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旅の途中で魔王を拾ったんだが  作者: 日向 葵
第一章
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小さな魔王



「どうかしたのか?まさか自分の名前が分からないのか?」


 眼前の黒髪の男が生意気にも我に名を問う


 なんなのだこの黒髪の男は。我が魔王と知ってか知らぬか嘗めた口を叩きよるわ。矮小な人間如きが。


 しかし我は何故自らの名も分からぬ……


 我が魔王であると云うことは間違い無いのだ。理屈では説明出来ぬこの身に、魂に刻まれた確かな事実なのだと我に告げておる

 自然と両の手に力が入り唇を噛む


 この男、レインと言ったか。が我の前に膝を付いた

 と、共に重い金属が地面を叩くような音が聞こえた。眼をその音の鳴る方へ向けると黒髪男の腰に携えた剣の鞘が地面をノックしたようだ


 「ーッ!!」


 その剣を見た瞬間、我の頭に激痛が走った。


【エ※※・※ン・※※ト※】


 まるで頭蓋を内側から棍棒で叩かれたかのようだ。なんだ我の脳に言の葉が浮かぶ

 思考を遮るように走るノイズ。なんだこれは、我はどうしたというのだ


 地面に崩れる我を見て、近づく黒髪の男。我の肩を掴み怯えでも憐れみでも蔑みでもない神妙な面持ちでナニか喚いておる

 我に触れるな。人間が……。


 ザザ…ザザザ……


 意識が遠退くように思考が鈍りはっきりとしない。人間の前で気を失わないだけマシというものだが、打った鐘が鳴り止まぬ残響のように激しい頭痛が我を抱いて離さぬ


 ザザザ…ザザ……ザ…


 彩りの無い白黒の映像が脳内に再生される

 

 雨か?雨が降っておるのか…


 ザザ……ザザ…


 我の眼前には鎧を着た剣を握る男


 ザ…ザザ……


 濡れた髪で顔は見えぬな…


 ザザ…ザザ……


 剣の切っ先は見えぬ…


 ザザ……ザ…


 成程、見えぬはずだ。

 その剣は我の心の臓を貫いていたのだ



【エ※※・※ン・※※ト※】



「え…ん……と…。」


 我が気付いた時には再び脳内に現れた言の葉を無意識に口にしていた


 しかしなんだったのだ、今の映像は。魔王である我が絶命するビジョンを見たというのか。

 否、未来へのビジョンというより潜在する我の記憶のような確かなものが。


 謎の頭痛は蝋燭の火が風に吹かれて消えるように治まった

 

 我に一体何が起きているのだ……


 ふん、魔王である我が人間の手によって命を落とすなど笑い話にもならぬわ。

 そんな夢うつつな妄想をしたのだと自らを嘲笑する

 

 「エント、大丈夫か?!」


 相も変わらず滑稽な表情を浮かべ我の肩を揺する黒髪の男


 我は羽虫を叩き落とすようにその手を振り払う。汚らわしい手で高貴な魔王である我に触れるな人間


 男は意識を戻した我を見て、微笑み安堵の溜め息を漏らした

 

 「無事なようで安心した。突然頭を抱えて疼くまるから何事かと…」


 言い終える前に少女は手のひらを黒髪の男に向ける


 「我の無事を確認して安心だと?つくづく勘に障る男だ。消えよ。」


 少女は不吉な笑みを浮かべ黒髪の男に向かってそう告げた






 

 レインの取った行動は


 様子を伺う

 → 上にスクロールし 次へ>> をタップ


 危険を感じて剣を構える

 → 下にスクロールし 後書きへ

















《 終章 》甦る黒



 突如、少女の様子が急変する。


 妖々とした凶気を孕むその嬉々と笑う顔は悪魔のようであり、新しい玩具をもらった子供のようでもあった


 背筋が凍るような感覚が私を襲う。今まで培った経験が危険を告げる警鐘を鳴らし、無意識に身構え剣の握りに手を掛ける


 おもむろに動く少女の艶のある唇


 この少女は一体…。


 小柄で華奢な身体・雪のような白い肌・あどけなさを残す顔に大きな漆黒の瞳


 その幼気ある容姿に戸惑い一瞬の躊躇が生まれる


 疑念を振り払い斬る覚悟を固める。

 私に対し突き出した片手以外は何一つ身動きを取ることの無い少女に向かい刀剣を抜刀しそのまま袈裟懸けに振るう。

 甲高い金属音を鳴らし美しい白銀の剣身が姿をあらわにした


 だが遅い。その抜刀速度は音速を越える。しかし一瞬の躊躇いが少女に隙を与える結果となった


「デスリライト」


 すると迸る黒い閃光。空を裂き大地を焼き一切の光を拒絶する暗き雷がレインのその身を魂を焦がす


 その黒閃は肌を燃やし肉を焼き骨を焦がす。呻き声をあげる事も許されず容赦無く襲う暗き雷。 崩れ落ちる身体を膝と剣で支える。


 失われつつある意識を保ち少女を見つめ片腕を伸ばす。

 この少女はいずれこの世界を滅し平和を破壊する存在となるだろう


 私の背で「我は魔王」と言った言葉は妄言でも虚言でも無かったのだ。


 少女の瞳を睨む。これが私に出来る最期の抵抗だった。

 

 その瞳からは感情もなく私に対する興味もなく、ただただ虚無だけを映し出していた。


 そして再び広げられた手のひらが私に向けられた。


 「デスリライト」


 「デスリライト」


 「デスリライト」


 「デスリライト」


 「デスリライト」



 幾度も放たれた黒閃で、そこに残されたのは骨の一片も灰すらも無い完全な無だった

 

 その数年後、新たな魔王を名乗る者が世界の頂点に君臨した。魔王の軍勢により街は焼かれ人々は殺戮され、生き残った少数の人間は魔の恐怖に眠れぬ夜を過ごした。

 新たな勇者が誕生することはなく、この世は人々から魔界とよばれるようになった。




To be continue


次へ >> をタップ



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