必要なのだ…と、断定的に言ってはいけないな。多分醍醐の物語にはそれが必要なんだろうな」
「でも、そういうの飛ばして見たりしない?」
「しません」と、物語のあらすじを語るとき以外は無口な年野さんが言いました。
「で、でもさ、くだらないんだよね、こう、「ぼくは君が好きだー」なんて歌詞とか」
「それは、くだらないミュージカルしか見てないからですよ」と、ぼくが言いました。
「じゃあ、くだらなくないミュージカルって何があるんだよ」
「「「ヘアスプレー!」」」と、ぼくと年野さんと清さんは言ったのです。