第75話
遅くなっちったな。
――――朝日基地
朝シリ街道での戦闘から2日が経った。
基地にある格納庫3つのうちの一つである第3格納庫には負傷したシリアナ帝国兵が多数寝ていた。その中に帝国軍の指揮官であったアルフレッドの姿は無い。彼は基地にある会議室で寝ている。もちろん出入口は厳重に警備され、脱走されないように窓の外には監視付きである。今日彼は2日ぶりに目を覚ました。
(ここは・・・、どこだ?)
彼は攻撃により首から下が麻痺していた。が、それも一時的のものだ。彼は動かせる首で周りを見渡した。寝ているベッドの横には見慣れない箱、その箱からはピッ、ピッ、っと音が鳴っていたさらに天井から吊るされた袋に入った液体が細い管を通って左手に繋がれていた。彼はそれを外そうと思ったが体が動かないため諦めた。
(そうか、俺は敵に捕らえられて奴らの基地に連れて来られたんだな。そしてこれは人体実験か何かの装置・・・)
彼はそういうことを考えていた。すると部屋の扉が開き白い服を着た男が入ってきた。
「目が覚めたようだね。安心しても大丈夫、私は医者だからね」
どうやら言葉は通じるようだ、と彼は思った。
「ベッドのまわりにあるものが気になるようだね?これは治療に使うものだから心配はいらないよ」
(治療だと?)
彼は思った。この世界では刺されたとか手足が切断したみたいな大怪我をしたら治癒魔法を使う治癒師が処置してくれる。それ以外の擦り傷とか切り傷は薬草を塗っておしまい。さらに高熱が出たら教会に行って神頼みである。彼らには科学というより魔法または神という概念しか存在しなかった。
そして今行われている治療行為は彼らが信仰するノストラ教の教典には日本が行う医療行為は教典に反する医術とされているから彼が発した一言目が
「すぐにこれを外せ!俺はまだ死ぬわけにはいかん!!」だった。
だがこの反応に医者は、
「これを外したら、それこそ死ぬぞ?君の懐に入っていた本を解読して読ませてもらったがあの本に書いてあることをこのまま続けたら不幸な思いで死んでいく人がこれから多くなるぞ?」
「それはどういうことだ?神に治せないのにお前らが治せるもんか!!」
「それが治せるんだ、ちょうどいい1人ここに連れて来てくれ」
――――10分後
アルフレッドの病室に1人の歩兵が連れて来られた。連れて来られた歩兵は右腕をちょくちょく気にしていた。アルフレッドが疑念を抱いていると歩兵が右腕でアルフレッドの左手を触ってきた。
「冷たっ!?」
体が麻痺して動かすことは出来ないが、痛覚とかはあった。
「どういうことだ?」
アルフレッドは医者に聞いた。
「これは義手というもので失った手の代わりになるものだ。さっきまで冷えたところに保管してあったから冷たかったんだろう。作り物だから取り外しもできる。慣れれば元の自分の手と同じように使える」
アルフレッドは半信半疑だったが医者が歩兵から義手を取り外したらアルフレッドの口は開いたままになっていた。
「すぐには理解できないだろう。おいおい知っていってもらおうと思う。それから我が国の医療行為を受けた以上貴殿や収容した歩兵達を返すわけにはいかなくなってしまった。君たちを返すということは死地に追いやるということだからな。よって貴殿らをこの基地で匿うことになったからそのつもりで」
この言葉にアルフレッドや連れて来られた歩兵は返す言葉が無かった。今、国に帰ったら異教徒による医術を受けて帰ってきた異端者呼ばわりされ、最終的には殺されてしまう。
シリアナ帝国では異端者は死刑になるからだ。
そう言い残し医者と連れて来られた歩兵は出て行った。その入れ替わりで今度は女が1人入ってきた。
「私はこの基地の司令、黒川志乃陸軍少将だ。あなたの名はアルフレッドでよかったかな?」
彼は頷いた。
「私の事は普通に黒川とでも呼んでくれて構わない。私がここに来たのは貴殿に言わなければいけないことが出来たからだ」
黒川の言葉をアルフレッドは聞いて「なんだ?」と答えたあとしばしの沈黙が続き黒川が発した。
「貴殿の祖国、シリアナ帝国は早くても1週間以内に滅びる」
「どういうことだ!?」
「先ほど本国の総司令部から通達があった。我が大日本帝国政府及び他同盟国はノストラ教をこの世に存在してはならないもの、解散させなければならないものと判断した。よってノストラ教を信仰する国は全て敵国とみなすと・・・」
「なんということだ、我が3万の軍勢を一瞬で壊滅させたあの兵器はお前らはどれぐらい持ってるんだ?」
「少なくともあれの数億倍はあります」
「億!?無理だ勝てるわけがない」
「可能なら今すぐ降伏するように貴殿にお願いしたいのですが、無理ですよね?」
「ああ、無理だ。だが1つだけ教えることはある。ノストラ教の総本山の場所だ」
「それはどこですか!?」
総本山の場所が分かればこの戦争を早く終わらせられると黒川は思った。
「我がシリアナ帝国の隣にグランピエール王国がある。そのさらに隣に神聖ノストラ皇国がある。そこがノストラ教の総本山だ。ノストラ皇国は今、東方にある亜人連合と戦争中だ」
「亜人だと?亜人とはなんだ?」
「お前らは亜人を知らないのか?猫族や狼族のことだよ。ノストラ教では人間以外の種族は滅びの運命だから」
「なるほど、上に伝えておこう」
「ちなみにグランピエール王国はノストラ教を信仰しているが国王や国民はノストラ教が嫌いだ。味方にできるかもしれん。嫌いなのに信仰しているのはノストラ皇国に逆らうと大軍勢を差し向けてくるからって理由があるから歯向かえないんだろうな。シリアナ帝国とは隣同士ではあるが国交は結んでいないしお互い険悪であるからいつ戦争になってもおかしくなかった。でも攻め入ることも攻められることも無い。ノストラ教では信仰国同士での戦争は御法度だからだ。」
「わかった、ありがとう。とりあえず今日はここまででいい、詳しいことはまた別の機会にでも聞かせてもらう、ゆっくり休むと言い」
「わかった」
そういうと黒川は部屋を出て行き、アルフレッドは喋り疲れたのか眠りについた。




