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とりあえず、平穏をください。  作者: 上条伊織
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ながらくお待たせいたしました。


感想などございましたら、よろしくお願いします。

 一方、屋敷で待っていたカザルスは己が探知できる範囲内に先ほど飛び出して行ったヨルの魔力を感知していた。そして、ヨルの魔力を感知するのと同時にもう一つ、孫のリシールの魔力も感知した。

 同じ速さでこちらに向かってきているということは、またいつものようにヨルに抱えあげられているのだろう。

 その普段となんら変わりない二人の様子に安堵する。

 やはりリシールは生きていた。しかも、少なからず成長して。

(よもや、聖魔獣と契約してくるとは。精霊を視ることができるとは思っていたが、聖魔獣に気に入られるほどとは――)

 カザルスは呼び鈴を鳴らす。

 すぐさま筆頭執事であるセバスがやってくる。無表情ではあるが、その目には憂いがある。

 リシールを可愛がっていた使用人は数多くいるが、セバスは妻帯者ではあるが子どもがいない分、余計に猫かわいがりしていた。

「お呼びでしょうか」

 セバスの声は固い。ヨルのように探しに行きたいのだろう。しかし、筆頭執事である彼はそれを許される立場ではないことを彼自身がよく理解している。

 カザルスはそんな生真面目な態度である彼に目を細め、湯浴みの準備を頼む。

「湯浴み、ですか?」

「リシールと、ヨルの分を頼むよ。あと、お腹を空かせているだろうから、彼らの大好物をたくさん用意しておきなさい。今日ぐらい、身分は関係なく仲良く食べさせなさい。それがあの子にもヨルにも最良だろう」

「かしこまりました」

 セバスはカザルスの言葉を認識すると表情筋が緩むのを理性で抑え込みながら恭しく礼をした。

 踵を返すと彼にしては珍しく足音を立てながら待機していたアルカに湯浴みの準備を申付ける。それだけで事情を察したアルカはすぐに準備に取り掛かると言って足早に去っていく。

 セバスはそれを見届けると厨房へ向かう。料理長(コック)の居城である厨房へは普段入らない彼だが、今回は目的がある。向かわなければならない。

「コウシン、いるか」

 厨房を開きざまに目的の人物を探す。その人物は不機嫌そうな顔をして大きな鍋をかき混ぜていた。

「あ?てめぇまた来たのかよ。何度も言うが献立をてめぇの言う旦那様、お嬢様の好物だけにするのは反対だ。特にお嬢様は体を形成される大事な時期にドルチェだけ食わしてみろ。将来、絶対に後悔するね。間違いなく!旦那さまだって後悔するに決まってる。俺はこの家にいる人々の健康を食事の面から支えてるんだ。いくら使用人の頂点(トップ)に君臨するてめぇの命令でも聞く気はない!」

 セバスの声に反応するように声を荒げたコウシン。ちなみに作っているのはカレーだ。

 普段の彼ならカレーでもスパイスから調合するのだが、この陳腐な香りは明らかに手抜きである。リシールが失踪しているから仕方ないとはいえ、仮にも伯爵家に仕える者としてどうなのだろうか。

 しかし、こうしている間にもリシールとヨルはこちらに向かってきている。湯浴みをさせるにしても急がなければ間に合わない。

「コウシン。お嬢様の好物はもちろんだが、今日はヨルの好物も一緒に食卓に出すように。彼は確かカレーに温玉を乗せたものが好きでしたね?彼は手の込んだものよりこちらの方が好きでしたからこのまま出してください」

「あ?なんだってそんな虚しいこと……」

「リシール様が今、こちらに向かっています」

 その言葉にピクリと反応するコウシン。厨房にいる使用人達も手を止めた。

「ヨルが風魔法を使って文字通り飛んでいるでしょう。早くしないと間に合いませんよ」

「てめぇ、それを早く言いやがれっ!」

 コウシンは喰い気味にセバスを罵倒する。そして部下に指示を出す。

「お前ら聞いたか!我らの姫様のご帰還だ!時間が()えから早急に取り掛かれ!」

「「「はいっ!」」」

 先ほどまで覇気すらなかった使用人たちの表情に生気が戻る。いっせいに準備に取り掛かる彼らはそれぞれ得意なドルチェを作り始めている。

「……お食事もお願いしますよ?」

 使用人達全員がドルチェを作り始めているため、セバスが眉を寄せてコウシンに声をかける。それにコウシンは口調は変わらないものの先ほどとは比べ物にならないほど上機嫌でセバスに答えた。

「姫さんは菜食なんだよ。子供のくせしてな!サラダの盛り合わせとカレー(温玉乗せ)なら飯には十分だろ!あとはドルチェのフルコースだ!」

「ヨルの好物もお願いしますよ?一応、旦那様の指示ですので」

 リシールの好物にしか興味と言うかやる気がなさそうなコウシンに一応注意する。リシールと違って同じ使用人仲間であるヨルに対してこの思いやりのなさと言うか気遣いのなさと言うか――。

 仕える者と区別していると言えば聞こえはいいが、なんだか投げやりだ。

あいつ(ヨル)はお嬢様と好みがほぼ同じだ!お嬢様ほど甘いものが好きってわけじゃ無い。が、甘党だ。ティラミスとかトルテを作ってる奴らもいる!さあ、わかったらお前も姫さん迎える準備をしやがれ!」

 そう言うや否やセバスを厨房からたたき出すコウシン。容赦の欠片もない。

(私もセッティングを始めますか。旦那様の指示通り、お嬢様とヨルが気兼ねなく食事できるように)

 セバスは気を引き締め直すとダイニングルームへと足を運ぶのであった――。

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