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とある小さな星の話をしよう。

 とある小さな星の話をしよう。


 そいつは、木星型惑星の火成岩が分離した、一つの衛星だった。とても運の良いことに、そいつの気泡には大量の水分が溜まっており、いつしかケイ素による化合物を主成分とした植物、というよりも神経回路のようなものが巣くうようになっていた。そして、とても運の悪いことに、そのような生命の条件を満たしたのは数百ある衛星のうち、そいつだけだった。


 だから、そいつは当たり前のように独りぼっちだった。熱い主星が湛える重力場の中で、他の衛星たちの楕円軌道と交錯しながら、緩慢とした意識の波をたゆたわせていた。ただただ在るべきことを在りのまま、色と空の別もなく、表現するべき感情もなく、自らの波模様を見つめるだけの生命体。


 けれど、ある時のこと。ひょんな拍子で、そいつのすぐ傍に小さなワームホールが空き、とある物体が彼方からワープしてきた。そのサプライズプレゼントは、円状のパラボラアンテナに棒状の磁力計が付いた探査機だった。やがてガスによる腐食が進み、その探査機から零れおちた金の円盤が、そいつに邪念を生じさせた。


 結論から言って、そいつは円盤に込められたメッセージを解読することはできなかった。でも、表に書かれた特徴的な図形と、裏に刻みこまれた溝の複雑なパターンに、そいつはすっかり虜になってしまった。この広大な宇宙の、ここではないどこかに、自分ではない誰かが存在している。そんなロマンに、いてもたってもいられなくなって、そいつは会いに行くことにした。その探査機を送りだした、地球という星に恋い焦がれて。


 その日、多くの人たちが空を見上げていた。各地の天文台が唐突に観測しはじめた巨大な彗星が、金星の裏側に衝突するという。もしも金星がそこになかったとしたら、彗星の軌道を伸ばした先にちょうど一ヶ月後の地球があるらしい。そんなセンセーショナルな天文イベントを、金星が盾となって地球を守ってくれる天文イベントを、人々は崇めるために空を見上げていた。


 結果、金星は木っ端微塵に粉砕されて、その軌道は一ミリも変わることなかった。古来より神に準えられ、明けの明星に宵の明星と親しまれてきた金星が、あっけなく破壊された絶望から巻きおこる破壊と狂宴の中、なんとかして人類の歴史を保存したデータベースだけは宇宙に打ちあげて遺そう、なんて国際的な試みがあったりもしたけれど。その歴史にピリオドを打つ彗星が、宇宙開発史の初期に打ち上げられたボイジャー探査機のゴールデンレコード、その祈りに応えた知的生命体だと知る由もなく。そいつはちょっとお茶目に驚かすつもりで、星同士じゃれにきたことを知る由もなく。


 めでたしめでたし.

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