表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅の途中で魔王を拾ったんだが  作者: 日向 葵
第一章
6/7

深緑の略奪者


 「安心していい、君は私が護る。」


 脳を穿つ衝撃。全身を走る悪寒。


 眠れぬ夜に頭の天辺を天使に優しく撫でられたような、激しい不快感と嫌悪感が我を襲った


 こやつ今なんと言った?


 護る?我は魔王ぞ。


 危機など無い。強敵も存在しない。苦難も困難も味わったことなど無い。心配や不安など抱いたこともない。ましてや何かを護ったことなど一度たりとも無い。


 そんな我を護るといったのか。


 我に向かってそんな言葉を放った者は前世を幾度遡ろうと、こやつ一人であろう


 今にも激昂しそうな程ふつふつとマグマのように熱くなる憤りを抑える


 だが今は耐えよう。この黒髪の男の実力を図る良き機会に違いはないのだから


 どう転ぼうと構わぬが惜しむらくは男が喰われた場合、我の手で殺せぬことか


 大蛇が喉を鳴らし獲物を黒髪の男に定める


 その種にもよるが強力な魔物程、安易に獲物に手を出さない傾向がある。敵の技量を見定め生き残る術を本能で知っているからだ


 張り詰める空気

 その距離、約50m


 男は以前柄を握り剣を拳程抜いて構える。

 少し顔を覗かせた刀身は僅かな木漏れ日を受けてギラリと鮮やかに光を反射させる


 ただの剣ではないな

 魔鉱石を打って造られた代物か。


 さて、どちらから動く


 おそらく大蛇は迎撃に回るだろう。何故なら… 


 火蓋を切ったのは黒髪の男


 大地を蹴って駆ける。

 

 大蛇を我に近づけぬ為だろうが…

 人間とはつくづく愚かな生き物よな

 

 さて、どうなる


 黒髪の男は大蛇に向かって数m手前で腰を更に低く落として全身をバネに大地を踏み込んで高く跳躍する。


 大蛇に向かって鋭角に跳ぶその様はまさに砲弾さながらだ


 しかし、これは悪手

 

 瞬間的な反応をみせる大蛇。


 蛇は耳が退化して鼓膜は備わっていない。だが大地を通して皮膚で振動を拾い肺に伝達し、それを感知することによって獲物の動きを察し脅威的な反応速度を実現する


 この大蛇が後手に回ったのは確実に屠れる機会を伺っていたのだ


 男が跳んだその距離は既に大蛇の間合いだった

 耳をつんざく嘶きと共に横薙ぎに放たれる巨大な尾が骨太の剛剣と化す


 圧倒的なリーチの差がそこにはあった


 刃状の尾を引きずり黒髪の男に迫るソレは大地との摩擦で火花を散らして更に加速する

 まるで東方の国の騎士、侍が使う居合いのように


 空中では回避する術もないであろう

 真っ二つにされて終いか

 呆気ない幕切れであったな


 もはや大蛇の尾は赤熱の刃と化していた。

 赤い半円の軌跡を描き巨体から繰り出されたとは思えぬ恐るべき速度も持って襲いかかる


 黒髪の男と交差する

 

 轟く爆発音。金属と金属が激突した時のような甲高くも鈍く重い轟音が森林一帯に鳴り響いた


 擊突の際に生じた余波が砂埃を上げ葉を散らし枝を吹き飛ばす


 遮られた視界の先には何があるやら。

 大蛇の嘶きが森林にこだまする


 それは勝ち鬨の咆哮か。それとも絶命の断末魔か。



 


 世界の傍観者である貴方はこう予想する


 絶命の断末魔 → 上にスクロールし 次へ>> をタップ


 勝ち鬨の咆哮 → 下にスクロールし 後書きを読む



























 




《 終章 》天災を体現せしモノ



 土煙が収まり少女の視界が晴れた先に見えたものは既に亡骸となった男の姿だった


 抉られた腹からは臓物が垂れ胴体が辛うじて繋がっている

状態の無惨な姿がそこにあった


 ゆらめく炎のように動く舌は次の獲物を探しているかのようだ


 大蛇の赤い縦長の瞳孔が少女に向けられる

 

 小さな獲物は逃げなかった


 恐怖に足がすくんだ訳ではない


 諦めた様子も無い


 この事態を受け入れるかのような表情で大蛇を見据える


 抗うこともなく逃げるわけでもなく怯えることもない


 今まで圧倒的な力で森林に君臨し、その暴を持って絶対的捕食者であった大蛇にとってこんな獲物は初めてであった


 獲物は逃げるモノ。先の獲物のように歯向かって来る事すら希なのだ


 見据える小さな獲物は自らこちらに向かって歩を運び音を発した


 「喰らえ。」


 大蛇が言語を理解出来るはずもない。


 だがこの小さな獲物は確かに喰えと逃避の哀願ではなく泣き言でもなく実力では到底敵わないであろう大蛇に命令した


 元より小さな獲物にとって選択肢など無いのだ


 大蛇にすれど本来捕食するの一択だったはず


 何処に迷い戸惑い躊躇う必要がある


 だが大蛇は自らの意思ではなくその言葉に従う


 動と静を繰り返し滑るように地を這って大蛇は小さな獲物を一呑みにした


 












 大蛇はとぐろを巻いてじっと佇む。来たるべき時を待っているかのように


 最期に獲物を捕食してから一週間が経っていた


 鱗は白く変色し身体は固く瞼のない瞳孔は更に細くなり微動だにしない


 まるで過ぎ去った時の中に取り残されているかのようだ


 森林の主を狩る千載一遇の到来にもかかわらず他の魔物も魔獣も大蛇を襲う事はなかった


 否、その徐々に膨れ上がる魔睹衣がそうさせなかったのだ


 大蛇の皮膚に陶器が割れたような亀裂が頭部から胴体に向けて走る


 大蛇を覆っていたものは殻となり、禍々しく生えた深紅の二本の角がそれを突き破り姿を現す


 厚みある鱗は逆立ち真黒に染まり、巨大な口には鉄をも穿つ大牙に鋭い歯

 

 背に空を覆う巨大な翼を携え赤い翼膜が威を照らす


 首元には闇を撒く黒紫の魔玉が眼のように妖しく、胴体は2対の脚が生え、その尾は更に太く波打つ刃に黒い雷を纏っていた


 蛇は竜へと昇華した


 黒竜の轟く咆哮は世界の終焉を告げる鐘となる


 今まで生存本能のみに従ってきたが、新たな力に目覚め破壊衝動に生きる


 街を襲い魔物を喰らい形有るものを壊し尽くした

 

 その紅角で穿ち


 大牙で砕き


 剛爪で裂き


 翼で崩し

 

 刃尾で薙ぎ払い


 暗い雷を操って破滅の限りを尽くした


 世界を滅した黒竜は魔のモノすら恐れる存在となり、生き残った少数の人々から畏怖の念と絶望の象徴として、こう呼ばれた




 

 顕現せし天災 


 竜王 スベィト・スワロウアンドラ



 




 

To be continue


次へ 》 をタップ



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ