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とりあえず、平穏をください。  作者: 上条伊織
10/17

打ってたらいつの間にか日付変わってました。

これから試験週間に入るので、更新停滞します。


ご指摘あったので、書き換えました。

いずそう→嫌そう に変えました。

※「いずそう」は東北地方の方言で「しっくりこない」「収まりが悪い」といったような意味があります。

ご指摘ありがとうございます。

 アズベルが魔獣の群れに孤軍奮闘している最中――。

 リシールは至福に浸っていた。

「ふふふ、モフモフ~」

 リシールは秘境のような森の奥地にひっそりと建っていた城の広間へと降りる階段に腰かけていた。服はいつの間にか縹色のレースの切り替えが可愛らしいドレスに着替えさせられている。付けていた首飾りは外され、代わりにチョーカーのようなものが付けられていた。

 彼女の周囲には小動物の(なり)をした魔物が彼女を取り囲んでいる。

 一見すれば魔物が幼女を襲っている図だが、実際は違う。リシール自ら手招き、抱き寄せ、そばに置いている。

 彼女自身が魔物によるモフモフハーレムを築いているのだ。

「この子達、人懐こいね」

 リシールは隣に並び立つ烏の濡れ羽色をした長髪に輝く赤玉(ルビー)の瞳を持つ青年を見上げる。彼の頭には黒光りした山羊の角のようなものが生えていた。

「お兄さん、だれ?」

 モフモフに埋もれながら尋ねてくる幼女に魔王――オルシェは黙したまま頭を撫でてやった。恥ずかしかったのか頬を染めながらはにかむリシールに、オルシェはかつてまみえた精霊王へと思いをはせる。

 さきほど、魔物でありながら誇りを失いただの獣へと成り下がったものたちを送り込んだが、かの精霊王はすべてを掃討してくれただろうか。

 自分で処理してもよかったのだが、何分数が多かったのと就学前の幼子の前で粛清しては情操教育に悪いと思って丸投げした。もともと幼女を連れ込んだ精霊王が悪い。

 ふと、風が凪いだ。次いで吐く息が白く見えるまで空気が冷え込んでいく。

『魔王よ、我が主を返してもらおうか』

 本来のサイズになったアズベルが、オルシェたち魔族が集まっている広間へとやってきていた。

 リシールに群がる魔物たちを見たアズベルは問答無用で凍らせようとするが、オルシェが闇魔法で相殺させていく。

『オルシェ。貴様、ついに人間を襲う獣へと成り下がったか』

『ふざけないでください。まだ無垢な幼子の前で殺戮を行うなど情操教育に悪い』

 微妙に噛み合わない会話をする二人(一人と一匹)。アズベルは銀狼の本性の姿だが、オルシェは未だに人型だ。

『オルシェ。なぜ本性に戻らない?お前、本性の美しさが自慢だろう』

 ようやく頭の冷えたアズベルが不思議そうに問う。シュルシュルと身体を収束させ、子犬サイズまで戻る。

 小さくなった精霊王の姿を見とめ、魔王はいまだに魔物と戯れるリシールを見やった。

『あなたがそのような可愛らしい姿になるとは……。あの幼子のためですか?』

 精霊王の力は絶大である。普段彼が異界に引きこもっているのはその力は抑えようにも抑えきれないからだ。抑えれば、それは端からこぼれ出る。抑えつければ爆発したようにあふれ出るのだ。

 しかし子犬姿になったアズベルからは精々上級精霊までの魔力しか感じられない。

『いいや?リシールは我の本性に触れてきた猛者だ。見た目は幼子であっても、十分資質を持っている』

『そうか……』

 魔王は眩しそうに眼を細めた。彼の紅い双眸には空虚とわずかな羨望が見え隠れする。

『精霊王。あなたがあの子についたことで、世界のパワーバランスが壊れそうになるとは思わなかったのですか?すでに東の九尾が暴れようとしています』

 魔王がアズベルに目を向ける。アズベルは後ろ脚で耳を掻きながらそれを聞き流した。

『私とて、初代魔王の血を引く者。父の代よりあなたとのつながりは深い。あなたは今回、境界を侵した。わたしはそれを罰しなければ』

『リシールの情操教育に悪いんだろ?』

 にやりと子犬姿で器用に笑うアズベル。

 それに蠱惑的な微笑みを見せたのはオルシェだった。

『幼子の前ではやりません。前では、ね』

 オルシェの影がぶわっと広がる。それはオルシェとアズベルを取り囲んだ。

 真っ暗な空間の中、オルシェとアズベルの姿がぼんやりと浮かび上がる。

 オルシェは赤と黒の燐光に、アズベルは白と青、そして白銀の燐光に包まれている。

『いいですね、その白銀の光は……。何者にも穢されていない、純潔の輝きです』

 オルシェはうっとりとした顔でアズベルを見る。上気した顔は、とても人前には見せられないほど弛みきり、息遣いが心なしか荒い。

『リシールに近づくなよ。この危険人物』

 アズベルは思いきり引いたように言う。恍惚とした表情で自分越しに大切な人物のことを口にするのだ。気持ちのいいものではない。

『分かっていますよ、手は出しません。今は、ね』

『今だけじゃなく、永遠にするな』

『無理ですよ。貴方もわかっているのでしょう、精霊王。だからこそ、契約したのではないですか?』

 オルシェの言葉にアズベルは図星をつかれたように押し黙る。ただ白銀に変化した目で思いきり睨み付けた。

 オルシェは微笑を浮かべて、アズベルに手をかざす。

『私は、これからしばらく外します。人間界のことはどうでもいいですが、彼女を亡くすには惜しい存在です。護りなさい、精霊王。私の分も。……彼女と契りを結ぶのは、ほとぼりが冷めて彼女が求めた時にいたします』

 アズベルから赤い燐光だけがはがれ、アズベルにまとわりつく。アズベルはそれに嫌そうな顔をしたが黙ってそれを受け取った。

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