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オルレンシア復興記  作者: リューク
亡国の王子
5/9

1-5

2017.07.12誤字修正、地の文追加と表現多少変更。

遅くなりすみません。

森の中 アリューゼ


 目の前が一瞬スローモーションの様にゆっくりと動き始めた。

 周りも、俺も全てがゆっくりと動く中、バイスが鮮血をまき散らして倒れていく。

 かに見えた、次の瞬間。

 誰かがリッパ-の横っ面を殴り飛ばし、奴はものすごい勢いで直角に飛んでいった。


「このど阿呆が! また得物落としてお前は!」

「え゛?」


 そう言ってバイスの首根っこを掴んでいるのは、シュターゼンだ。

 いや、多分シュターゼンであっているはずだ。

 俺が先程まで聞いていた口調とは全く違うので、確証はないが……。

 そんな事を考え呆然とその様子を俺が見ていると、ボーマンが隣に来て囁きかけた。


「あぁ、王子は見た事無いのでしたね。あれがシュターゼンの本当の姿でして……」


 通称、鬼参謀のシュターゼン。

 少しでも作戦と違う行動をしたり、粗相をするとブチ切れて指導を入れる事からそう呼ばれているらしい。

 どうりで最初から軽口をきくバイスが大人しかったはずだ。

 ちなみに、飛んでいったリッパ-はローランがキッチリ頭と心臓辺りを射抜いて仕留めている。

 

 で、バイスだが。

 先程から正座させられ、シュターゼンに大声で指導を入れられ、まるで新人騎士の様に縮こまっている。


「あんなバイスは中々見れないな……」

「オリバー団長は優しい方でしたからね。まぁあいつには良い薬となるでしょう」


 そんな事を話しながらも、俺は先程一瞬だけ見えた光景が頭に焼き付いていた。



 俺たちは、シュターゼンの指導が終わるのを待って移動を開始した。

 まぁ、待つと言っても小休止もない程度の時間だったので、一瞬ではあったが。


「とりあえず、マリネシア商国を目指します。その後向うでどう動くかを考える。という事でよろしいですか?」

「あぁ、それで行くしかないだろう。後はシュターゼンの策に任せるしかない」


 マリネシア商国、正直初めての外国で不謹慎ながら少しワクワクしている自分がいる事に驚いていた。




マリネシア商国 ????


「てめぇについてく奴なんざ、誰もいねぇんだよ! わかったらさっさと諦めろ!」


 日も沈み幾分か静かになった商店街に大きな声が響いた。

 その場に居た人たちは、またかとため息を吐いて見てみぬふりをし始めた。

 だが、怒鳴られた当人である少女はフードから鋭い視線を相手に放ってその場を動かず言い返し始める。


「なんでや!? ヤザンお前は先代の、親父の一番信頼する仲間やったやないか! それがなんでウチを裏切る!?」

「だから何度も言ってんだろ! てめぇじゃこいつら守れねぇつってんだ! それに俺がこいつらを呼んだんじゃねぇ! てめぇで判断して俺の所に来たんだ!」


 男がそこまで言い切ると、少女は悔しそうに奥歯を噛みしめていた。

 その様子を見て、男はやれやれといった表情で少女に最後とばかりに残酷な一言を告げる。


「ほら、また顔に出る。あんたは直情径行すぎるんだよ。そんなだから仲間がみんな俺の所にくるんだ! わかったか!?」

「……言わせておけば!」


 少女はそういうや否や、いきなり隠し持っていた小さな木剣で男を殴りつけ暴れはじめた。

 少女の暴挙を見た男たちは、彼女を一斉に取り押さえるべく、飛びかかるがひらひらと避けられ、木剣で打ち据えた。

 最初こそ少女は舞台の主役の様に踊れたが、流石にやり過ぎたのか過ぎたのか、男たちも一斉に飛びかかり取り押さえる。


「放せぇ! なんでお前らあいつなんかに着いてくねん! これまでの恩は感じとらんのか! おい!」

 

 取り押さえられた少女は、ぎゃぁぎゃぁと周囲の男たちに喚き立てた。

 それを取り押さえながら、男たちは心底付き合いきれないという表情でヤザンに問いかけた。


「ヤザンさん、お嬢さんどうしますか?」

「適当に放っておけ。……どうせ喚いて暴れるしか能がないんだからな」


 ヤザンがそう吐き捨てるように言うと、男たちも「それもそうか」と口々に言いながら少女を近くのゴミ箱にお尻から突っ込ませる。


「お前ら! こんな事して分かっとるんか!? なんで、なんで誰もウチの言う事を聞いてくれへんねん! この薄情もん!」


 そう少女が喚くが、男たちは効く耳を持たず、1人、また1人と去っていった。


「なんで……、ウチが何をしたっていうねん。ウチは……、ウチは……」


 少女はそう呟く様に言いながら、うな垂れるのだった。



マリネシア商国 アリューゼ


「参ったな……、ここはどこだろう?」


 俺は今、マリネシア商国の商店街の裏道に居る、はずだ。

 なぜはずなのか、と言われると恥ずかしい話ではある。


 マリネシアの首都アリアールに到着したのは今からちょうど1刻前。

 初めて見る外国に俺は、舞い上がっていた。

 王都では見た事もない生地の着物に、王都では見た事もない首の長い生き物、長い鼻の生き物など、それは目を奪われるものばかりだった。

 また、異国という事もあり、騎士風の恰好をした者は少なくどちらかというと皮鎧を身につけた冒険者という風体の者も多かった。

 そして、それに輪をかけて料理もみた事もない豪快な料理が多くそれに目を取られていると、シュターゼン達が居なくなってしまたのだ。


「まぁ、この状況を迷子って言うんだろうな――」


 俺がそんな事を思っていると、どこからか大きな声が聞こえてきた。


「お前ら! こんな事して分かっとるんか!? なんで、なんで誰もウチの言う事を聞いてくれへんねん! この薄情もん!」


 その叫び声は、威勢を良くしようとしているがどこか悲痛な、悲しみを含んだ叫びだった。

 俺は、ついそんな声を出す人物に興味を持ってしまい、叫び声のする方に移動すると、男たちが1人の少女をゴミ箱に突っ込んで去っていくのが見えた。


「なんで……、ウチが何をしたっていうねん。ウチは……、ウチは……」


 少女はそう言いながら目に大粒の涙を溜めていた。

 どうしようにもならない状況にただただ涙する。

 そんな彼女に俺は同情したのかもしれない。

 気が付いたら俺は、ブツブツと呟いている彼女に手を差し伸べていた。


「良かったらそこから抜くの手伝おうか?」

「……ッ! なんやウチの醜態みとったんか? 悪趣味やな、あんちゃん」

「あ~、いやそういう訳じゃないんだけど、そのすまない」


 俺が素直に謝ると、彼女は軽く咳払いして「こっちこそ突っかかった」とだけ言って手を取ってきた。

 俺がその手を握り引っ張り上げると、彼女はスッと目の前に立って俺の顔をまじまじと見てきた。


「…………」

「あ、あの、俺の顔になにか付いている、かな?」

「……いや、少し土汚れとかあるけど、あんちゃんどっかの金持ちのボンか?」


 金持ちのボンって……。

 いやまぁ、確かに一国の王子なんだから金持ちではあるだろうけど。

 俺がそんな事を考えていると、彼女は少し考えてからニヤリと笑ってきた。


「なぁ、あんちゃん。もしかしてお付きの人と離れ離れなったんちゃう?」

「えっ!? なんでわかったの?」


 俺が驚いて返すと、彼女は拍子抜けといった感じの表情で話し続けた。


「いや、カマかけただけなんやけど、こんな簡単に引っかかってくれると拍子抜けするわ」

「カマって! ……くそ、なんか悔しいな」


 俺がそう呟いて明後日の方を見ると、彼女は声をあげて笑い始めた。

 全く、こっちが傷ついているのに塩を塗ってくるなんて、なんて奴だ。

 そう思いながらも、先程までの悲しそうな表情ではなくなった事に俺は、少なからずホッとしていた。


「ククク……。はぁ、ありがとうな。気ぃ晴れたわ、ほなあんちゃんのお付き探そうか?」

「え? あ、良いのかい? っていつまで俺はあんちゃんになるんだ?」


 そう言うと、彼女はキョトンとした顔で俺の方を見てきた。


「へ? あぁ、名前まだ訊いてへんかったな。ウチはライラいうねん。あんちゃんは?」

「俺は、アリューゼ……」

「ほなアリューゼやし、〝あーちゃん〟でえぇか?」

「いや、それさっきからの呼び方と大して変わってないよね!?」


 俺がそう言うと、彼女は二カッと歯を見せて肩を何度も叩いてきた。

 

「男がそんな細かい事気にしたらあかんよ。そんなんやとモテへんで」


 くっ! それを言われると言い返せないじゃないか。

 しかし、見ててまったく飽きない娘だな。

 俺は、そんな風に思った自分に少しおかしくなってしまった。


「で、あーちゃんはどこらへんではぐれたか分かるか?」

「え~っと、たぶん通りで料理を売っている所ではぐれたんだけど、なんかいっぱい料理屋があってデッカイ針に刺して焼いた肉を売ってたな」

「あぁ、1番街の串焼き屋やな。そこやったらこの都市でも一軒しかないから、そこまでやったらすぐに行けるわ。ほな急ぐで」


 彼女はそう言って俺の手を取って走り始めた。

 

「あ、わわわ、ちょ、ちょっと」

「なに気にしてんねんな。アーちゃんは初心なんか?」


 彼女はそう言って笑った。

 先程までの悲しい顔を必死で消す様に笑っていた。

 俺はそんな彼女の表情に気づかないふりをしながら話をふる。


「ところで、ライラはこの都市の人なのかい?」

「そうやで、ウチは代々ここを拠点にしてる隊商やねん……、いや隊商やったって言うべきなんやろな」

「隊商だった? それはさっきの……」

 

 俺が続きを言おうとした時、彼女は急に立ち止まり振り返って俺の目を見てきた。

 まるでそれ以上言わないで欲しいと言う様に。

 少し待っていると、彼女はため息を小さく吐き俺から視線を外してポツポツと語り出した。


「……まぁ、見てたら分かるわな。あいつらは、元はウチの従業員やってん。けど、こないだウチのオヤジが死んでしもてな。あいつら、ウチに『商売なんかでけやれん』と言って出て行ってしまいよったんよ……」

「…………」

「それでな、さっきあいつ、ヤザンの所に従業員返せって言いに行ったんやけど、あかんかったんや……。はぁ、もうウチの商売あかんようになってもうたわ。お母ちゃんも居らんし、これで天涯孤独の身や」


 彼女はそう言うと、悲しそうな瞳で空を見上げていた。

 そんな彼女に俺は、なんて言ってあげれば良いのかわからずただ、「そう、だったのか……」というのが精一杯だった。

 そんな俺の言葉を聞いた彼女は、先程までの悲しい表情から一転してにっと歯を見せて笑ってきた。


「なんでアーちゃんが暗くなってんねん。ウチはそれでもあきらめてへんよ。オヤジが残してくれた屋号があるんや、この屋号を使って少しでも従業員は確保でけるはずやから、必ずウチの隊商を復活させたる!」

「逞しいんだな……」


 俺がそう呟くと、彼女は意外そうな表情で俺を見てきた。

 俺は失言したかと思って少し焦りながら取り繕う。


「あ、いや、その、ただ単純にすごいなと思って口をついてしまっただけなんだ」

「ありがと、褒められたと思っておくな」


 そう言って彼女は、向日葵の様に明るい笑顔を見せてくれた。

 それから暫く彼女とお互いの身の上を話し合いながら、歩いていた。

 もちろん、俺がオルレンシアの王子だという事は伏せて。


「へぇ~、ほなアーちゃんも自分の所追い出されてきたんかいな。なんや不思議な縁もあるもんやな。ってかまさかアーちゃんが貴族やったなんて、そっちの方が驚きやわ」

「驚きって、俺そんなに貴族らしくないか?」

「うん、貴族って言うよりもどっかの商家のボンって感じがするわ。まぁその鎧姿を見たら納得もできるけどな」


 確かに俺は騎士の中ではそこまで大きくはない。

 いや、むしろ小さい方だろう。

 こればかりは母親似になったとしか言いようがない。


「まぁ、けどあんたみたいな貴族が居るって言うのもええと思うで」

「……それ、褒められてるのか?」

「褒められたと思って受け取っておいたらええんや、卑屈に考えてもしゃーないんやから」

「なるほど、ライラの言う事にはなんか妙な説得力があるな」

 

 俺がそう言って笑うと、彼女は少し照れた様な顔をしていた。

 俺達がそんな、なんでもないやり取りをしていると遠くから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「アリューゼ様~!」

「若~! 聞こえたら返事を下さい!」


 聞こえてきたのは、ボーマンとバイスの声だ。

 多分俺が居なくなったのに気づいて探してくれていたのだろう。


「あれって、アーちゃんを呼ぶ声じゃない?」

「うん、ライラのおかげでどうにか合流できそうだよ。おーい! 俺はここだ!」


 俺が大声を出してから少しして、ボーマンとバイスが息を切らせて駆けつけてきた。


「ここにおいででしたか。全く、はぐれないようにとあれ程言いましたのに」

「あ~、すまない。面白そうなものが沢山あったんで……、つい、な?」

「まったく、貴方様の身がどれだけ大事かご自覚はあるのですか? だいたい……? ところで、そちらの方は?」


 ボーマンがやっと俺の横に、いや後ろに隠れていたライラを見つけて指さしてくる。

 

「あぁ、彼女はライラ。ここの商人の1人らしいんだ。で、ここまでの道を教えてくれた恩人でもある」

「そうでしたか、それはありがとうございます。私はボーマン、アリューゼ様の付き人でございます」

「俺はバイスって言うんだ。お嬢さんお綺麗ですね。是非ともその御尊顔を……」


 バイスが口説こうとした瞬間、ボーマンの鉄拳が彼の頭に直撃し、鈍い音を立てた。


「――痛! って痛いじゃないですか! 副長!」

「こんな所で口説こうとするからだ! まったく。だいたい若様の恩人に失礼だろ」


 ボーマンとバイスのやり取りを俺の後ろから見ていたライラは、警戒心が解けたのかクスクスと笑い出した。

 そんな3人の様子を見て俺もまた、笑みがこぼれるのだった。

 


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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