1‐8
ご無沙汰しております。
ちょっと色々やってたら2か月も放置してしまいました(;´・ω・)
本日から再開です。ちょっと思い出すのに時間かかるかもしれませんが(;´・ω・)
少し短いです。
時は少し戻り、城門襲撃の少し前。
交渉が不首尾に終わったアリューゼ達は商会を後にし、ライラの商会にて今後の事を相談していた。
「……すみませぬ。まさかアーバンが断ってくるとは思いもよりませんで」
「いや、シュターゼンの責任ではない。情報が不足していた全員の責任でもある」
うな垂れるシュターゼンにアリューゼがそう諭すと、周囲の男たちは一斉に頷き同意の意思を示した。
ただ、そんな中で1人何が起っているのか全く理解していないものが居た。
ライラである。
彼女は、帰ってきたアリューゼ達を出迎えるのと同時にそのまま2階まで連れてこられた。
そして、まったく状況の説明をされずに連れて来られ、何をどうしたら良いのかも分からない状況にただ戸惑っているのだった。
しかし、一応は商家の娘である。
アーバン商会との話し合いが上手くいかなかったという事は、すぐに理解していたようだ。
そんな少し戸惑っているライラを他所に話は進んで行く。
「それよりも、今後はどういたしましょう? 正直我らの手持ちではヨキ国までは行けません。それをどうにかしないと」
「確かに、副長の言う通りですよ。これから先は流石に食料を買いこまないと」
バイスはそう言って、ライラから借りている地図のある一点を指さした。
そこはヨキ国とマリネシア商国との間を隔てるゴリア砂漠である。
この砂漠を越えるには、それなりに水や食料を買いこまなければならない。
なにせ砂漠の東西1000k、南北600kという広大な場所であり、一日中熱波が襲う危険地帯なのだ。
もちろんこれ以外にも方法はある、それは外海を通じて船での移動だ。
ただ、こちらは安全だが船賃が高くとてもではないが、アリューゼ達の手持ちでは足りないのだ。
「ゴリア砂漠を越えるか……、準備は必要だな」
「その為にも……」
そこまで話すと、シュターゼンはライラの方を真剣な眼差しで見つめた。
真剣な彼の様子に気づいた彼女は、少し躊躇いながらも姿勢を正し向き合う。
「まず、ヨキ国とアーバンの関係について何か情報は無いだろうか?」
「アーバンとヨキの間……。そういえば、2、3週間前に給金で揉めたという話は聞いた事はあるけど、それ以外は特にないかな? 特にその辺りでうちのオヤジが亡くなったから、それどころじゃかったってのもあるけど……」
そう言って、彼女は少し憂鬱な表情を見せた。
一方のシュターゼンは、1人で「なるほど」と呟きながら何かを考えている。
そして、考えがまとまったのか、改めてライラに話を始めた。
「ライラ殿、我らに投資をして頂けませんか?」
「投資? 別に構わんけどいくらくらいなん?」
「少なくとも、ここの全財産を……」
それを聞いたライラは一瞬戸惑い、躊躇った様子を見せた。
だが、すぐに瞑目してブツブツと呟きながら何かを考え始めた。
彼女の頭の中では、今の状況と今後の状況にどうすれば良いのか、どれだけの利率で受ければ良いのかが駆け巡っていた。
少しの間黙っていたが、考えがまとまったのかライラはおもむろに口を開いた。
「……投資をする前に、アリューゼが一体何者なんかそれを聞かせて欲しいんやけど」
そう言われたシュターゼンはアリューゼに視線を送ると、彼はゆっくりと頷いた。
それを見たシュターゼンは軽く息を吐いてからアリューゼの出自について話し始めた。
「……ここに居られるアリューゼ様は、オルレンシア王国第一王子にして王位継承第一位のアリューゼ・フォン・オルレンシア様です」
それを聞いたライラは、自らの予想以上の人物に驚きを隠せないでいた。
彼女はアリューゼを「どこかの大貴族の息子」程度に考えていたのだ。
それがまさかの王族。
しかも王位継承第一位の王太子という身分だったのだ。
「……お、王太子殿下がなんでこの国に?」
ライラは、一瞬ためらいながらもその質問が口をついていた。
こんな事を聞いて、もし聞いてはならない事だとしたら首を刎ねられるかもしれない。
いや、それ以前にこれまでの自分が馴れ馴れしい言動を考えると、相当拙い可能性もあると思いながらも出てしまったのだ。
そんな彼女の緊張を知ってか知らずか、アリューゼは至って平静に、にこやかに彼女の質問に答えた。
「ハハハ、それが恥ずかしい話なんだが、敵に城を奪われてしまってな。これからそれを取り返す為にマリネシアの財力とヨキの武力を欲しているんだ。あと、あまり緊張しないでくれ先程までの『アーちゃん』で大丈夫だよ」
「あわわわわ、いや、そのあの」
そう言って笑うアリューゼに対して、ライラは何とも言えない恥ずかしさと、自分の失礼な物言いに慌てていた。
そして、その二人のやり取りをみた周りの男たちも一斉に笑い始めたのだった。
ひとしきり笑い合った後、シュターゼンは改めて話を戻した。
「それで、応えはどうだろうか?」
「わかりました。ウチで役に立てるならお貸ししましょう。ただし……」
彼女はそこまで言うと、人差し指を真上に立ててシュターゼンに迫った。
「1月で1割! 利子を貰えるんなら貸したる」
「月1割……、ここの全財産はどれくらいある?」
シュターゼンの問いに少しだけライラは考えてから応えた。
「……そうやな、だいたいやけどヨキの兵で言うたら一ヶ月だけなら100~150人は雇える」
「それは一般兵でか?」
「そやね。一般兵やね。優秀な指揮官が必要な場合はもっと人数減るやろうけど、ざっと金100枚ぐらいはあるんちゃうかな? あ、けど食料諸々考えたらもうちょい少ないか」
予想よりも大きい数字に一瞬驚いた表情をした男たちは、すぐに頷きあった。
「いや、それだけ借りられれば十分だ。すぐにでも用意をして欲しい。明日には出発できるように」
「はぁ!? 明日出発!? 無茶言うな……、まぁ何とかするけど、ほなそこの緑のお兄ちゃんと青いおっちゃん手伝ってや」
「緑のお兄ちゃん……」
「バイス、君はお兄ちゃんなだけ良いでしょう? 私なんて青い〝おっちゃん〟なんですよ」
そう言ってバイスとボーマンが固まっていると、彼女はテキパキと動き始め指示を出していた。
そんな時だった。
首都全体に響き渡る様な鐘の音が聞こえたのは。
「何の音だ!?」
「敵襲の警鐘や! 何者かが襲ってきよったんや! 2人とも準備急いで!」
街が騒然とし始めて数分後、徐々に噂が回りはじめたのか町人たちからの話し声が聞こえ始めた。
曰く、モンスターが集団で襲ってきた。
曰く、銀髪の少女が追われている。
曰く、盗賊団が襲撃してきた。
曰く、守備隊の訓練で事故が起きた。
など、取るに足らない情報からおかしな情報までが飛び交っていた。
そんな中、アリューゼは銀髪の少女という言葉を聞いた瞬間に血相を変えて、ライラの家を飛び出すのだった。
「アリューゼ様!?」
シュターゼンが叫んだ時には、既に家から遠く離れた場所で1人門へと向かっているアリューゼの後姿しか見えなかった。
「ローラン! 急ぎアリューゼ様を追いかけろ! 私は馬を探してから駆けつける! 急げ!」
シュターゼンの命令を受けたローランは、ライラの家の窓から飛び出し、そのまま屋根伝いにアリューゼの後を追い始めるのだった。
今後もご後援よろしくお願いいたします。